11…【親友から拒まれた気持ち】
 2011.06.14 Tue 22:34
“「私が気付いてきた生活を壊さないで…」”と咲夜華のマンションに行った日に言われてから早3ヶ月、私は咲夜華のマンションに行こうとしなかった

自分が包み隠さず話す事が出来た親友の…今まで気付いてきた生活を壊す原因になると思うと、どうしても行く気にならなかった



「安斎さんが休み始めてから3ヶ月が経ったんだね・・・
春咲ちゃん、安斎さんの調子はどう?いつ頃復帰出来るか聞いといてくれる?」

昼休みが終わって直ぐ、私は橋倉主任に呼ばれ会議室にて咲夜華の事を問い掛けられた
私は苦笑いを浮かべ

「分かりました
今週の日曜日にでも行こうと思っていたので・・・その時にでも聞いてみます」

と主任の手前そう応えたが内心は“行こうか行くまいか”と考えていた私の肩を主任は軽く叩き

「今週の日曜日だね・・・
頼むよ・・・春咲ちゃん」

と微笑みを浮かべ私を残し主任は一人会議室を後にして行った

一人になった会議室で私は小さなため息を吐いた



※兄視点…

「先生・・・この前打って貰った注射、よぉ〜く効きましたぁ・・・
先生・・・次回の手術をお願いします」

よく外来に来ていた患者に3日後に膝の手術を行わられる事が決まり、担当医の俺は患者が利用している病室で簡単に手術の説明をすると患者は俺の両手を軽く握り“「お願いします!!」”と繰り返し何度も頭を下げる…俺は軽く微笑みを浮かべ

「一緒に頑張りましょう・・・坂口さん」

と言うと今度は“「ありがとうございます!!」”を繰り返していた
この患者に行われる手術は年齢を重ね使い過ぎてしまった膝を人工関節に換えるという典型的な整形外科の一般的な手術である

自分の両手を握って放そうとしない患者の両手をやんわりと外した後、軽く頭を下げ終始微笑みを浮かべたまま、病室を後にした



昼食後…休憩をとろうと食堂から歩く廊下の先から不適な笑みを浮かべつつ歩いて来る吉川に俺は心中で舌打ちをしつつ話し掛けた

「ニヤけながら歩いて来るなよ・・・気持ち悪い」

「ククク…相変わらずキツいお言葉・・・ありがたく頂戴するよ!!
それはともかく今夜、行かないか・・・あの女の所に」

と言う吉川に俺はため息を吐いた後

「今夜は遠慮させて頂くよ・・・……
明後日は生まれて初めての膝関節の手術を出頭するからね」

と吉川の誘いを断る俺に

「ほぉ・・・珍しい
わざわざ明後日にする手術の予習をするってか・・・お前らしくない
!!それとも何か、その膝関節の手術に自信ないとでも言うのか?」

と人を馬鹿するように言う吉川に俺は再びため息を吐いて

「お前だって知っているだろう・・・俺の専攻は外科と言う事を・・・……
外科は外科でも整形外科と外科は勝手が違う・・・特に、膝関節の手術は整形外科では一般的なものだが外科の手術とは違うんだ・・・少しは予習をしておかないと」

と言う俺の肩を馴れ馴れしく叩いた後

「大学で常にNo.1だったお前の口からそんな言葉が聞けるとはね・・・……
ま、頑張れよ!!俺は影ながら応援するから」

と手を振りながら“「じゃぁ〜な」”と言って吉川は俺の前から去って行った
吉川はあの…例の女の虜になっている、あの魔性の女好きの吉川が

『ククク…お前の方が・・・お前らしくないよ、一人の女にのめり込むとはね』自然と不適な笑みを浮かべている俺がいた



※兄視点続き…
昼休み直後…俺は午後の外来で使う薬を補充する為、薬剤室に向かおうと廊下を歩く途中、どっかの部屋の前を何気なく通り過ぎようとした瞬間、ドアの曇り硝子に人らしき影が映り、俺は何を思ったのかとっさにその場に隠れた

『ん!?か、会議室・・・か、ククク…俺は何を意味して隠れているんだ』苦笑いを浮かべつつ隠れ続けていると会議室の中から聞こえる声に聞き耳をたてた


「安斎さんが休み始めてから3ヶ月が経ったんだね・・・
春咲ちゃん、安斎さんの調子はどう?いつ頃復帰出来るか聞いといてくれる?」

『ん!!?春咲・・・ちゃぁん・・・……!?』思いがけない名前の後に“ちゃん”を付け馴れ馴れしく呼ぶ男らしき声に俺は眉の間に皺を寄せ不快感を感じている自分に気が付いた

