悟史と詩音
先生と生徒パロ。「雪の果のむこう」の続きっぽく。これ単体でも大丈夫なはずです。園崎家がものすごい悪者なので閲覧注意








(寝た、かな)
ようやく隣で寝息をたてる恋人の前髪を掻き分けて。頬には乾ききらない涙のあと。彼女は、一緒に暮らしはじめてから、今日初めて涙を流した。




今日、正式に結婚の許しを請いに園崎家を訪ねたが、門前払いだった。詩音は辛そうではあったけれど、無理して笑っていた。その眉毛は、悲しそうな角度に、下がっていた。
後から彼女の双子の姉の魅音が追いかけてきて、おめでとうと言った。園崎家のやつらは私がかならず説得するから、だから詩音は必ず幸せになってね。そう詩音の手を強く握る魅音は目を潤ませていて、それで詩音は幾分か嬉しそうに、小さく頷いていた。
先生、詩音をよろしくね。かつての生徒会長にそう言われ、僕も頷いた。
帰ってきてから、詩音はソファーに座り込んで膝を抱いて、ちいさくなって俯いていた。僕の作った夕飯も、食べられなかった。
それなのに、泣こうとはしない。
僕はそんな詩音に、ちょっと早いけど寝ようか、と声をかける。
詩音はちょっと悲しそうな瞳で笑って、ちいさく頷いた。

隣で目を閉じる詩音の頭をそっと撫でれば、彼女は薄く目をあけて、小さく笑う。
「…園崎さん」
そう呟けば彼女は身体をちいさくぴくりと震わせた。彼女はそう呼ばれるのを嫌がる。嫌がる、というか、怖がってると言ったほうが良いのか。卒業して、僕が堂々と詩音、と呼ぶようになって、彼女はとても嬉しそうだった。
「我慢しないで、泣きなさい」
ちいさく呪文のように唱える。そう、彼女が生徒で、僕が先生だったころのような、口調で。そうしないと彼女は泣けないとおもった。
「…、っ、せん、せぇ…」
彼女のかたちのよい眉毛が、ふにゃりと歪んで、何の前触れもなく大きな瞳から、ほろほろと涙が落ちて、白い枕に染みをつくる。
「せんせ、っ、せんせぇ…っ!」
悲しい声が、部屋の空気を震わす。よしよしと頭を撫でてあげると、彼女はきゅうっと僕の胸に頭を埋めて、声も出さずに泣いた。




僕は彼女の背中を一定のリズムで叩いてやりながら、幼いとき入江先生に歌ってもらい、そして妹に歌ってあげていた子守唄を歌う。彼女は照れくさそうにあかく泣き腫らした瞳を細めてうとうととまどろんでいた。

「ね、せんせぇ」
「ん?」
「だいすきです」
「ぼくもだよ、」







(なつかしくやさしいこもりうた)

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