1…【貴方は運命を…】
 2010.04.03 Sat 15:33
私は、この4月から一人暮らしをし始めた新社会人
勤め先は私が住むアパートから徒歩10分の大学病院の事務で医療事務員として働き始めたばかり
今日、私は休日を利用してリサイクルショップに来ている

「あ!!春咲(はるさ)ちゃん、そろそろ来る頃だと思ってね・・・いいのが入荷したよ!」

「本当!?ありがとう!!おじさん」

私の事を馴れ馴れしく名前で呼ぶ…“おじさん”ことリサイクルショップの店主とは私が高校生時代からのお付き合いで、かれこれ3年になる 

おじさんが経営するこのリサイクルショップは、町にあるような有名リサイクルチェーン店とは違い、各ゲーム機各種のゲームソフトとコミック漫画を中心とした古本が店内にズラリと並べられていた…中にはPCでしかプレイ出来ないマニアックなゲームも特別扱っていた 


「ほら!!前に言ってただろう・・・BHDの最新ソフトが入荷したら教えてって 
ほら・・・昨日入荷したホヤホヤの最新ソフトだよ!!それも、PC通信じゃなきゃ・・・まずは手に入らないプレミアム級、幻の商品・・・ 
昨日、これを目にした時は私の店に・・・て目を疑ったよ」

と言いながら、私の前に差し出したゲームソフトは、最近発売されたWii専用のBHDシリーズ…【BHD=0】の特別物で【BHD=0】が発売される直前にPC予約をした方の中から抽選で10名様に当たる…という超プレミアム級の品であった 

「ねぇ・・・おじさん、これを売った人は何故・・・これを売ろうと思ったんだろう? 
私的に家の家宝にしてもいいぐらいの価値があると思うけど・・・」

と差し出されたゲームソフトを見ていると店主は 

「おじさんもそう思うよ・・・だけど、この世の中・・・そう思わない人もいる・・・という事だな・・・ 
さて、このプレミアム級の【BHD=0】の価値が少しは解る春咲ちゃん・・・君はこれを買うかい?」

“プレミアム級”が急に私の肩の上に乗っかってきた 

「お、おじさん・・・これ、ちなみにいくらするの・・・」

と問い掛ける私に店主は苦笑いを浮かべ 

「ご購入時はプレミアム級といえど・・・普通の【BHD=0】と同金額だったそうだから、春咲ちゃんには特別に当店で売られている新作中古ソフトと同じ同金額でいいよ!!」

「ありがとう!!おじさん!!」

と言った後、私は定価の約半分の価格でプレミアム級【BHD=0】を買い家時を急いだ



その日の夜… 
早めに夕食を済ませ、お風呂もシャワーでいそいそと入った後、私は早速ゲームをする事にした 

前の持ち主はこのソフトを大切に使っていたのか…普通は入ってない事が多い説明書までちゃんと入っていた 
まず、私は説明書を片手にソフトとなるディスクをWiiに設定するとゲーム機は勝手にディスクを読み取りスタート設定まで立ち上げた 

スタート設定画面には、主人公となる男女二人が現れていた、もちろん私は“ノーマル”設定を選んだ後、スタートを作動させた 

「え!!?な、なに?」

スタートさせ【BHD=0】を作動させたつもりがディスクは勝手に何かを立ち上げた…それはまるで、似顔絵製作専用ソフトを立ち上げているような画面だった

「な、なにこれ・・・」

私は説明書を見回すと“新機能の説明”という箇所を見付けた 

『こ、これかぁ・・・“プレミアム級”という意味は・・・』と思いながら、説明書を読むと主人公二人以外にキャラクターとして一人増やす事が出来ると書いてあった…ただ、あくまでキャラクターとして設定される為、プレイヤーがそのキャラクターを操作する事は出来ないみたいだが気分的に自分オリジナルのキャラクターが主人公二人と一緒にゲームを進行させていく事が出来る…という得点がついていた
それはすなわち、自分が作ったキャラクターを自分自身に似させて作ってもいい…という事だった 

