3…【…………】
2010.06.06 Sun 22:53
テレビ画面上には、Wii独特の美しい映像が流れていた
※夢世界…
けたたましい男女の悲鳴が自分が座る前後の席から聞こえ、列車はコントロールを失ったかのように猛スピードで線路の上を走っているが、いつ脱輪(だつりん)するかは時間の問題だった
猛スピードで走る列車内では、その場に立っているのが精一杯でバランスを保つ事が出来なかった為、私は自分が座っていた座席に座り、列車内に充満するけたたましい男女の悲鳴が聞こえないよう…耳を塞いだ
そして…次の瞬間、列車内に充満していたけたたましい男女の悲鳴が消えた
『え!!?』耳を塞いていた手と、閉じていた目を同時に開き離した
列車内は今までのが嘘のように静まりかえっている…それはまるで嵐の前の静けさのようだった
『っ!!?し、静か過ぎて・・・なんか耳が痛い』と思った瞬間、コントロールを失っていた列車が急に復帰したのか今度は狂ったようにブレーキが作動した
甲(かん)高いブレーキ音が夜の暗闇の中、鳴り響く
脱輪をいつしてもおかしくない程のスピードで走る列車に今度は、火花を散らす程の勢いでブレーキを作動させた為、列車は呆気なく脱輪をしてしまった
列車が脱輪した凄まじい音と甲高いブレーキ音が付近に鳴り響いたが、幸運な事に民家のない人里離れた場所だった為、列車事故の大惨事以外、被害を妨げる事が出来たのは不幸中の幸いだった
私は事故の衝撃でとっさに死を覚悟した
何分…何時間…気を失っていたのか分からない…ただ、気を失うという現実逃避の中、妙な感触を感じた
※現世界…
『あれ・・・私?』ゲームを作動させたまま、眠気に負け硬い安絨毯(じゅうたん)の上でて寝てしまった…と思っていたが、テレビ上のゲーム画面はいつの間にか消えており、私は愛用のベッドに寝ていたようだった
『夜中にでも・・・寝呆けてトイレでも行ったのかなぁ・・・』と一人小首を傾げながら、あまり出社時間まで余裕がない為、無意識の内にゲームを止めテレビを消し、自分は硬い安絨毯の上から柔らかいベッドに移動して寝た…と自分勝手に思いながら、私はベッド傍の床灯台に置いてある目覚まし時計をチラチラ見つつ、朝食を食べ身嗜み程度に服を着替え、化粧をしてアパートを出た
『ふー・・・間に合ったぁ』タイムカードを押すと1分や2分の乱れはあるものの出社予定時間(通常勤務編)が記入されていた
『よし!!』一人ガッツポーズをした後、更衣室に続く人気(ひとけ)のない廊下を小さな鼻歌を歌いながら歩く…右手側に私が勤務する事務室のドアが私の視界に現れた
『え!!?話し声・・・』誰かの話し声が事務室の薄いドア越しに聞こえた私が出社した時間は通常、日直勤務の一人を除いて出社している事務員はほとんどいない
そして…日直勤務の一人さえも他の事務員が出社するまでは男女各更衣室で待っている時刻な為、事務室から話し声が聞こえる事は…ほとんど有り得なかった
その人物の話し声にはさほど気にはしなかったが、無意識のうちに耳を澄ませ…チラッと事務室の出入り口になっているドアにある小窓に視線を移した
『え!!?』脳裏に一昨日の朝の映像が…フラッシュバックのように映し出された
『な、何をしているの・・・!?』一昨日の映像が脳裏に鮮明と映し出される…"「橋倉主任…私の机で何をしているのですか?」"と橋倉主任を問い詰めたかったが、私の机の引き出しを開け中の私物を触っている仕草…表情を目にした瞬間、彼一人しかいない雰囲気は"「…深入りしちゃ駄目」"と誰かに言われているような気がして…これ以上事務室に近づく事が出来なかった
※橋倉主任視点…
『そろそろだな・・・』腕時計の針を見て私はニヤリと笑みを浮かべた
