9…【振り向…】※18禁
 2010.01.13 Wed 11:19
【振り向いた私の視線】



上司の甥“奥村 翔"に処女を奪われてから早1ヶ月、彼は3日と空けず私のアパートに訪れ…絶頂を迎える寸前の私に“「夏華…君の身体は誰の物かな? 
その可愛いお口から…僕に聞こえるように言ってごらん」"と問い掛ける 

意に染わぬ快感を寸止めされた身体は、私の意思とは裏腹に彼を求め…彼の物と表す言葉を吐き出した私に、彼は優しく頭を撫で“「良い子だ…夏華 
一日たりとも忘れては駄目だよ…夏華の身体は誰の物でもない…僕だけの物なのだからね…」"と私の耳元で私に言い聞かすように囁いた 
私は目に涙を浮かべながら…彼の腕の中で歓喜に喘ぐしかなかった… 



次の日… 
仕事中にメールがきた 
もちろん…相手は自分の事を“僕"と呼ぶ、彼だった 
彼からメールがくるという事は、今夜は私のアパートに来れないという…お知らせメールだった 

ホッと心を撫で下ろしたぶん…身体の奥底で疼き彼を求め熱くなる現実を認めたくなかった



※咲月視点


自分で言うのもなんだが、私は人一倍…感が鋭い
その人それぞれのふいんき等で…その人が私に告白してくれなくても、自ずと今…何を考えているのか、何を悩んでいるのか…が分かってしまう

だから、私には友達が少ない


私の人生で最初で最後の親友の夏華が日に日にやつれていくのを…私は理由も聞かずに放置しているのは、夏華自身も私に言わないし、私もあえて理由を聞かないからだった…し、例え夏華が私に告白をしてくれても、私は的確な返事を答えてあげられるか自信がなかった






数日後(とある週末)…
私が住んでいる都市の総合病院に私は夏華と共に訪れていた
「村川課長・・・て、いつも口だけでこういうめんどくさい事は全部女子社員に任せるんだから・・・
自分の大切な部下なんだから、自分で見舞いに行けって感じ!!
私達にだって・・・週末の用事っていうものがあるっていうの・・・そう思わない、夏華」

「そ、そうだね・・・」

めんどくさいモード丸出しの私に夏華は苦笑いを浮かべるだけだった
そう…今日は同僚の"安住"という男性社員が通勤で利用している駅の階段で運悪く転び…足を複雑骨折して入院している社員の課長代理として見舞いに来ていた

本来、課長が行くのが筋ってもんだが…何かと自分に理由を付けて私と夏華に自分の代理として行かせたのだった

私はため息をしながら、お見舞いの為に病院近くの花屋で買った…お見舞い用花束を抱えた


事務所で案内された病室に入ると他の人の声が耳に入った

「へぇ〜・・・お前、ここの研修医しているんだ!?
知らなかったなぁ〜!!俺、違う所の病院に移ろうかなぁ!?」

「変われ、変われ!!
お前のようなわがまま患者、何処の病院も受け入れてくれないさ!!」

「言ってくれるなぁ!!
お!!?誰かが、こんな俺の所にお見舞いに来てくれたみたいだ
お前がいると俺のイメージが変わるから!ここから出て行ってくれないか!?」

「分かったぁよ!!僕だって忙しい身で来てやっているんだ」

事務所で聞いた病室は典型的な6人部屋で"安住"のベッドの場所は窓側だった
二人の声が聞こえるカーテンに手を伸ばそうとした瞬間、カーテンが勝手に開いた

私より一足早くカーテンを開けた人物と一瞬目が合ったような気がした瞬間、相手の視線は私の後ろにいる夏華に移っていた
相手の視線が移った瞬間、私が着ているカーディガンの裾が重たくなった

「え!!?夏華?」

夏華は何も言わず、ただ私のカーディガンの裾を握り締めているだけだった
私は目の前の人の顔をチラッと見た瞬間、あの日の夜会った課長の甥"奥村 翔"とかいう男と分かった
私は小さくため息をした後

「安住君、元気そうで良かったわ
私達!!村川課長の代理で来たのよ!!」

と言うと…男は目を一瞬細めた後、軽く微笑んだ表情を浮かべた彼に私は頭を下げた
彼は何も言わず、病室を後にして行った

必死に平然を装っている夏華を見ながら私は少しの間、病室で過ごした



同僚の安住君が入院している総合病院を出た瞬間、携帯の着信音がなった

「夏華!!ごめん!!
今から夏華と町でショッピングするつもりだったけど、予定が入っちゃった!!ごめんね!!」

数年来お付き合いをしている咲月の彼からのラブメールのようだった

私はため息をして

「仕方がないな!!じゃぁ・・・また月曜日にね」

と苦笑いを浮かべた顔で手を振った後、咲月と別れた…ハンドバックの中の携帯を握り締めながら… 

咲月の携帯が鳴った時、密かに私の携帯も鳴った 
メールの内容は読まなくても私には分かっていた…この総合病院で研修医をして働いている…彼からの呼び出しメールだったからだった 
そう…彼の叔父、村川課長はわざと部下のお見舞いに私と咲月を行かせたのだった…甥がその病院で研修医をしている事を知りながら 



