12…【手と手が触れた絆】
2011.07.09 Sat 22:23
【手と手が触れた絆】
咲夜華が住むマンションのオートロックを解除するナンバーを登録変更しているのでは…と思いつつ私が知る解除ナンバーを打つとオートロックは呆気なく解除された
咲夜華はオートロック解除ナンバーを登録変更することなく私が知る解除ナンバーままだった事に私はホッとした
3ヶ月程前、親友と思っていた咲夜華に拒まれてから久しく訪れていなかった私は、もし解除ナンバーが登録変更されていたら自分と咲夜華の事を諦めようとも思っていた…咲夜華に拒まれる前の私達に戻れる自信がなかったからだった
私はホッと心を撫で下ろし咲夜華の部屋がある5階のエレベーターのボタンを押した
『久しぶりに何話そうかなぁ・・・』一人微笑みを浮かべ、咲夜華の部屋がある503号室のベルを鳴らした
“ピンポーン…”聞き慣れたベルの音が鳴り響く…が一向にドアの向こう側から人の気配がない
『あれ?留守なのかなぁ・・・』503号室の部屋の前で小首を傾げた、この咲夜華が住むマンションはかなりセキュリティーが進化しており、部屋の持ち主が留守な場合は持ち主以外の来客者が外から勝手に解除出来ないようになっている…事を咲夜華が私に自慢気に話していた事を思い出すと503号室の持ち主、咲夜華が部屋にいる事は明白である
『どうしたんだろう・・・?』と何気にドアノブに手を伸ばした瞬間、鞄の中から携帯の着信音が鳴り響いた
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着信画面を見ると“橋倉主任”と表示されていた
『橋倉主任・・・?』私は小首を傾げつつ電話に出ると、聞き覚えのある声が受話器の先から聞こえた
‘「今、安斎さんのマンションのオートロックの前にいるんだが、解除の仕方が分からなくてね…
私も一緒に春咲ちゃんと安斎さんのお見舞いをしようと思って…駄目かなぁ?」’
先日、私が“「今週の日曜日にでも行こうと思っていたので…」”と言ったのを橋倉主任は何気に聞き直していた事を思い浮かべ
『ハハ…私が咲夜華のマンションに今日行く事を知っててわざと・・・』と橋倉主任の問い掛けにどう返答しようか戸惑っていると受話器の先から
‘「やっぱり…上司の私が一緒に見舞いをしたら…やっぱり迷惑だよねぇ…
ごめんね…春咲ちゃん」’
と少し寂しげな声で言った後、電話を切ろうとした橋倉主任に私は
「橋倉主任・・・別に迷惑ではありません
オートロック解除ナンバーは“0088503”です・・・オートロックの自動ドアが開きましたら、手前にあるエレベーターの5階ボタンを押して上がって来て下さい」
と言って私から電話を切った数分後、橋倉主任は満面な笑顔を浮かべ私の前に現れた
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「春咲ちゃんばかり安斎さんのお見舞い行ってもらってばかりじゃ駄目だと思ってね・・・
春咲ちゃんが安斎さんのお見舞いに行く時に一緒に行かさせてもらおうと思って・・・……ごめんね、気を使わせちゃって」
と言いながら、橋倉主任の表情はニコニコと笑みを浮かべている
橋倉主任が此処に来た目的は咲夜華のお見舞いと思うが、本来の目的は違うところにあるように私には見えた
「さぁ・・・ベルを鳴らすよ」
とドア横のボタンに手を伸ばした主任に私は
「安斎さん・・・留守みたいなんです・・・……
主任が此処に来られる前に鳴らしてみたのですが・・・人の気配がなくって」
と苦笑いを浮かべると主任は
「え!?それはおかしいね・・・……
この手のマンションのセキュリティーはマンション使用者が留守な場合、解除ナンバーを打っても勝手に解除されないようになっているんだけどねぇ・・・」
と言う主任に私は
「はい・・・……
以前、安斎さんからそのように聞いたので・・・おかしいなと思って」
と苦笑いを浮かべる私に主任は
「そっか・・・じゃぁこのマンションは防音にも優れているのかもしれないね・・・
普通なら、私と春咲ちゃんがこう喋っているのが安斎さんにも聞こえている筈だからね」
と言う主任に私はコクリと頷き
「そうだと思います・・・……
以前来た時も、隣近所の物音が聞こえてきませんでしたから」
「なるほど・・・……
じゃぁ、さっき春咲ちゃんがベルを鳴らしても・・・中からの応答もなく、人の気配も感じられなかった・・・という事は、再び私がベルを鳴らしても・・・応答はないかもしれないね」
と言う主任の遠回しに言う問い掛けは“私(叉は私達)がお見舞いに来ている事を知っていて居留守を使っている”という事になる
『咲夜華はわざと・・・』という事に私はショックを感じた、やはり…私は咲夜華に避けられている
私は主任に感じ取られないよう、瞳に溢れた涙を拭った