私は迷うことなく部下の"東 春咲"の机の一番上の引き出しを開けた
『あ、あった!!』昨日、春咲が帰り支度をしている時に開けた彼女の引き出しの中に使用済みのハンカチが入っていた
彼女の性格から忘れていった事は珍しかったが、引き出しに入れたままだった事は昨日の時点で確認済みだった為、私は戸惑う事はなくチャンスをものにした
『わ、私を待っていてくれたんだね・・・嬉しいよ』緊張し震える手を少し濡れて冷たくなったハンカチに伸ばした
『こんなに冷たくなって・・・寒かっただろう・・・今暖めてあげるよ』ハンカチが入っていた引き出しを開けたまま、ハンカチに頬擦りしたり、ときには匂いを嗅き舌を這わせる自分の狂った仕草をドアの外にいるであろう人物に見せた
『くく・・・』廊下から走り去る音が聞こえた
…………………………
女子更衣室…
『橋倉主任・・・私の引き出しを開けて・・・何をしていたんだろう』制服に着替えていると背後から肩を叩かれた
「おはよ!!春咲、今日も相変わらず早いね!!」
「おはよう・・・咲夜華、相変わらず遅いね・・・」
「仕方がないでしょ!!春咲みたいに家が近いわけでもないし・・・これ以上早くは無理!
それはそうと・・・今日は珍しく浮かない顔してるわね」
「そ、そうかなぁ・・・」
と作り笑いを浮かべる私の肩に腕を回し
「よし!!春咲、この私が貴方を合コンに誘ってあげましょう・・・断ったら、何故浮かない顔をしているのか・・・問い詰めるわよ」
と言う咲夜華に私は苦笑いを浮かべ…返事をした
彼女に“浮かない顔”の原因を問い詰められてもどう説明し答えられるか自信がなく、説明をしたとしてもそれを咲夜華が信じてくれるか分からなかった
朝礼…
米川事務長の長い朝の挨拶が終わり、各自席に着いた
私は必要最低限の私物が入ったミニバックを一番下の引き出しに入れた後、誰もいない朝の事務室で橋倉主任が私の机の引き出しを開けたと思われる一番上の引き出しを開けた
『っ!!?』言葉が詰まった…橋倉主任が私に無断で触っていたと思われる引き出しの中は、少し配置が擦れていたがさほど変わったところはなかった
『え!!?』意味が分からない…ドア越しに見た橋倉主任の仕草…雰囲気から私の何かを物色しているような感じに見え、自分勝手に構えてしまったが少し…拍子抜けしてしまい一人ため息をした
『なぁ〜んだ・・・』心の中で自分自身を笑った後、パソコンの電源ボタンを押した
※橋倉主任視点…
朝礼時、私の顔をチラチラ見る春咲に私は微笑んで返事をした
「……では、皆さん今日も頑張りましょう!!」
と米川事務長の長い朝の挨拶が終わり、各自席に着いた
私は背広のポケットに手を入れ、手に触れた先の感触を楽しんだ
『心配しなくてもいいよ・・・もう君を返すつもりはないから・・・これからはずっと一緒だ』と思いつつ、席に着いた春咲に視線を移すと彼女は朝…私が物色していた引き出しを開け何やらホッとした表情を浮かべている仕草を見て私は少し口元を上げた
午後…
今日は金曜日、私達医療事務職員は受付窓口担当職員と病院経営担当職員に別れており、病院経営担当職員は主に医者(先生)や看護師、看護助手が作成したカルテ等に目を通し誤字や脱字、脱印等がないか調べたり、必要物品の補充等を専門にした仕事内容の二種類が有り、医療事務職員の仕事中で花方は勿論、窓口担当職員だった勿論、今年入社した新人職員の私は病院経営担当職員である
「春咲、カルテ収集しに行こう?」
と咲夜華が私に話し掛けた
金曜日の午後からの主な仕事は各科担当の先生方がパソコンで作成したカルテのディスクを収集し…記録を付ける事だった
「はぁぁ〜あ・・・窓口担当はいいなぁ・・・
