10…【私の夢と現実…】
2010.03.04 Thu 22:04
【私の夢と現実の狭間に…】
一週間後(とある週末)…
この一週間、私の心の胸騒ぎは納まることはなかった
『咲月・・・あの病院に何があるっていうの・・・』私が勤める会社は普通週休二日制で土曜日は休みが普通だが、月に二回程日直として当番が回ってくる
休日出勤の業務内容はただの電話当番だったが、ほとんど電話が掛かってこないのが現状となっている
久しぶりの休日出勤でペアーを組んでいる咲月の顔をチラチラ見ながら、私はあの病院で浮かべた…咲月の場違いの表情を思い出した
以前、咲月はよく私の前で普通に満面の笑顔を見せ、時には鼻歌を歌っていた…だが、咲月が私に従兄弟の蓮を紹介した頃から咲月は私に心の奥底から浮かべる笑顔を見せなくなった
私が蓮からプロポーズを受け入れた時も"「おめでとう…よかったね」"と言葉で言いながら…笑顔を浮かべる表情の目は笑っていなかった
そんな咲月が一週間前に浮かべた…満面の笑顔と鼻歌が今も心と耳に残る
私は満面の笑顔を浮かべながら、咲月が向かった…あの病院に一人行ってみることにした
病院の中に入って直ぐ…私は場違いな所に来ている…と悟った
だが…この病院には"何か"がある…と私に感じらせ“何か”は形を変え胸騒ぎとして私に知らせる…闇が近づく夕闇の中途半端な時間に…
『な、何で・・・病院って不気味なんだろう』新しく大きい迷路のような病院の中を、誰に会う事もなくさ迷っていた
迷う足は…"何か"に導かれながら…確実に病院の中を進んだ
以前来た時と違うのは…咲月の姿がないってことだけだった
看護師の姿どころか、医者の姿すらない病院のエレベーターの前で私は一人オロオロしていた
『…・・・っ・・・や、やっぱり・・・帰ろうかなぁ・・・』↓(下矢印)のボタンに手を伸ばそうとしたとたん、大きなボストンバックを持った中年女性が私より一瞬早く…エレベーターの↑(上矢印)のボタンを押した
「あ・・・……」
無意識に私の口から出た声に中年女性は"『何!!?なんか文句でもあるの』"と言いたけな…ムスッとした表情を浮かべた
私は中年女性の表情に圧倒され…それ以上、口に言葉を出す事が出来なかった
エレベーターのドアが開くと中年女性が手にしている大きなボストンバックに押されるような形で、私は無理矢理エレベーターに押し込まれた
「んもう・・・邪魔なんだから・・・」
と中年女性の独り言が響く狭いエレベーターは、何処に向かうのか分からないまま上へ上へ昇って行った
何階か昇った所で…エレベーターのドアは開いた
「何・・・のろのろしているの!!早く降りなさいよ・・・狭いったらありゃしないわ!!
いやぁ〜ねぇ・・・この頃の若い人は、礼儀作法も知らないんだから!!」
と言いながら、私をエレベーター中から押し出した
私はバランスを崩し、押し出された瞬間、尻餅を着いてしまった
"「あらあら…まぁまぁ」"と言いたけな中年女性はニヤリと人を見下したような笑みを浮かべ、中年女性が一人乗ったエレベーターのドアは閉まっていった
私は苦笑いを浮かべながら立ち上がった
『はは(苦笑)・・・久しぶりに尻餅ついちゃった・・・
それにしても・・・ここ何階?』ボストンバックを持った中年女性に押し込まれるような形でエレベーターに乗ってしまった私は今、自分がいる階が何階なのか分からなかった…
エレベーターホールから続く薄暗い廊下からは奇妙な機械音が聞こえ響いてきた
『どうしよう・・・』私はとりあえず、再びエレベーターの↓(下)ボタンに手を伸ばした
『う、嘘・・・!?』数回↓(下)ボタンを押してみたが何故か反応がない
『嘘でしょ!!?し、信じられない!?』廊下から聞こえる奇妙な音が妙に怖くなり涙目でボタンを何回も押す…その押し方は子供が遊び半分で何回も押して母親に注意されるかのように、二十才(はたち)過ぎたいい大人の私に“「そんなに何回も押したら壊れるよ…」”とこの場に人がいたら注意されそうなぐらい数えられない程、何回も押した
