※パロディ(詩音→生徒、悟史→先生)です。ご注意ください。
「ねぇ、先生」
夕暮れの教室で、私は担任の北条悟史先生と面談の真っ最中だった。北条先生は大学を卒業してまだ2年。若いせんせい。
「このまま夜になって朝がきて、誰も学校に来なくて…それで私たちが世界でふたりきりだってわかるんです。そしたらせんせいどうします?」
「どうする、って言われても、なぁ…」
北条先生はむぅ、と困った顔をしてみせた。ああ可愛い、大好きですせんせい。
「難しいこと言うんだね、園崎さん」
そう言って北条先生は私の頭を撫でる。このあたたかい手のひらが大好き。家を飛び出して、雨に打たれてどろどろになっていた私を先生が助けに来てくれたときから、私はせんせいに恋しています。でもね、せんせい。なんで園崎なんて、名字で呼ぶの?私は、私の名字、だいきらいだって、知ってるくせに。それに、C組のお姉と見分けつかないじゃない。
「ねぇ、せんせい」
無理言って進路相談の面談の順番をいちばん最後にしてもらったのはね。
「私の夢はね、お嫁さんになることなんです」
「へぇ…、女の子だね」
「だからせんせい、私と籍入れてください」
「…は?」
「そうした夢が叶うもの。担任としてそのくらい当たり前でしょう?」
にっこり微笑んでみせれば、北条先生は顔を赤くしてうろたえていた。
「なんてね、」
冗談ですよ、からからと笑ってみせる。本当のこと、だけど。せんせいのお嫁さんになりたいな。冗談にしなくちゃ、言えない、臆病なわたし。先生はきっと、むぅ、と唇をとがらせて、園崎さんにはからかわれてばかりだなぁ、なんて言うんでしょう?
「え?…冗談、なんだ」
(…ふぇ?)
顔をまっかにしつつ、びっくりしたようにそう聞き返してくる先生。
「…せんせい?」
先生の顔を見上げれば。先生は顔を仄かに赤らめつつも、目を細めて、にこり、笑って。
「…北条さん、」
そう私のみみもとで囁いてくる。私は頭のてっぺんから足の先まで熱くなって、真っ赤になった。
せんせいはずるい。こんなときだけ、大人の男のひとの瞳になる。せんせいは私の瞳をみつめて。
呟くように、ちいさく唱える。
愛しい、ということばをそのまま音にしたような響きの、声。「…に、なってみる?」
私はちいさく、こくりと頷いた。
ひみつのやくそく
(ああ卒業が待ち遠しい!)