こちらの企画に提出させて頂きました!!
2巻の青城との試合の後。
金田一と日向の邂逅から。














「げっ…」

「あ、お前、青城のらっきょう!!」


出会い頭にこんな失礼な呼び方をしてくるコイツは烏野にいる同い年のチビ、名前は…そうだ、日向だ。

めったにないオフ、日頃の疲れか昼まで寝ていた俺は起きて朝昼混合の飯を食った後、前々から行きたいと思っていたスポーツショップに足を運んだ。

そこで、サポーターでも新しく買い換えようかと、陳列された商品を吟味していたところに、

現在烏野で影山と共にプレイし、あまつさえ俺のスパイクを片手でブロックしたコイツとはちあわせた、ということだ。



このスポーツショップ店は東北の中でもやや都心部にあるものの、特別烏野や青葉城西に近い訳でもない、
金田一にとっては、たまの休みに自分のペースでゆっくりするにはなかなかの穴場でもあったのだ。
それがまさか、こんな予想もしなかった顔に出くわすとは。
思わずため息が漏れた。





「あっ、なんだよ!あからさまに嫌そうな顔しやがって!」

「お前なぁ…空気読めよ。そこ無駄に絡んでいく必要あるか?」

「だ、だって…一応顔見知りなのに、同じ場所にいて何も話さないなんて、なんかおかしいっていうか、気まずい…というか、」


と、口を尖らせながら言葉を選ぶ日向。
変なところでナイーブというか、良く言えば律儀か…。

同じ空間にいる限り、こいつの存在が視界にチラつかない訳にもいかない。

意外な出来事に出くわした時、顰められる眉。尖らせた口端。
時々、不安そうに逸らされる瞳。

コイツの顔をまじまじと見たのは初めてだった。
でも何故かそこに、中学時代の影山が時折見せた仕草の一つ一つが、思い出される気がした。

影山、か。



「なぁ、」

「な、なんだっ」

「影山は、そっちではどうだ。」


一瞬、日向の大きくて丸い瞳が意外そうに見開かれた。
中学時代、影山と上手くいってなかった北川第一出身である俺が、影山の近況を聞いてくるなんて、予想してなかったのかもしれない。

「どうだ、と言われてもなぁ…」

「い、いや。やっぱり何でもない、忘れろ。」

「なんだよ、聞いてきたくせに。気になるんだろ」


すぅ、と日向の瞳が真剣味を帯びて、俺を見つめる。影山のこと、だからだろうか。

先程までの、身体いっぱい使って自らの感情を表現する"少年"はもう何処にもいないような気がした。

日向は、まるで周りの空間と自分を遮断したかのような静謐さをもって、自らの想いを語りだした。


「最初はな、いつも怒ってて一言多くて嫌みったらしくて、こんな嫌なヤツとバレーボールなんて出来るのかなって、思ってた。」

それはもう知っていた。
青城のトイレでコイツと遭遇した時の態度は、やはり影山は何処に行っても王様なんだな、という想像に容易い現実を突きつけてきた。

でも、実際は違った。

影山は100%コイツに合わせた正確で精密なトスを出し、自分に非があると感じたなら素直に謝り、笑顔で、バレーボールをすることが。
コイツにトスを出すことが。

心底楽しくて仕方がないといった表情を浮かべていた。
あんな影山を、俺はおろか北川第一の人間は誰も見たことがないと思う。

そんな俺の思考を知って知らずか。日向は続ける。


「でも今は影山とバレーするのが本当に楽しい。影山が一生懸命おれにくれるトスが、おれは本当に大好きで、大切だ。そりゃ、今でも一言多かったりすぐ胸ぐら掴んできたり、嫌な所もたくさんあるけどさ…」

影山いないと、きっとおれダメだと思うんだ。

「だからおれ、影山のことすっげぇ好きだよ。」








は、なんだよ。なんなんだよ。
烏野には、俺の知らない影山がいて、こんなにもお前のことを好きだって奴がいて。
そんな仲間たちと今、お前は笑いあって肩を組んで喜びあうのか?

なぁ、影山。分かってる。
決して意味のない問いだとは分かっているけど。

俺たちにも、そんな未来があったのか?