『へぇ・・・なるほどねぇ・・・』私はWiiのリモコンを適当に操作するとテレビ画面はキャラクターのパーツごとに変わる 

以前、似顔絵専用ソフトを利用し自分似のキャラクターを作った事がある為、手馴れた操作でパーツを選び自分自身によく似たキャラクターを作っていった



似顔絵専用ソフトのような画面で自分似のキャラクターが出来て直ぐ、ゲームは自動的に本編が始まった


本編…
ゲーム内時間の説明
*BHDとはゲームの名前
*0とはゲームシリーズの時間、即ち…数字が少ないほど過去に遡っている
…………
………
……

シーンはリモコンを操作しなくてもいいイベント画像から始まった

夜の暗闇の中、電車は何処かに向かって走っていた

『え!!?』始めに出てくる登場人物は、先ほど作った自分似のオリジナルキャラクターだった

『なんか・・・』自分が作った自分似のオリジナルキャラクターが主人公達より先に登場しているのが…不思議に感じたが、他のゲームでも始めのイベントで主人公以外のキャラクターが先に登場する事は多々あった為、私はさほど気にはしなかった

今、注目の最新ゲーム機“Wii”のずば抜けた映像の美しさが始めのイベントで反映され、私は自分が製作したオリジナルキャラクターを自分に重ね魅入った瞬間、携帯の音が鳴り響いた

『そろそろ・・・時間なのね・・・』と携帯の待ち受け画面を見るとゲーム開始から2時間が経とうとしていた 

私は始めたばかりのゲームをセーブし、この日のゲームを終了させた



数時間後…
ゲームを終え、消した筈のテレビとゲーム機が勝手に動き出し、テレビ画面が青白い灯りが狭いアパートの部屋を青白い光りに染めていた…事を寝ている私は知らなかった




次の日…
私が住むアパートから私が働いている大学病院まで徒歩で約10分程の道のり…いつも定時より早く出社する私は、見慣れない人が私の机がある辺りで何かを愛しそうに指で撫でているような仕草をしている姿を遠目で見えたが、当の私はさほど気にはしなかった

女子更衣室で私服を制服に着替えていると同僚の咲夜華(さやか)が私の肩をトントンと軽く叩いた

「春咲、おはよう!!今日も相変わらず早いのね 
ま、それはそうと・・・今日はビックニュースがある事知ってた!?」

と一人はしゃぐ彼女から視線を逸らした私の態度に不服を感じたのか“ムッ”とした顔で

「あぁ〜もう・・・春咲は私の最新情報を気にならないの?」

「別に・・・……
それより早く着替えないと朝礼が始まるよ・・・」

とため息混じり言うと彼女は“「え!!?嘘!!」”と時計を見た後、慌ただしく私服から制服に着替えていた

結局、咲夜華は少し乱れた制服のまま、朝礼に主席する事になり、案の定…服装には厳しい事務長の目が光り彼の視線から慌てて視線を逸らすしかなかった

事務長は軽く咳払いをした後

「おはよう・・・諸君、皆も辞令を見て知っていると思うが・・・医療事務員主任の香山君が本社に転勤する事になった・・・そこで、香山君の代わりに本社から彼が着任する事になった」

と事務長は言い終わると同時に着任の挨拶が始まった

「先程、米川事務長のご紹介どおり本社から来ました
橋倉 繭(はしくらけん)といいます・・・本社では医療事務員主任補佐をしていました・・・ふつつか者ですが、宜しくお願いします」

と軽く頭を下げた

『あ・・・朝の?』と出社したと同時に見た彼の謎の仕草が脳裏に浮かんだが、遠目で見る彼の行動にイマイチ意味が分からなかった事は…さほど気にする事はなく、その後は軽く私達の自己紹介が終わり自己の席についた


