それはとある昼休みのこと。
「ツッキー!!次、5限体育だから、着替えに行こっ!」
「……は?山口、今日体育あったっけ?」
「あれ、ツッキー知らなかったの?今日授業変更したんだよ。」
「……なんだよ」
僕が王様を呼び出すなんてなかなか無いことだ。
別に同じ部活だからって仲が良いとは限らないし(むしろ結構いがみあってる)、
余程の用がない限り、
僕だってこんなことするほど暇じゃない。
じゃあ、なんでかって?
「今日授業変更したの知ってるでしょ?それのせいで、普段体育のないこの曜日に体育が入っちゃってね、僕体育着持ってないんだよね。」
「だから、なんだ。」
「ニブいなぁ〜、王様。体育着貸してって言ってるの。ほら、早くしないと着替える時間無くなっちゃうじゃない。」
王様が明らかにムッとした顔をする。
まぁそうだろう、僕の態度はどう考えても人に物を頼む態度じゃない。
でも、部活で互いに嫌味応酬させまくってるこの王様に僕が下手に出るなんて、
こう……なんか、嫌だ。
でも教科書とかならまだしも、
サイズに個人差のある体育着は、
借りるのに誰でも良いって訳にはいかない。
ぶっちゃけ、コイツのでもちょっと小さいかも……
あぁもう、どうしろってんだよ!
「………………」
王様は黙っている。
そして、明らかに僕を睨んでいる。
あーあ、商談失敗、交渉決裂。
まぁ影山にメリットなんてないのに、
はじめから商談も何もないんだけどね。
僕が諦めて、踵を返そうとすると、
「………分かった。」
という、
なんとも予想外な返事が返ってきた。
思わず僕の口から少々間抜けな声がでる。
「……へ?本当に、良いの?」
「………おう。」
影山が席に戻って行くのが見えた。
体育着を取りに行ったんだろう。
なんだろう、どういう風の吹き回し?
しばらくして戻ってきた影山は、
体育着を胸に抱えた状態で上目遣いでこちらを見ている。
あれ、なんだこれ。
なんだか影山が妙に可愛く………見えない!!
危ない…何を考えようとした僕は。
「……ありがと。…何してるの、早く頂戴よ」
「…ん、一つ、条件がある。」
「何?何か奢れって?」
「…違う!物なんか…いらない。」
「…せめて、人前では『王様』って呼ぶな。」
…なにそれ、せめてって。
今後一切やめろとも言えるに、
随分丸くなっちゃって。
あーあ、僕も随分な重症だ。
刃向かわれても燃えるけど、
大人しくされたらされたでいじめたくなっちゃう。
どっちみち、コイツのころころ変わる表情を目の前で見ていたいだけなんだろう。
好きな子ほどいじめたくなるだなんて、
そんなことは万に一つも有り得ないけど。……有り得ないけど。
「分かったよ、体育着ありがとうね。洗って返すから。」
素直に礼を言う、演技をして一瞬の隙を作る僕と。
見事それに引っかかり目を丸くする単純な君。
素早く腕を掴んで、
体育着ごと目の前のコイツを抱き寄せる。
細い身体が腕の中で大げさに震えた。
ざまぁみろ。
オプションに、こいつも付けてやる。
「それじゃあ、また部活でね…飛雄。」
「っ、誰が下の名前で呼べだなんて言った!?」
耳まで真っ赤だよ、
しかも涙目。うぶなんだね。
ふふ、余裕のない王様かぁ…、良いね。
これからどんどんこのクラス遊びに行こっと。
気づいたって認めやしない
(は、早く行けよ。昼休み終わんぞっ!!)
(はいはい、飛雄は勉強頑張ってね)
(〜っ!やっぱりやめろそれ!!)
考えてみたらコイツ等隣のクラスなんだよね……!!そのうち教科書の貸し借りとか始めたり、用もないのに廊下で喋ってたらどうしよう……!!すごく目立つな…!
くっそ夢がある