「分かりました
今週の日曜日にでも行こうと思っていたので・・・その時にでも聞いてみます」

『今週の日曜日に・・・何処かに行く?
その・・・男とか?春咲・・・』再び深い皺が眉の間を寄せ舌打ちをして直ぐ、先程の表情と打って変わって一人微笑みを浮かべ

『は!!?さ、さっき・・・安斎とか言ってなかったか?』俺の脳裏に“安斎”という苗字の名を持った人物がいたかを思い浮かべ…そしてその人物の名に俺は初めてニヤリと笑みを浮かべた

そして…俺は立ち上がり歩き始めた…春咲が自分以外の男と会議室という密室の中で二人っきりで話しているのか検索もせずにその場を後にする事が出来た自分自身に驚いていた…



−−−−−−−−−−
日曜日前日…橋倉主任から長期休日をとっている咲夜華の様子を問い掛けられ私は“「日曜日にでも行ってみます」”と曖昧な返事を返してしまった結果、親友の家(マンション)に行く事が自分自身にとってこんなにも憂鬱な事なのか…と一人アパートの一室で苦笑いを浮かべつつため息を吐いた


築25年の私が住むアパートは6畳一間のフローリングに小さなキッチンが付いた小さなアパート、築25年という事もあって私が此処に引っ越す前の年にリフォームし畳6畳から今風のフローリング6畳になって狭いながらも使い勝手のいいアパートである
そのフローリングの上にガサッと置いたスーパーの袋の中には、明日行く事になってしまった咲夜華への土産が入っていた


『なんかなぁ・・・』明日は咲夜華のマンションであまり長居は出来ないだろうし…この仕事帰りにわざわざ買って来た咲夜華への土産も前の時のように無駄になるかもしれない…と思いながら、後で自分が一人食べても大丈夫な物にした事に苦笑いを浮かべた

『クス…私って・・・よっぽどマンションに行きたくないのね・・・』ため息を吐いた後、私は粗末なパイプベットに横になった



次の日…PM14:00頃アパートを出た
咲夜華への土産は仕事場(病院)からアパートまでにある小さなケーキ屋さんのバームクーヘンで、こうなってしまう前の咲夜華が“「美味しい」”と絶賛し一時虜になったぐらい美味しく、近所でも有名なケーキ屋さんの可愛い袋を片手に最寄りの駅から電車に乗った

咲夜華が住むマンションの最寄り駅行きの電車はラッシュ時ともなると大変混む事で有名で、よく痴漢が出没する事で有名だった
そんな電車でもラッシュ時以外は座席もすいていて悠々自適に座る事が出来、私は愛用の小さな鞄とバームクーヘンが入った袋を座席の上に置くと目の前を流れる風景をボーっと見つめる…咲夜華が長期休日をとるようになって早3ヶ月季節は春になっていた

『はぁぁ・・・気持ちが良いなぁ〜』電車の座席に座った私は軽く伸びをした…咲夜華の最寄りの駅まで片道約20分、少し開いた窓から春の気持ち良い風が入ってきて私の憂鬱な気分を忘れさせてくれた





20分後…午後3時、人数の少ないホームに降りた私は何気なくキョロキョロとホーム内を見回し、そして深呼吸をした私の視線に一瞬…見覚えのある人物の後ろ姿を見付けた

『に、兄さん!?』春風が頬を撫で私の憂鬱な気分を忘れさせてくれた仕草も、一瞬…私の視線に映った兄と思われる人物の後ろ姿を見かけた瞬間、先程までの麗(うら)らかな気分から言葉では言い表す事が出来ない程の不愉快な気分を感じた

何故か自然と兄と思われる人物の後を追いながら、心中で小首を傾げた…私が知る兄は“ど”が付く程の病的な潔癖症な為、兄が公共機関を利用する事はないに等しい…例え公共機関を利用しないと行く事が出来ない場所だとしてもなんとか自分の愛車で行こうとする、電車のような公共機関は最後の最終手段として利用するのが兄で好んで電車に乗ろうとは思わないだろう(但し、私の時は潔癖症ではなくなり…例え私の使用済みで洗っていない下着でも素手で普通に触る)
そんな兄と思われる人物の後を追う私は“『もしかしたら…前を歩く人物は兄ではないのかもしれない』”と思い始めた頃、私が追う人物は私が向かう方向と別の方に向かって歩いて行っている事に気が付いた

『は!!咲夜華のマンションに行かなきゃ』今まで追っていた人物から離れ、私は咲夜華のマンションに向かって歩き出した





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