「成…神…?」
ひんやりと冷えた部室に静かに響いた震える声は恐怖を帯びていて、頬から滲む鮮血は淡い褐色によく映えた。
「先輩、綺麗です」
ナイフに付いてるまだ温かい血をゆっくり味わって舐める。ああやっぱり、先輩の血は甘い。
「どうして…」
「ねぇ、先輩。源田先輩のことは好きですか?」
えっ、と目を丸くしたあと、すぐに俯く。その時頬がピンク色に染まったのを俺は見逃さなかった。わかりやす、そういうところが知らないうちに人をイライラさせてる事、気付かないんですか?
「先輩、俺、結構我慢したんですよ?」
言いながら一歩、また一歩先輩との距離を縮めていく。白熱灯の明かりでキラリと光るナイフの刃を見て、オレンジ色の隻眼が見開かれた。ギリギリまで距離を詰めると、先輩はへたへたと地面に崩れた。目線を合わせるためにしゃがんで続ける。
「もう限界なんです」
「やめ、源田ぁ!!」
「源田先輩は来ませんよ」
「……まさか」
「ご察しの通りです」
にこりと笑顔を作ると佐久間先輩の表情がみるみる青ざめて、隻眼からはぽろぽろと大粒の涙が落ちる。あーあ、泣いちゃった。嘘ですよ。源田先輩なんか殺したりしてませんよ。俺もそんなに暇じゃないんで。
それより自分の心配をしたほうがいいんじゃないですか?こんなときまで源田先輩なんかの心配しちゃって、よっぽど好きなんですね。嗚呼、ムカつく。でももういいんです。だって先輩はもう俺の、俺だけものだから。