受け身でなんかいられない


付き合い始めて、隣にいるのが当たり前だったのが、隣にいないと落ち着かないに進化してしまった。
隣を歩く男を見上げ、両手にハァと息を吐きかけた。
春めいてきたからと、手袋もマフラーも身につけず来たことを、ルキアはちょっと後悔していた。
春休みに入って、初めて一護と二人で出かけたのに、急な冷え込みが立ちはだかっていた。

「……」

ハァと、もう一度息を吐きかけた所で、隣を歩いていた一護が足を止める。

「……?一護?」

そのまま数歩先に進んだルキアが訝しんで振り返ると、目の前に一護の胸があった。
勢い余ってぶつかった。
……ぶつけた鼻が地味に痛む。

文句を言おうと顔を上げたら、一護が呆れた様な表情でルキアを見ていた。

そして、ルキアが何か言う前に、一護は自分が巻いていたマフラーをルキアに手早く巻いてしまった。

「ったく、寒いなら寒いってちゃんと言え」

「いや、これでは一護が寒いだろう!私なら、」

「大丈夫な奴はそんな何回も暖めようとしないだろーが。……良いから巻いてろ」

駅前のちょっと大きなCDショップに新譜を見に行くと言った一護に、便乗する形でルキアは付いてきていた。
目的を果たした二人は、ぶらぶらと歩いている途中だったのだ。

「ちょっと此処で待ってろ、すぐ戻るから」

ぽんとルキアの頭をひと撫でして、一護はどこかに行ってしまった。

ぐるぐると巻かれたマフラーからは、当然だが一護の薫りがルキアに届き、体温がじわりと上がる。
余計空気を冷たく感じて、ルキアはマフラーに顔を半分埋めながら、ひっそり悪態を吐いていた。

ふと周りを見渡せば、皆春休みなせいだろうか、街中を歩くカップルも少なくない。

「ほい」

声に振り向けば、一護がルキアの頬にぺとりと何かを当ててきた。

「うわっ」

渡されたのは、ペットボトルのココア。
ルキアのお気に入りの一品だ。

一護は缶コーヒーをあけている。

「すまぬ……」

「良いから早く飲めよ、冷めちまうぞ」

「うむ……」

どうも歩きながら飲むのが苦手なルキアは、その場で止まったまま、ペットボトルに口を付けた。
駅前のビルの壁にもたれて、一護もコーヒーを飲んでいる。

そう量も多く無いココアをあっという間に飲み干してしまい、ルキアは自分が思っていたより寒かったのかと漸く思い至った。

一護がゴミを捨てて戻ってくると、ルキアが街を歩くカップルに目を留めていた。
そのカップルはどこにでも居そうな感じで、格別変わっていた訳では無かった。
ただ、一護達がまだした事無かった事をしていただけで。

「あ、一護」

「……したいのか?」

「な、何をだっ?」

「アレ」

一護が示した先には、一組のカップルが腕を組んで歩いている。

「……私には、似合わぬよ。あんな、」

「そんなもん、やってみねーと分かんねーだろ」

ほら、やりたいなら、と一護が左腕を取りやすい様にしてくれたのを、ルキアはまじまじと見上げた。

仄かに染まった頬は、寒さか恥ずかしさか。
―――眉間の皺が3割増しだから、恥ずかしさかと、ルキアは判断した。
人前で手を繋ぐのも恥ずかしがる一護が、随分と頑張ったものだと思いながら、その気持ちに応えようと、ルキアは一護の左腕に、自分の右手を伸ばした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

結局街中をぶらぶらしてから、二人は帰路についていた。

「……綺麗な夕焼けだな」

川沿いの道を並んで歩く。
川原の菜の花の黄色と夕焼けが、とても綺麗で、思わず足を止める。

二人は腕を組んだままだった。

「で?ご感想は?」

「?」

「腕、組んでみたかったんだろ?」

言われて、ルキアはマフラーに顔を埋めた。
赤くなった顔を隠すのは、逃げをうった様で面白くないが、この際利用させて貰った。

「……悪く、は無い」

事実、ちょっと新鮮な気分でルキアとしては不満は無い。

「一護こそ、どうだったのだ?」

そう聞いたら、一護はぷいっとそっぽを向いてしまう。

「そーだな……確かに、悪くない、な」


―――そこ迄は良かった。


「お前が大人しくついてきてくれたし、な」

―――余計な一言が、無ければ。

そんな一護にルキアは、組んでいた腕を離し、ギリッと睨み上げた。

「だから、俺は腕組むのより、―――ん?ルキア……?」

「普段は大人しく無くて悪かったなっ!」

叫びと同時に、強烈な一撃を腹部に放って、ルキアは踵を返した。
痛みに蹲る一護をそのままに、軽やかに駆け出した。
一護は痛みに呻いたが、それを堪えて立ち上がる。

「……ったく、人の話は最後まで聞けってんだ」

確かに、悪く無かった。
むしろ良かった。

でも、今までの自分達の形は、ルキアが何時でも一護を振り回し、そんなルキアに一護がなんだかんだ言いながらも付き合うと言うモノで。
違和感をちょっとだけ感じてしまったのも、また事実だったのだ。

いつものルキアなら、興味を引かれる物を見つければ、一護に構わずそっちへ向かう。
いつあっさり離していってしまうのではないかと、気が気じゃなかったのだ。


しかし、今日の事で新たな形を知ってしまった。
どちらも適える為には、次は一護から頑張らなくてはならない。


ルキアが掴まってくれるのもいいけれど、やっぱりまだまだ自分の手で捕まえて置きたいから。

次は手を繋いで、並んで歩く。

そう決めた一護は、ルキアを追って走りだした。
この道の先にいる、へそを曲げてしまった彼女の機嫌をどうやって直して貰うか、シュミレーションしながら。



掴まっててなんて、受け身でなんかいられない。
捕まえとかなきゃ、落ち着かない。
―――離してなんか、絶対やるか。



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天麻凪様のお誕生日に献上したお話。
思い立ってからの時間があまりにも短くて、私には珍しくSS(笑)。

機嫌を直してもらうには、白玉より素直にぶちまけるのが効果的かと思いますけど……難しいか(苦笑)。

HAPPY BIRTHDAY天麻凪様


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