「じゃぁ・・・春咲ちゃん、ドアを開けるよ・・・……」
と言うと、主任は咲夜華が住むマンションのドアノブを回した
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咲夜華が住む503号室のドアは少し錆びているのか独特の音を響かせて開いた
“「お邪魔します…」”私と主任は小さな声でそう言った後、靴を脱ぎ上がった
咲夜華が住むマンションの部屋の間取りは、玄関から入って直ぐトイレ、向かい合わせにお風呂と洗面所…そして、リビングに続く少し長めの廊下の先には防音に優れているドアが有り、ドアの中には1人暮らしをするには少し大きめのキッチン(対面式)にリビングと咲夜華が寝起きをする寝室があった
私と主任は物音をなるべくたてずに廊下を歩いて移動した
何故…そうやって歩いたのか分からない、ただ…そうやって歩いた方がいいとこの時の私達は思った
“「じゃぁ…行くよ」”主任が自分と私に声を掛けた後、リビングに続くドアノブに手を伸ばそうとした瞬間、中から笑い声のような物音が聞こえた
“「え!!?」”私と主任はお互いに顔を見合わす
中から聞こえる笑い声はまさしく咲夜華の声だったが、普通の笑い声よりかなり違っているように私には聞こえた
「キャハハハハハ・アハハハハ!!気持ちいぅい〜
早くぅ〜おま○この中に入れてぇ〜」
主任がドアを開けた瞬間、卑猥な言葉が耳に響く…聞き慣れない言葉に私はその場から動けないでいた
“「
春咲ちゃん…大丈夫?」”あの聞き慣れない卑猥な言葉に免疫でもあるのか主任は身動き出来ない私の方を向き小首を傾げた
“「
先に行って…見て来ようか?」”身動き出来ない私に主任は苦笑いを浮かべた後、主任はなるべく物音をたてずに歩き始めた姿を私は見つめるしか出来なかった
足が竦(すく)んで歩き出す事が出来ない私の身体は、この先で繰り広げている光景を知っているようだった
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私が立ち竦んでいる所からリビングの様子を窺(うかが)う事が出来ないが、常にリビングからは咲夜華の狂乱したような笑い声と卑猥な言葉が飛び交う
私は両手で耳を閉じその場にしゃがみ込んだ
「な、何をしているんだ!?吉川Dr」
『え!!?よ、吉川Dr?』耳から両手を放し、未だ窺う事の出来ないリビングに向けて視線を移した
『な、何故・・・吉川Drが咲夜華のマンションに?』男性遍歴の激しい咲夜華が唯一、興味を持たなかった新人Drの眼科医吉川Drの名前が主任から発せられた事に1人小首を傾げていると、吉川Drのものと思われる声が主任の問い掛けに答えた
「何をしているんだ・・・てか?
ククク…見て分かりませんか事務主任・橋倉さんよ・・・……なぁ咲夜華、俺達が今・・・何をしているのか、このお馬鹿な主任さんに教えてあげなさい」
「アハハハハ!!はぁ〜い、今ぁ〜私はぁ〜・・・交尾!!セックスをしてまぁ〜す
気持ちよくってぇ〜・・・ねぇ〜・・・主任ぃ〜ん・・・アハハハハハハハ」
咲夜華の卑猥な言葉が飛び交う中、咲夜華と吉川Drはリビングで大胆にもsexを行っているようだった…それも主任の目の前で
私は信じられなかった…私が知る咲夜華は男性遍歴が激しかったが自分の好みにはかなり厳しくプライドがあった為、“気持ち悪い”と口にした吉川Drとそういう仲になるとは思わなかった
その場にいたくない…と思い始めた瞬間、吉川Drの声が、言葉が一番聞きたくない名前を出した
「おやおや・・・……
ククク…橋倉主任さんはまだ分かっておられないようだ・・・この状況が
ククク…なぁ東ぁ〜どう思う!?この状況が分かっておられない橋倉主任さんはいい年齢(とし)こいて童貞のようだよ」
『あ、東!!?に、兄さん・・・……
がいる?』足が竦んで一歩も歩き出す事が出来なかった私の足が、兄の存在を耳にした瞬間、急に軽くなったような気がした
「ほぉ〜・・・その年齢(とし)で童貞!?
ククク…天然記念物に匹敵するよ・・・……
なぁ・・・そう思わないか・・・……キッチンの影で足が竦んで動けない・・・我が・い・も・う・と・・・春咲」
「へぇ〜・・・春咲ちゃん、此処に来てたんだぁ〜、知らなかったなぁ〜
流石だな・・・東、此処からじゃぁ死角で見る事が出来ない春咲ちゃんを正確に感じ取る事が出来るなんて・・・世界広しと言ってもお前らぐらいだよ」
「クク…出ておいでよ
可愛い・・・我が妹・・・春咲、ククク…アハハハハハ」
兄の“「出ておいでよ…」”と言う言葉に操られるように私の足は一歩一歩と歩み出した…主任の“「来ちゃ駄目だ!!」”と言う私を守る言葉に耳を貸さずリビングが一望出来る主任の後ろまで歩み寄った
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