何かにとりつかれているかのようにエレベーターボタンを押した後、私が今いるエレベーターホールから続く薄暗い廊下の少し行った先に電気が光々と付く一角がある事に気が付いた
私はその灯りに導かれるように薄暗い廊下を歩いた
私が歩く廊下から見える病室からは言葉に言い表す事が出来ない奇妙な音が聞こえてくる…私はその音から耳を塞ぎたかった
灯りが光々と付く一角はナースステーションだったがいる筈の看護師も医者も誰もいなかった
私は一人ため息をした後、再びエレベーターホールに向かおうとした一瞬の私の視界に何かが見えた
“え!!?”と目を見開いた視線の先に映し出された物に私は涙を浮かべ、声に出すことが出来ない程、驚いた
関係者以外立ち入り禁止の誰もいないナースステーションの中に私は導かれるように入り、私がいる階の患者部屋割り表の前で私は声を抑え泣いた
『れ・・・蓮・・・……』彼の名前が書いてあるプレートに手を伸ばした
"『どうして…蓮の名前がここに…』"と考える暇なく…私はプレートの横に書いてある病室番号を求め、ナースステーションを後にした
あの奇妙な機械音が鳴り響く薄暗い廊下を一心不乱に…とある病室番号を求め走った
『はぁ・はぁ・・・れ、蓮・・・』極度な興奮から伴う荒い息をしながら、私は病室のドアを勢いよく開けた…そして、彼がこうなっている現実を知っていたかのように躊躇なくベッドに横たわる彼の元に近づいた
「蓮・・・逢いたかった・・・……」
目に涙を浮かべたまま、彼の頬に手を伸ばそうとした…が、何故かそれ以上…彼に手を伸ばす事が出来なかった
『れ、蓮・・・』私はベッド近くの床に力なく座り込んでしまった
私はこの時…初めて自分の身体の穢れを感じた…例え、それが意に染まぬ快楽であっても、彼…翔との絶頂を求めて身体は今も疼く、私は心より愛している蓮の身体に指一本触れる事が出来ない身体になってしまった事を知った
人工呼吸機でしか生きる事が出来ない蓮を涙目で見つめ、身動きが出来なくなってしまった彼の身体は…穢れを知ってしまった私を無言で拒んでいるように見えた
それでも…私は蓮を求めてしまう、穢れを知らない彼の身体に触れるだけで彼の身体が穢れ…汚染されていくのを知りながら
「蓮・・・私、帰るね・・・……
蓮・・・許して・・・とは言わない・・・でも、私は貴方の側で生きていたい・・・
また・・・ここに来てもいいですか?」
無言の彼に私は満面の笑顔を見せた後、幼い子供が友達と別れる時に手を振るように…私は蓮に向かって手を振った
振り返す事のない蓮との間には…あの人工呼吸機独特の機械音が鳴り響くだけだった
私が住むアパートから徒歩で約15分、私は彼…翔に悟られないよう気を付けつつ蓮が入院している病院に一月(ひとつき)に数回通うペースで蓮の元に通って3ヶ月後…
病院からの帰り道…
私の視界にアパートが見え始めた頃、私は固まってしまった
『ど、どうして・・・』蓮が入院している病院に出掛ける際に必ず電気を消し、鍵を閉めたアパートの私が住む部屋の辺りが光々と電気がついていた
アパートの鍵を持っているのは私だけ…
だが…我が物顔で私の部屋に出入りし、鍵に自由に近付ける人が私以外にいる事を知っていた
『…っ・・・!!』足が勝手に後退りした私を見ているかのように携帯が鳴り始めた
『…ひぃ・・・!!』心の中で悲鳴をあげ、私はその場にしゃがんでしまった際も携帯は私が手にするのを待つかのように鳴り続ける
目に涙を浮かべたまま、今も鞄の中から鳴り続ける携帯に私は小刻みに震える手を伸ばした
「む、村井です・・・どちら様ですか?」
私は携帯のディスプレイを見ず電話に出た為、電話相手が分からなかった
「あれ!?僕の携帯番号・・・登録してないの?」
首を傾げている彼が目に浮かぶような台詞を聞いた後
「す、すみません・・・ディ、ディスプレイを見るのを忘れてました・・・」
「ふーん・・・そうなんだ・・・
電話相手が僕でよかったね・・・僕以外の男からだったらどうするの?今度から気を付けなくっちゃ駄目だよ!!」
「は、はい・・・」
「よろしい・・・それはそうと・・・夏華、何処に行っていたの?