「へっ。ど、どうしたんだお前?」

「あ…?んだよ」

「だってお前、すごく、泣きそうな顔してるから」




はぁ?んな訳ねーだろ。
アイツは俺にとってはムカつく王様でしかなくて。いつだって独りで闘っていたから、俺はアイツの背中ばかり見てて。


だから。だから、こんなに、胸が締め付けられるようで、苦しいなんて、嘘、だろ。
こんなにも、認めたくないのに、



「……ずりーんだよ…」


本当の言葉は、心の隙間を縫って、不意に流れ落ちた。





俺だって、俺だってなぁ。
本当は、影山の"仲間"になりたかった。

アイツがトスを出して、俺が全力でスパイクを打って。円陣組んで、帰り道にコンビニで買い食いして。時には本気でぶつかり合う。

そんな当たり前のようで、酷く難しく、届かない距離を。
俺は埋めることさえ出来なかったから。


「…悔しい、悔しいけど。認めたくもねーけど、多分…お前に嫉妬してるんだと思う。」
「本当なら、影山の隣でお前みたいに、俺は…!」


「だってさ、影山。」



一瞬、日向が俺の言葉を遮って、戸棚に話しかけたのかと思った。
いや、正確には戸棚ではなく戸棚の向こうの通路にいる、影山に話しかけてるのだと気付いたとき、俺は。



「きんだ、いち…」



どんなに情けない顔をしていただろうか。



「お、前。いつから…」「わ、悪いっ!!今日おれ影山と出掛けるからこの店で待ち合わせしてたんだ!で、早く着いちゃったから、先に見てたら…」

「俺が来た、って訳か…」



もはや狼狽する気も起こらない。
半ば諦めのような気持ちで影山を横目で見やった。

すると、黒く、ややつり上がった大きな瞳は戸惑いに揺れ、そんな影山がいつもより小さく見えた。


「…………金田一。」

「な、なんだ。」

「俺、やっぱり謝らない。」


だろうな。良い、分かってる。
むしろ謝ったりしたらぶん殴ってやる。


「だって、俺が謝ったって中学時代に戻れる訳でもないし、……俺がしてきたことが、償われる訳じゃない。」
「でも、俺は烏野に来て分かった。1人じゃ勝てない、バレーは6人でやるもんなんだって。バレーは"繋いでナンボ"のスポーツなんだって。それが分かったのは、お前の存在が大きいと思ってる!!」

「かげや、ま」

「…たまに、俺の本気のトスを、お前が気持ちよくスパンッ!!って決めた時、あっただろ。ずーっと意地張ってて言えなかったけど、」
「本当は、嬉しかった。」



アイツがちょっと涙声になっていると気付いた瞬間、目頭が熱くなるなんて。
俺はどうかしてしまったのだろうか。



「3年間隣に居てくれたこと、感謝してる。………ありがとう、金田一。」




やめろよ。やめてくれよ。
俺は、俺たちはあの決勝でお前を見限ったんだ。拒絶したんだ。しんどくて、辛くて、もう限界だって。


なのに、お前にそんなこと言われて、俺はどうすれば良いんだ?





口には出さなくても分かるよ、影山。
お前、今すごく幸せなんだな。なんだ。

気づいたその瞬間が、潮時じゃないか。





俺は踵を返して、店から出ようとした。


「っ、金田一!!」


影山、お前はもう大丈夫だよ。
だから、後少しだけ好きなこと言わせろ。


「あーあ!!考えてみれば、お前の私服姿見るの。俺、今日が初めてかもなー!」


振り返らずとも、影山が肩をびくっとさせたのが分かる。それはそうだ。そんな環境を作り上げたことに少なくともお前に責任があるんだから。

だから、これが最後だ。



「ま、似合ってんじゃねーの?」












(好きだった、例え触れられなくても)
痛いくらいの想い
(出来ることなら見つめていたかったよ)











なんか、〆切勘違いして遅刻したような、気がしなくもな………すいませんでした(土下座)
途中でひなたんがステルスしたのは空気を読んだからです(^ω^)

ありがとうございました!!


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
第4回BLove小説漫画コンテスト開催中
リゼ