続きです。時間軸的には、青城戦直後。
すごく…報われません。
烏野に入って初めての練習試合、相手校である青城には中学時代のキャプテンである、及川さんがいた。
正直言って俺は及川さんが苦手だった。
いつもトビオちゃんトビオちゃんと言って、馴れ馴れしく肌を触ってくるし、
才能に恵まれ周りに持て囃されても、そんな外野に浮かべる愛想笑いは心底薄っぺらい。
何より、あの何を考えているのか全く分からない濁った瞳が俺は一番怖かった。
及川さんが引退する日、俺は一応同じポジションとしてお世話になったし、当たり障りのないような挨拶をした。
するとあの人は一瞬だけ意外そうな顔をした後、どうにも分類できないような笑顔を浮かべながら、耳元で俺にこう言ったんだ。
「大丈夫、何度だって繰り返すから。トビオちゃんのためならネ」
あの人が何を言っているのか、全く分からなかった。
まるで、知らない間に自分と及川さんの関係性に拭いきれない歪みが生じたような、そんな口ぶりだった。
でも覚えていない。
というか、覚えてないんじゃなくて、そんなもの初めから無かったんだと思う。いや、思いたい。
だって今、無性に彼が怖い。
繰り返すって、何を?
思い出さなくて良いハズなのに、何も無かったって思いたいのに。
確かに"それ"は俺の中に不安の影を残したまま、この日及川さんは北川第一中バレー部から姿を消した。
「ちょっ…どこ連れて行く気ですか、及川さんっ…及川さんってば!!」
青城と烏野の試合が終わった直後、トイレを借りようと思って一人になった瞬間、
及川さんに手を掴まれ引きずられるようにして連れて行かれた先は、殺風景な部室。
「この部室余っててね、今はどの部活も使ってないんだー」
「何で、こんなところに…」
「いやぁ、トビオちゃんと久しぶりに話がしたくてさ。それには周りの奴ら、邪魔じゃない?それにやっぱり、部室って言ったら俺たちの思い出の場所じゃない」
は?なんの、思い出
なに言ってるんだよ
あれ?
俺、昔、
この人と、
北川第一の部室で、
二人、きりで、
あ、
「馬鹿だねぇ、トビオちゃん。記憶を改ざんしたって、違う高校選んだって、いずれはこうなるって決まってたじゃない。少しの間だけ逃げて、自分守ったつもり?」
及川さんが、俺を強くロッカーへ押し付けた。
それは躊躇もなく、俺の脳に唐突なフラッシュバックを起こす。
「あ、っ…、い、嫌、嫌だ、やめ、て…」
怖い、怖い怖い怖い、怖い怖い怖い怖い怖い!!
「嫌だっ…誰か、誰かぁ!!」
俺は、
俺は、
あの日、
「何、誰かって」
「いるわけないじゃん、そんな奴。」
「まぁ、トビオちゃんが思い出そうが思い出さまいが、関係ないんだけどね。」
「何度だって繰り返すだけだよ。そう、トビオちゃんに約束したもんね。」
記憶が脳を揺さぶる。状況を受け止めきれず、身体は身じろぎ一つ出来なかった。
あぁ、そうだ。俺はこの人に口を塞がれ、狂ったように愛を囁かれ、無理矢理身体を暴かれたんだ。
全部、全部思い出した。
「ふぅっ…、ぐ、うぅう…、」
ただ、ただ涙が止まらなかった。
恐怖も、悲しみも凌駕した感情が俺を満たして、もう、耐えきれない。
なぁ、……及川さん。
「…………また泣くんだね、トビオちゃんは。…どうしてかなぁ、こんなに愛してるのに。………なぁ、…飛雄……」
「…許してくれなくても良いから」
循環さえこの世の理になれない
(理由なんて、とうの昔に知ってたよ)
時々大王様が正気に戻るんですよね。愛しているに大切にできないから彼は余計に自分を許せないんですよ。
うん、なに言ってんですかね私は^^^^