珍しく勤務が定時で終わったから久しぶりに二人でデートでもしようと思って・何回携帯に掛けても繋がらないし・・・仕方がないからアパートで待ってたんだよ・・・」
「す、すみません・・・
し、親友の咲月と映画を見た後・・・携帯の電源を入れるのを忘れてました」
「ふーん・・・それなら仕方がないね・・・ところで何を見て来たの?」
「咲月が前から見たい・・・て言っていた【2012】です」
「えー!?それ!!見に行ったの?
僕も見に行きたかったな・・・……
ところで・・・いつまでそこにいる気?早く・・・帰っておいでよ?」
彼の話しの内容に言い訳を考える事に夢中で彼がいるアパートの部屋の窓が開いていた事に気が付かなかった
彼の台詞に返す言葉を躊躇している私に彼は
「どうしたの・・・夏華?」
と聞き直した彼の表情をここからでは伺う事が出来なかったが、携帯から聞こえる彼の声はますます怒りを浴びた声色に変化していた
私はゆっくり立ち上がりいつも愛用している鞄を抱き抱え、私は思いどおりに動かない足を動かし自分のアパートに…彼がいる自分のアパートに向かった
「た、ただいま・・・」
玄関近くの壁に凭れた姿勢の彼の表情は、目を細め冷たい眼差しで私の動作を一部始終見つめた後
「お帰り・・・夏華」
と微笑みを浮かべたが、彼の目は笑みを浮かべてないようだった
「夏華の帰りが遅いから・・・冷蔵庫にある材料で勝手に作らせてもらったよ」
と言いながら私が住むアパートの小さなキッチンに向かい、コンロに両手鍋を置き再び火を付け暖め直している彼の表情を横目でチラッと伺った
料理を暖め直す彼の表情はすっかり機嫌が直った様子で私は少しホッと心を撫で降ろした瞬間、腹痛を感じ始めた
彼に気が付かれないように無言で胃の当たりを円を描くように撫でる
自分の体調の変化に身体がついていく事が出来ないのか、身体は腹痛という表現で体調の変化の戸惑いを私に知らせた
私はアパートの壁に掛かったカレンダーを見ながら
『もうすぐ生理なのかなぁ・・・……』と一人首を傾げた次の瞬間、私は目を見開き口を塞いだ
『…っ!!?・・・も、もしかして・・・……』私は一人指を折り曲げ、指で数を数えるように三本折り曲げたところで再び口を塞ぎ
『わ、私・・・さ、3ヶ月前から生理がきてない・・・?』私は正直驚いてしまった…この事を人に言えば“「普通、もっと早くに気が付かない?」”と言われそうである
だが…私自身が気が付かなかった一番の原因は、一つに普段から生理不純で予定日より何日かは絶対に遅れる事と、この3ヶ月…自分の生活のリズムが狂わされている事が原因とみられるが…正直驚いたのは、そんなこんなで3ヶ月も生理がきていないという事に今さら気が付いた自分自身にだった
この3ヶ月間、私は自分が気が付かないところでかなりストレスを感じていた事だろう…3ヶ月前の私であれば、例えこの3ヶ月間生理がきてなかったとしても今のように驚いたりしない…皆が知る子供が出来る経験をしていなかったのだから…
正直…まだ確信は出来なかった“もしかして…”がまだ脳裏に浮かぶ…自分の体調の変化に医師免許を持つ彼が知るのも時間の問題だろう
「どうしたの・・・夏華?」
ベッド近くの床に座り身動きしない私に不信を感じたのか首を傾げながら、私が座っている場所近くの小さなテーブルの上に料理を盛ったお皿を並べ始めた
「ご、ごめんなさい・・・手伝いもしなくて」
と立ち上がった次の瞬間、吐き気を感じ口を塞いだまま、私はトイレに直行していた
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