雨音に消えた、母への呟き
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例年の如く、またこの日は雨になった。
ルキアは一人歩いていた。
隣に一護の姿は無い。
此方も例年通り、学校を休んで家族で墓参りに行った。
ルキアも誘われたが、遠慮させて貰った。
学校に行ったら、有沢に驚かれてしまったのがなんだか可笑しかった。
そして放課後。
ルキアは一人歩いている。
オレンジ色の明るい傘をさし、小さな花束を持って。
そして、目的地に着くとルキアは土手を降りていく。
少し拓けた所まで歩いて、膝をついた。
持ってきた花束を、そっと地面に置き、静かに手を合わせた。
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墓参りを終えた後、はしゃぎ倒した親父が妹二人を連れて家に帰った。
……今日だけは家に居づらくて、一護は町を適当にブラブラと歩いていた。
そして、一護が母を失った現場に近づいていた事に気付いて、更に眉間に皺を寄せた。
去年迄なら、踵をかえしていた。
しかし、一護は一歩ずつゆっくり歩いた。
その川原が見える場所まで来て、一護は目を疑った。
自分の視線の先に、見知った傘と、見馴れた背中があった。
今日、何度も誘ったのにルキアは到頭来なかった。
家族で行ってこい―――
そう言って一護達を送り出した。
お前も家族だと言おうとしたが、言えなかった。
もしかして、『家族』だと思う気持ちが一方通行だったらと、過ってしまったから。
だが、ルキアは此処に来ていた。
一護の目の前の小さな背中が立ち上がり、ゆっくりと去っていく。
入れ代わる様に、一護はルキアがいた場所へ駆けて行った。
足元には小さな花束。
咲いた二輪の赤いバラと3つの蕾。
白いラッピングペーパーに鮮やかなオレンジ色のリボンが映える。
黒崎一家を模した様な意図を感じて、一護は目を細めた。
そっと持ち上げると、先ほどは見えなかった中が見えた。
―――まるで隠したかの様にひっそりと。
紫の花が、小さな花が一輪収まっている。
花の種類は違っていたが、花束(家族)にちゃんと収まっている。
花を戻して、一護はルキアと同じ様に手を合わせた。
雨足が少しだけ弱まった気がして、一護はさしていた傘を閉じた。
そのまま、ルキアを追って駆け出した。
全身があっという間にずぶ濡れになる。
しかし、一護はルキアに向かって一直線に走って行った。
―――おふくろ。
雨は上がったと思ったけど、やっぱり俺は、あの日の雨に打たれてる。
でも、良いんだ。
今の俺には、ちゃんといるから。
居るって知ってるから。
濡れた俺に怒りながら傘をさしかけてくれるヤツが、居るって。
「―――ルキア!」
その小さな呟きは雨音に消して。
一護は前を行くルキアを大声で呼んだ。
振り返ったルキアの目が丸くなったと思ったら、みるみる吊り上がって―――。
「傘を持っていながらずぶ濡れとは、どういうつもりだ莫迦者ー!」
あわてて傘をさしかけて、取り出したハンカチで拭われる。
そんな事がうれしくて。
ルキアの傘に二人で入っていることなど忘れて、力一杯抱き締めるまで、後1分をも無かった。
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遅れましたが、真咲さんの命日のお話です。
かなり短くなりました。
だって気付いたの夕方だったんだよ(汗)。
私が持っている本では、6/9(真咲さんの誕生日)の誕生花がバラだったので、家族『愛』の象徴に。
一応、入っていた花もこんなんと辺りはつけてありますが、……花束には向かないので、秘密にします。
花言葉が『感謝します』だったはず。