病院中を歩き回ってカルテディスクを収集しなくていいし・・・いやらしい先生方の視線を気にしなくっていいし・・・それに出会いもあって新鮮だしさ!」
と言った咲夜華に私は苦笑いを浮かべた
咲夜華と違って私は人と話す事はどちらかと言えば苦手で入社面接を受けた際、窓口担当を拒否したぐらいだった
「じゃぁ・・・まずは、外来から行きますか?」
私達は病院1階フロアにある各科外来を回る事にした
外来担当の各科の先生方は主に新人Dr(医者)が多く、咲夜華が目を付けた若い先生の中には“ヤっちゃった”人もいるらしい…案の定“「春咲、私こっちを回るから」”と言って若い先生方が多い科の方を選ぶ、私が行く方は若い先生方には人気(にんき)のない科の外来で担当の先生方も30才後半から60才前半の幅広い年齢層のほとんどが外来だけの科(皮膚科や眼科等)が多数派だった
ドアをノックをして入る
「失礼します・・・カルテディスク回収に来ました」
金曜日の午後はカルテディスクの回収をする事を知っている先生方のほとんどは午後に間に合うようカルテをまとめ見直す…だが、中には私達が回収しに来る事を知った上でわざと忘れ怠(おこた)った上で私達事務員にセクハラ擬いな言葉を言う先生方もいるのだった
「お!!ご苦労様・・・春咲ちゃん
春咲ちゃん・・・おじさんいつも思うんだけど、春咲ちゃんの制服のスカートの丈・・・もう少し短くしてくれないかなぁ・・・おじさん、春咲ちゃんの綺麗な足・・・もっと見たいよ!!」
と言う発言に私は慣れた素振りで
「私の足でよければ今度見せてあげますね・・・」
といつものように聞き流すと
「えぇ〜・・・春咲ちゃん、それこの前も言ったよぉ・・・
ねぇ〜・・・春咲ちゃん、おじさん寂しい・・・今、春咲ちゃんの足をおじさんに見せてくれなくっちゃぁ・・・寂し過ぎて死んじゃうよぉ!!」
と言う発言に苦笑いを浮かべ
「い、今・・・仕事中で忙しいですから!!し、失礼しました」
とドアを開けようとすると中から鍵がかかって開かない
「クス・・・春咲ちゃん、逃がさないよ!!
この鍵がないと中からは開かないんだ・・・ま、外からは開くけどね」
と言いながら、女の子のマスコットが付いた鍵付きキーホルダーを白衣のポケットに入れた
「せ、先生・・・!?」
「さぁ・・・春咲ちゃんとおじさんの楽しい時間の始まりだ」
両手を顔の高さまで上げ、ニヤリと不適な笑みを浮かべ私に迫って来る
私はそんなセクハラ擬い先生から後退りをして逃げるしか出来なかった
「春咲ちゃぁん・・・そんな後退りなんかして・・・逃げないでよぉ・・・おじさんと春咲ちゃんの仲じゃないか」
「あ、あの・・・先生・・・」
不適な笑みを浮かべ迫って来る先生から逃げる為、後退りし過ぎてお尻が机に当たってしまった
もう…私には逃げ場がなかった
『ど、どうしよう・・・』迫って来る先生には、私が逃げる隙がない…私は目に涙を溜め首を左右に振って許しを請(こ)うしかなかった
「春咲ちゃぁん・・・捕まえた!!」
と言いながら、先生の右手が素早く私の左手首を掴んだ
「せ、先生・・・」
「春咲ちゃん・・・待っていたよ!!
さぁ・・・今日から春咲ちゃんはおじさんとずっと一緒!!」
「せ、先生・・・正気に・・・“!!?”」
私の左手首を掴んでいる先生の背後のドアの鍵が開いた音が響いたが、先生には聞こえていないようだった
「春咲ちゃん・・・抵抗しないでね、おじさん・・・の大切な春咲ちゃんの綺麗なお身体に・・・傷を付けたくないんだ」
と私の耳元で囁いた
私は先生が耳元で囁くたんびに当たる息で悪寒を感じつつ、先生が部屋の中から掛けた鍵を開けたドアに視線を注いでいた
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