夏の朝。蝉のこえ。不意に泣きたくなって、見上げれば青空。
「梨花」
後ろから羽入が追いかけてきた。つぅ、と涙が、頬を伝わって。
「世界って、こんなに美しいのよ」
蝉の、声も。青い空にのびる飛行機雲も。道端の白い花も。すべて。昔は、繰り返す夏の象徴で、うっとおしいだけのものだった、けれど。今では。どうしてだろう、こんなにも愛しい。この、世界が、地球が。
「梨花…」
羽入が隣に立つ。手を、繋いだ。
「みんな、生きてるのね」
「…そうなのです」
みんな、生きてる。
この地球上で、幾憶、幾兆ものいきものが。私も、羽入も、みんなも。そんなこと、ただそれだけのこと。簡単なこと。それが今なら、奇跡だと、感じる。
「羽入、大好きよ」
「僕もなのです」
「それから、沙都子も、圭一もレナも、魅音も詩音も、悟史も、知恵先生も、それから、それから…」
精一杯腕を広げる。
此の地球で生きてること。
此の地球で、たくさんの命に囲まれていること。
愛しくて、感謝したい。
夏のある朝
(あなたと私と、それから)
――――――
木村弓さん「いのちの名前」を聞いていたら、衝動的に。
すてきで、良い曲です。