彼がわたしに触れるとき、その指は微かな震えをもって伸ばされる。頬にふにゃり、と心地よい感触。私は頬を撫でる彼の手をきゅ、と握る。瞳を震わせながら、彼の顔を見つめる。彼の赤い、夕陽のようなやさしい瞳に、私が映る。
わたしのちいさな掠れた声が、のどから吐き出され、いとしいひとの名前の響きになる。それに、目の前の彼は、なあに?と目を細めて返してくれるから。
私は、私のため息は、幸せに震える。触れ合う手のひらから溶け出す熱と一緒に、幸せまで、溶け出してしまわないように。私は彼の手をきゅうと強く強く、握りしめる。
もうどこにも行かないで、ちいさく呟いた。背筋が、寂しくて震える。うつむく私の、いくら幸せになったって耐えることのなくなってしまったこの不安を、彼は白いシーツと私と、愛しさとぜんぶぜんぶ、ひっくるめて抱き締めてくれた。白い私と白いあなた。白いシーツに包まれて、まるで天国みたいだ、と思う。
「もし、ぼくが次に、どこかに行くとしても、」
唇に軽く、彼の指が触れる。
「…つぎは、君を、連れていくから」
引き寄せられ、触れ合う唇と吐息は、どうしようもなく、震えていた。




20110225

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リゼ