影山くんがやや乙男寄り。
吹き付ける風は刺すように冷たくて。
疲れきった身体を、心をこれ以上痛めつけたくなくて、
足早に家路を急いだ。
中学時代の帰り道、冬。
無造作に羽織ったマフラーなんてただのお飾りで、
一人が辛い訳じゃないけど、
この寒さからも、身を切るような孤独からも、誰にも守ってもらえない。
それでも、いつしか慣れてしまった。
大切なものを色々取りこぼして、捨て去って、風は叩きつけるように吹きすさんで、
時は流れて。
「影山、帰ろーぜっ」
自転車を転がしながら日向が駆け寄ってくる。
今日は部活が終わった後、
コイツと一緒に自主練をしていた。
午後8時23分、近所の公園。
比較的明るい照明が設置されていて、日が短くなったことにより、土手という練習場所を失った俺たちが白羽の矢をたてたのがここだった。
日向はチャリ通で、俺は電車通だ。
地形的に、公園を真ん中に挟んだとするならば左に駅、右方面に日向の通学路といった感じだ。
なのに、コイツはチャリを引きながら一旦俺と駅まで歩いてくる。
それで俺に別れを告げた後、また公園の方へ戻っていくのだ。
大幅な遠回りだ。
理由を聞けば、「だって、暗い道一人じゃ危ないだろ?」だってよ。
世話を焼いてるつもりなら、俺は女じゃないし日向の厄介になるつもりもない。
でも。誰かが自分のために遠回りして、笑って「また明日」という約束をくれる。
日向が与えてくれる、無条件の"それ"が俺の中で次第に大きくなっていくのは分かっていた。
嬉しい、嬉しいんだ。
心臓の辺りがほっこりとする感じを否応なしに自覚する。
一人じゃない。少なくとも今は、日向は俺の隣で笑ってくれている。
「影山、星がすんごく綺麗だな」
考え事をして、下を向いていた俺に日向が言った一言。
弾かれたように見上げると、夜空には見たこともないような星の大群が散りばめられていた。
知らなかった。
日向に出会うまで。
本当に知らないことばかりだった。
お前に出会って、見えてくるものがたくさんあったんだな。
空がどんなに美しくても、一人じゃそれに気づけなくて、何も響かないから。
「そう…だな。星がたくさんあって、綺麗だ。本当に。」
「っ!?」
顔を見なくとも隣にいた日向が驚いたのが分かった。
なんだよ、俺がちょっとぐらい素直になっちゃ悪ぃかよ。
そう思って見ると、日向は、
暗がりでもはっきり分かるぐらい顔を真っ赤にしていた。
「?…なんだよ」
「い、いや…だっておれ今、なぁ…、影山を…」
「俺が、なんだよ…」
「うっ………か、可愛いなって…思った…。」
おれ、やっぱ影山のこと…好きみたいだ。
…は?最後の付け足しはなんだよ。なぁ、日向。どうしてくれる。俺、今凄く目頭が熱くて、鼻の奥がつんと痛くて、目からなんか零れそうだ。
愛しい。失いたくない。
コイツがいなくなったら、俺はきっと耐えきれない。
くそ、くそ、俺をこんなに弱い人間にしやがって。
「…っ、ばか日向…」
「!?なんだよいきなりっ!か、影山…?泣いてんの…?」
泣いてねぇよ、と言いたいけど、今喋ったら嗚咽しか出ない気がして、何も言葉に出来ない。
カシャン、日向の自転車を止める音。
腕を引かれ、振り向き様に唇が重なった。
「んっ…」
日向の、必死で一生懸命で激しいキスは、互いの言葉を補うようにどこか優しく、
少し屈んで首もとに手を回すと、掻き抱くように腰を引き寄せられた。
しばらくして、日向がそっと離れると潤んだ視界のせいでコイツが揺らいだ。
俺の両手をガシッという擬音がつくくらいの勢いで日向が掴む。
そして、俺の何倍も何倍も言葉を紡ぐ。
「かげやま。」
「おれ、傍に居るから。」
「これから先、学校行って、部活やって、そりゃ楽しかったりつらかったり色々あると思うけど、いつも、お前が隣にいて、お前に淋しい思いなんか絶対にさせなくて、」
「おれ、お前のこと絶対離さないからっ…何があっても、ずっと居る。お前が望むんだったら何処だって行ってやる。」
だからさ、も、う…泣くなよ、な?
「泣いてんのは、お前だろ…」
「う、うるせっ!!先に泣いたの、影山じゃねーか!!」
「っ、お前ほどみっともなく泣いてねぇ、よ…ほら、鼻水たれてんぞバカ」
「うわ、ティ、ティッシュ!!…………わり、影や…ま…」
鼻をかみ終わったのをきちんと確認してから、コイツの肩に顔をうずめる。
今までずっと寂しくて、
でも今はすごく日向が大切で、大切にしてほしくて、
どういう訳か涙が止まらない。
ありがとな、ありがとう。日向。
好きだ。お前が好きなんだ。言えなくてごめん。
でも、我が儘でも良い。わかってほしい。
「今日の影山は、すごく…甘えただなっ」
「……うるせー、ちょっと肩貸せ。」
きらきら星は見ていた
(流れついた先で、また出逢えますか。運命の人)
明日は七夕ですね´`
織姫な飛雄ちゃんはどこに行けば会えますか?←