6…【私の運命・貴方の運命】
2010.10.08 Fri 23:06
【私の運命・貴方の運命】
あの…川口Drに襲われ掛けた一件から私が川口Drの診察室に一人で出向く事を渋った橋倉主任だったが“「これも…私の仕事ですから…」”と言う私の言葉を聞き、主任という立場上“否”とは言えず私を渋々送り出したのだった
「私を・・・し、心配してくれた事はとても感謝しています・・・
ですが、もうそろそろ・・・放して下さいませんか」
川口Drの診察室から私が事務所に帰るのを…今か今かと待ちわび、私が事務所に帰って来た瞬間、抱き締め…安心した主任は私の背中に回していた手は…背中を這い回った挙げ句、私のお尻まで触っている
「え!!?なんで・・・?」
『え!!?なんで・・・て!?』“「放して下さい…」”と私が言うと主任から思いもかけない言葉が返ってきた
「しゅ、主任・・・い、今はし、仕事中です!!」
『なんで・・・私が上司にこんな言言わないといけないの・・・』と心中でため息を吐いた
「春咲ちゃん・・・僕はとても心配したんだよ・・・
こ・・・上司の僕が部下の春咲ちゃんを・・・心配するのは当たり前じゃないか!!
それとも・・・上司の僕が部下の春咲ちゃんを心配することは・・・春咲ちゃんにとって・・・迷惑だったの・・・」
『“「迷惑です!!」”て言いたい・・・』自分の不甲斐(ふがい)なさに心中でため息を吐いた後
「め、迷惑・・・ではありません・・・むしろ、感謝しています・・・
ですが・・・状況を・・・いや、場をわきまえて行動に出てほしい・・・と私は言いたいんです・・・私が言っている意味・・・分かりますか?」
と私が言うと主任はやっと私を抱き締めていた腕を緩めた
「ごめんね・・・春咲ちゃん・・・当たり前な言を言わせちゃったね・・・
ちゃんと・・・今は場をわきまえないといけないね・・・……」
意味有り気な言い方を言った後、主任は私を解放した
→
昼食時…
いつもなら、自分で弁当を作って会社に出社するのだが、今日は急に主任に呼ばれた挙げ句…休日出勤をするはめになった為、弁当は愚かコンビニにもよる時間が無かった
『どうしようかなぁ・・・』掛け時計に視線を移すとPM0時をちょうど回ったところだった
『お昼休みになったら・・・病院近くのコンビニでも行こ・・・』私は小さなため息をした
PM0:30…
「あ、あの・・・橋倉主任」
妙に緊張する気持ちを抑え、私は主任に話し掛けた
「お弁当を持ってくるのを忘れたので・・・今からコンビニに買いに行ってもいいですか?」
と愛用の手提げ鞄を手に外出許可を貰おうとすると、主任は微笑みを浮かべ
「駄目だよ・・・春咲ちゃん」
"「え!!?」"と不意に返事をすると
「わざわざ・・・コンビニなんかに行かなくっても、僕が作った・・・お手製の手作り弁当があるから・・・春咲ちゃんも一緒に食べよ・・・」
と言う言葉と同時に主任は鞄の中から、手馴れた仕草でお弁当を机の上に並べ始めた
「さ!!春咲ちゃん椅子をここに持ってきて、一緒に食べよ!!
遠慮なんかしなくてもいいよ!!本当は小林君と一緒に食べる予定だったから・・・いつもより量も多めだしね」
"「は、はい…」"と苦笑いを浮かべた後"「頂きます…」"と言って、主任のデスク近くの椅子を運び…主任と向かい合わせになって、私は主任が作ったお弁当を食べ始めた
「味の方はどうかなぁ・・・美味しい?