米川事務長達が口にした本社とは、私が通うこの大学病院の第一科病院で外科や内科等を担当する部所で外来等も多く扱っており、我が大学病院の中心的部所…
それに比べ、私が配属されたのは第二科病院…すなわち第一科病院の分家で産婦人科や皮膚科、整形外科等を担当する部所で第一科病院と比べれば外来の数も少なく入院患者も入れ代わりが激しい…そして、事務員(特に男性)も時々、本社と入れ代わる

今回も例の如く“入れ代わり”という事になるのだ


史上最強の男好きの咲夜華(私的に)は“『ヤッター(^^)v』”とガッツポーズを私に見せたが、私の心は咲夜華の心と裏腹に冷めていた

確かに、今回本社から来た主任は美男子で年齢も私達より10才年上と恋愛対象に入るが、私は咲夜華と違って恋愛そのものに興味がなかった

“『私には関係ない…』”という素っ気ない私の態度に咲夜華はため息を浮かべていた


夕方…
事務長が提案した“着任歓迎会”を開く事になった
今夜はアパートに帰ってゲームの続きがしたかったが、仕事上のお付き合いと割り切って歓迎会に咲夜華と共に参加した



本社から来た橋倉主任の“着任歓迎会”はPM11時頃お開きになった
事務長達は二次会に行こうと私を誘ったが、明日が日直の為、丁重に断わろうとすると事務長は私の肩を馴れ馴れしくトントンと叩いて

「私が誘う二次会を断わろうとしている東(あずま)君、私の頼みを心良く引き受けてくれるのなら・・・今夜は許してやろう・・・じゃぁないか」

と言う事務長に私は目をぱちくりしたままの表情で見上げと、事務長は珍しくニコリと満面ない笑顔浮かべ

「この事は無遅刻無欠勤の君にしか頼めない・・・
東君、今夜の主役…橋倉君と一緒に明日の日直を勤めてくれないか?」

「え!!?よ、米川事務長・・・は、働き始めてまだ3ヶ月目の私に・・・……
む、無理です・・・その役目には・・・も、もっと的確な人物がいる筈です」

と必死に道のど真ん中で事務長に向かって数回頭を下げる私に 

「東君なら大丈夫だよぉ〜・・・ 
それに、橋倉君だって日直の仕事がまったくの初めて・・・ではないんだから、東君は橋倉君に少しだけアドバイスしてあげればいいんだって・・・ねぇ〜・・・東く〜ん・・・」

『かなり酔ってるな・・・』と思いながら、小さなため息をした後、私は事務長の頼みを引き受けた


事務長達と別れ家路につこうとする私の背後から声を掛けられた 

「東さん・・・」

「え!!?あ!?橋倉主任・・・?」

てっきり事務長達と一緒に二次会に参加したと思っていた橋倉主任が、私の目の前に立っていた 
急に背後から声を掛けられた事にあたふたする私を知ってか知らずか橋倉主任は、少しお酒に酔った表情のまま、ニコリと私に笑みを浮かべた顔を見せ

「僕と東さんは帰宅方向が一緒だから・・・家まで送るように・・・と事務長が」

「え!!?あ!?」

私は再び小さなため息をした後、“『あの…女(あま)め!!事務長を丸め込んだな』”を心の中で悪態つきながら、私は仕方なく主任のお言葉に甘える事にした 


数分後… 

「あ、あの・・・私、この角を曲がって直ぐですから・・・ここでいいです・・・あ、ありがとうございました!!」

ここに来るまで話す事がない私は、一言も言葉を交わす事なくあと少しで私が住むアパートという所まで来ていた 

街灯がちらほら光る夜道で“「ありがとうございました…」”とお礼の言葉を言った私に驚いたのか主任は“「え!!?あ、はい…では、また明日…」”と初めて言葉を交わした後、私は軽く頭を下げ自分が住むアパートがある方に向かった






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