非常階段の踊り場… 

「くす・・・こんな場所でするとは思わなかったよ・・・夏華、今日は夜勤だから、アパートの方にも行けないしね・・・」

と彼は微笑みを浮かべながら、手慣れ仕草でスカートの中の下着を脱がした 
密室に近い非常階段に私から伴う淫靡(いんぴ)な水音が響いた 

「くす・・・夏華、あの病室で僕と目があった瞬間から・・・ここ、濡れているんだろ!! 
何もしてないのに・・・こんなに濡らして、僕の夏華は淫乱だな・・・ 
ねぇ〜・・・夏華、もう・・・これが欲しい?」

と言いながら、彼は私に自分自身を見せた

肩で息をしている私の涙目に映った彼は、清潔感漂う医師独特の純白の装いとは裏腹に何処か陰気な笑みを浮かべ私の身体を支配する彼だった 

「ねぇ・・・夏華、君は僕にどうしてほしい? 
その・・・可愛いお口で言ってごらん・・・早く言わないと誰か来ちゃうよ!?」

この非常階段独特の薄暗いふいんきが私の心を支配し、私の身体を虜にした彼の表情が私の言葉を支配した 

「はぁ・はぁ・・・お願い…貴方が欲し…い

と言う私の耳元に彼は 

夏華…よく言えたね…
ご褒美をあげなくっちゃね…大丈夫、たっぷりと夏華の中に僕を注いであげるからね…


「はぁぁ…嬉し…い」 


彼が研修医を勤める総合病院の非常階段の壁に凭れ必死に姿勢を保とうとする私の中に彼自身は躊躇なく一気に貫いた 
私の身体が求めていた感覚が私の身体を快感として支配した 


二人が奏でる淫靡な水音と快楽という暗闇に墜ちていく悲しい女の喘ぐ鳴き声が薄暗い非常階段に響いた


数時間後… 
彼が私の中に吐き出した欲望と私の愛液で汚れた下着のまま、私はアパートに帰らずボーとあてもなく街の中を一人歩いていた

“何故"“どうして"と二つの言葉が私の頭の中に浮かぶ…幼い少女の私は両手で泣き顔を隠し、泣き声を口にする事なく泣き続ける…そんな幼い少女の私を周囲にいる大人達は腫れ物を触るように見て見ぬふりをする 
幼い少女は何も言わず、泣き続ける事しか出来ない自分自身が憎らしく…恨めしかった 


やりきれない想いが… 
足を街に向かわせたのだと…私は思った




週末の街を行き交う人達は、何処か忙し気に… 
そして…何処か幸せそうに街の中を通りすぎて行く… 

私を一人取り残された気持ちのまま、無意識に行き交う人達の顔を目的もなく見つめた 



私の視線の中を何も言わず…通りすぎて行く人達の顔は誰一人同じ顔はない 
その数え切れない表情の中から…自分が知る人を見付けるのは…奇跡に近かった 

『さ、咲月・・・』数年来お付き合いしている彼とデートの最中と思っていた…親友の咲月が目の前を颯爽と何処かに向かって歩く姿を目にした

"「咲月…」"と声を掛けようとしたが掛けそびれてしまった
私の表情と裏腹にニコニコと満面の笑顔を浮かべる咲月に導かれるように後をついて行った 



そのまま電車に乗り、私のアパートがある最寄りの駅の一つ手前の駅で咲月は下車した 
下車した駅のホームには沢山の人達が私達以外に下車していた 

『こんな所で降りて・・・何処に行くんだろう?』咲月の表情は変わらず、人波を外れると鼻歌まで歌い始めた

数分歩くと大きな建物が見えてきた 

『あの建物は・・・確か病院?』病院独特の白をモチーフにした建物は、あの同僚のお見舞いに行った総合病院より新しく最近出来た設備の高い病院だった 

咲月は躊躇なく病院に入って行った 

『ん!!?誰かが入院しているの?』一人首を傾げながら、私は咲月の後を追った…咲月の親戚が何かが入院しているのなら、私には関係ないのだが…この時、私は何か胸騒ぎを感じた



『あれ!?咲月?』広い病院のフロアにて私は迷ってしまった 
設備の高い病院はデパート並みに数台エレベーターがあり、数台のエレベーターは各病棟に続いているようで…さながら大きなビルの迷路のようだった 

『何処に行ったんだろう?』と、私は力尽きるように待合場所の椅子に座った

『ん!!?そういえば・・・ここって・・・』ここ数ヶ月、いろいろな事がありすぎて忘れていたが…あの蓮の兄に初めて会いに行く日に私のアパート近くで事故に巻き込まれた蓮が搬送された病院が…確か…ここのような気がした

『でも・・・例えそうであっても、とっくに退院しているわね・・・』私は苦笑いを一人浮かべた 
あの日を境に蓮からのメールもなく、挙げ句の果てに蓮の携帯番号に掛けると“現在使われて…"と電話先でアナウンスが流れる始末 

よっぽど私は蓮に嫌われたんだな…てアナウンスを耳にした時、一人アパートの狭い部屋の中で泣いた…だから、自分の夢の中に蓮が出てきてくれた時…とても嬉しかった…夢の中の蓮は私の知る誠実で優しい彼だった 

一人アパートで目が覚めると、いつも虚しさを感じることを分かっていても自分の心を慰めるには…夢の中の彼の存在が必要不可欠だった



私の心情とは裏腹に、満面な笑顔を浮かべる事が出来る咲月が私はとても羨ましく感じた彼女を迷路のような病院で見失った後、私は一人…アパートへ帰路に着いた 






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