春咲ちゃんと一緒に食べるんならもっと・・・見栄えのいい・・・お弁当を作ってきたのになぁ・・・」
と言う主任に私は微笑みを浮かべ表情で返事をした
「味付けもちょうどいいし・・・……
とても美味しいです」
「良かった・・・春咲ちゃんのお口にあって・・・」
満面の笑顔を浮かべた後、主任は自分が作ったお弁当に箸を付けた
正直言って…主任が作ったお弁当は私の人生で初めて…と口にしてもいい程、とても美味しいお弁当だった
自分が毎朝作ってくるお弁当を思い浮かべ…妙に羞恥心を感じ心中で苦笑いを浮かべるしかなかった
咲夜華の巧妙な企みで主任と二人っきりの休日出勤も終わりを迎えようとしていた
「春咲ちゃん・・・今日はお疲れさま」
「はい、お疲れさまでした・・・主任」
帰り支度をする私を見て、主任は寂し気な表情を浮かべていた
「主任・・・?」
と小首を傾げる私に主任は
「春咲ちゃんとの・・・二人っきりの楽しい休日出勤も“あっ”という間に終わっちゃったな・・・て思ったら・・・……
急に寂しさが込み上げてきてね・・・」
と言いながら、主任は俯いてしまった
主任の仕草から“思った事は嘘偽りもなく素直に口にする…”という主任の性格が私にはとても羨ましく感じた
いつもなら…この後、主任の口から“「アパートまで送るよ…」”と言われそうな雰囲気だったが…明日から週始めな事もあり、手元にある仕事を終わらせたかったのか…主任は少し残って仕事をしていく…と私に言った
私は“「では…お先に失礼します」”と軽く頭を下げると事務所を後にした
→
あの…小林君が休まず、私も休日出勤をしていない日曜日なら、高校の頃から愛用の自転車に乗って隣町の格安マーケットまで行って買い溜めをする予定だったが…それも出来ず、いつものスーパーで明日の朝食用パンと牛乳を買って私は家路についた
『っ!!?』アパート近くの角を曲がった瞬間、私の視界に消した筈の部屋の電気が付いているのが見えた
『ど、どうして・・・』少し後退りをした後、目に涙を溜め…自分のアパートに向かった
「た、ただいま・・・
に、兄さん・・・き、来てたの?」
『っ!!?兄さんがどうして此処に・・・』思いどおりに言葉に出来ない
「お帰り・・・
ねぇ・・・春咲、俺の姿を見て思っただろう“『何故…兄さんが此処に』”てね・・・くく、春咲・・・図星だろ
此処の大家に“東 春咲の兄です”て誠実を装って言ったら・・・何の疑いもせずころっと俺にこの部屋の鍵を渡してくれたよ・・・くくく、アハハ・・・此処の大家も馬鹿だよなぁ・・・お前と俺が兄妹(きょうだい)だってぇ・・・虫ずが走って寒気がするぜ」
私がこのアパートに一人暮らしをし始めたのは、高校を卒業して直ぐの頃だった
私には親はいない…
小学3年になった年に、父と母…そして3才年上の姉を一変に交通事故で失った
それから…母方の祖父母に引き取られ、そして…父方の叔父夫婦に一時預けられた後…直ぐに施設に預けられ、そこで私は東の家に養子になった
養子先の東家には既に5才年上の兄がいた…それが私の目の前にいる“東 晃(あずまあきら)”だった
兄とは、初めの出会いから最悪だった
父も母も姉もなくしてから3年後の12才の夏、なくした筈の兄妹(きょうだい)が出来ると心から喜んだ束の間、兄は私に初めて会うなり…私のスカートを施設の職員と里親の前で思いっきり捲った…兄の行動に施設の職員も里親も…誰も兄を叱る事なく、苦笑いを浮かべるだけだった
12才の私より5才年上の17才の兄の行動に私は呆気にとられるしかなかった
「春咲・・・お前、こんな所に住んでいたんだね・・・
驚いたよ・・・ま、親無し子のお前にぴったりのボロアパートだな」
「っ!!?に、兄さん・・・」
私のボロアパートの部屋の中を我が物顔で見回す兄を私は目に涙を浮かべた表情のまま、玄関先で身動き出来ないでいた
「くす・・・そんな所で突っ立ってないで・・・こっちにおいでよ」
と言いながら、兄は洗濯籠から洗っていない下着をなんの躊躇(ためら)いもなく手に取り…ズボンのポケットの中に入れた
目に映る兄の行動は、私に“お前の物は俺の物、俺の物は俺の物…”と言っているように感じた
→
「今まで・・・何処に行っていたんだ」
兄は私が住むボロアパートに設置してある小さな台所の備え付けコンロに置いてある鍋の蓋を開けながら言った
鍋の中には、昨夜に作り置きしたカレーが入っていた
兄は自分がわざわざ会いに来てやったのに私が不在なのが…気に入らないようだった
「し、仕事に行っていました」
「仕事!?日曜日なのにか?
俺に下手な嘘を吐くんじゃねぇ・・・この不景気の時代に何処の会社がわざわざ休日出勤手当てを出して・・・休日出勤をさせる会社がある?
そんな会社・・・お目にかかりたいよ!!」
兄は俯いている私の顎を掴み耳元で囁いた
「あんだけ・・・お前の身体に“嘘を吐くな”と教えこんだのに・・・相も変わらずお前は俺に嘘を吐くんだな・・・お前、俺にお仕置きされたいのか・・・
もっと・・・ましな嘘を吐けよ・・・なぁ・・・春咲」
涙目のまま、ニヤリと笑みを浮かべた兄を睨み付け
「私は・・・嘘なんか吐いてない
今まで・・・本当に仕事に行ってたの!!嘘だと思うなら・・・今から電話する?会社に」
と声を張り上げて言った
私の態度に少し驚いた表情を浮かべた後、直ぐにニヤリと笑みを浮かべ
「くくく・・・そんなに声を張り上げて・・・俺、少し驚いたよ・・・春咲
ま、今日は勘弁しといてやろう・・・そこまでむきになるなら、まんざら嘘じゃないみたいだからね・・・
それより・・・俺、お腹がすいているんだよね・・・あれ(コンロの上にある鍋に指を指して)を俺にご馳走する気ない?」
再び兄を睨み付け
「な、ない!!
か、帰ってよ!!兄さん」
「はい・はい・・・帰りますよ・・・」
兄はそう言うと渋々帰って行った
兄は直ぐにでも…此処に来るだろう
目的は私を虐めてのストレス発散…そして私の身体…小六の夏に初めて会った日から、私は兄から逃れられない…
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