廻る、廻る―――世界は廻る。
かつての無力感を肥大させて、
俺を置いて、ぐるぐると。
その世界の真ん中で、俺は一人立ちすくむ。

それでも今日も、世界は廻る。


そして僕は 君が居ない事を識る


あの現世と尸魂界と虚圏を巻き込んだ、命懸けの戦いが終わって―――即ち俺の死神の能力及び霊力が喪失った日から、はや一年と数ヶ月。

あの別れ以来、ルキアは一度も空座町には来ていない。
もはや霊力を喪い、例え魂魄の整や虚、……死神を俺が認識出来なくても、それだけははっきりしていた。

むしろ、だからこそと言うべきか。

霊力を根こそぎ喪って、最初は今まで生きて来た世界が、根こそぎひっくり返されたと思った。
自分でそうなると判っていたはずなのに、本当の意味では理解してなかった。


―――俺は、霊が見えない世界を生まれて初めて体験した。


そして、俺はそんな世界の歩き方を知らなかった。


その世界は俺に違和感ばかりで、落ち着かない。


ルキアと出会うまで日常的にこなしていた事を、思い出せなくて、本当にアイツが、あの出会いが俺の世界を変えたのだと、実感した。

あれだけ自分の意思をもってやっていた勉強にも身が入らない。


結局事務的にこなすだけになり成績は落ちた。

何かやらなきゃとも一度は思い、バイトを始めてみたが長続きしなかった。

……この眉間の皺は、笑顔が必須な仕事は向かないと思い知った。

今は、鰻屋って何でも屋でバイトしている。

あそこは俺にとっては休憩所だ。

あの一件で巻き込んだ友人達は、記憶置換はされなかった。

だから……皆はルキアの事を覚えている。

でも、鰻屋にはルキアを知る奴は居なかった。

ルキアと出会う前の俺を知ってる奴も、ルキアと別れる前の俺を知ってる奴も。

今の俺しか知らないから、無意識に比べられたりしない。

戦友達も、クラスメイト達も、家族も無意識にだろうが比べてる。

そんな視線は、正直居心地ワリィ。

だからあそこは休憩所と思っている。

……まぁ、皆がそんな視線を向ける気持ちが理解出来ない訳じゃ無い。

俺は―――解ってやってるんだから。


成績はガタ落ち(それでも中の上)。

何やっても長続きしない、無気力状態。

目の前の事を怠惰に受け流して。

バイト代わりに、金とって運動部の助っ人なんかをやってる。

最初は急遽怪我人の代わりに引き受けたのに、そん時にやっていたバイトを助っ人に入った事でクビになり、気にした部の奴らがお礼と称してお金を払ったのが今に繋がってる。

大会、試合、良くも悪くも鍛えられちまった俺の運動神経や反射神経は、毎日部でコツコツ練習を積み重ねて頑張っている奴を、ちょっと本気になればあっさり上回る。

それはそいつらの努力を踏み躙る事だと、俺は理解している。


……だから、やめられない。


勿論、愉悦は欠片も感じない。



『私からは貴様の姿が見えているのだぞ』


……ああ。


『私の中の貴様は、そういう男だ!』


今の俺、顕らかにお前の中の俺とは違うだろ?


今の俺をアイツが見たなら、きっと黙って無い。

多分、第一声は『何をやっておるのだ、たわけ!』だ。

……『莫迦者!』もありうるな。

そんでもって何時かの様に、ちっこい身体をそうと感じさせない存在感で、ピンと背筋を伸ばして……むしろ踏ん反り返って、偉そうに腕組んで。

仁王立ちで現れる。


声を掛けられるより先に、飛び蹴りかもしれない。

あん時みたいに、往復ビンタのオプション付で。


もしルキアが空座町に来たなら、きっと俺を見に来る。
会う気は……多分無いだろうけど。

アイツは俺に死神の力を譲渡して巻き込んだ事を、人生をねじ曲げたと後悔していた。

なら、俺がちゃんと平和に元気に暮らしてるか、確認するだろう?

律儀な奴だし。

なぁ、ルキア。

……こんな俺は、お前の中にいる俺じゃねぇだろ?

こいよ、蹴っ飛ばしに。

一撃目は甘んじて受けるから。

でも、昨日も今日も、俺の身体には蹴りもビンタも感じられず、叱り付ける声も聞こえない。


だから今日もアイツは、ルキアは来ていない。


そして俺は、今日もルキアが来ていないと識るのだ。


――――――――――――

新章直前の一護の独白、のつもりです。

一護のスレっぷりというか、やさぐれっぷりに……マダオっぷりに理由があったらこんなんかなと。

まさしく自らをルキアさんを釣りだす撒き餌(笑)にして、大物狙いな一護さん。

……本当はあとちょっとつけるつもりだった文章があったのですが、只でさえ一護さんが病んでるっぽいのが、更に壊れそうで止めました。


つか、復帰第一作がこれって……(汗)。




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