番外:死影灯の休日
死影灯の休日は、主のご機嫌伺いから始まる。
まだ日が出ない内に幽冥館を訪れた死影灯は、独りでに開いた外門を通って仄暗い廊下を進む。
壁に掛けられた、蒼い蝋燭の火が照らすのは古びた絨毯。しかも点々と血の跡らしき染みが伺え、死影灯はやれやれと溜息を吐いた。
主の部屋の前まで行くと、また独りでに扉が開く。
中に入れば、窓縁に腰掛け此方にうっすらと微笑む主の姿。
「起きてたのか?」
「えぇ。眠るのも素敵だけど君が来ると分かっていたから」
主、冥臣・檜扇は軽やかに床に降り立つと絹糸のような長い髪を揺らして俺の目の前まで歩いてくる。
「ちゃぁんとあの子のこと見張ってる?
駄目よ、情など移しては…ね」
「俺が情など移すはずがない。
それと、この城の趣味は何とかならないのか?
絨毯は血で汚れているし、新調なり何なりすればいいだろうが?」
「…死影灯は死が嫌い?」
主は死に執着し、死を夢見る。
それは主が不死人であり、決して味わうことの出来ない死に憧れているからであるが、些かこの城の趣味は可笑しいと思う。
普通、女はキラキラと光る物が好きなはずだし、煌びやかに飾りたてるはずだ。
なのにこの主ときたら、従者はみな屍や妖で、曰く付きの家具ばかり集めるという変人で、この城自体昔虐殺があってで…
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