小ネタ こっち向いてノ〜リ←(存在証明?)
2016.12.17 Sat 22:48
※ストレスマッハ第六弾
※注意は前々…回参照
【これが俺達のシーソーゲームだけどなんか文句あっか】
天下の白ひげ海賊団は、今日も今日とて荒事が絶えない。
ノリはエースの視界の端で、取り囲む敵の海賊達の急所を的確に再起不能にしながら闘っていた。
それは男では不可能な程、容赦も躊躇いもなく、効率よく鮮やかな動きだった。
つまりは余裕な訳だが、如何せん数が多い。
ようは女相手にたかを括られているのだ。
「ッ、だあー!雑魚が次から次へとわらわらと鬱陶しいッスー!」
炎の能力者でもないのにノリの背景が燃え盛って見えたのは、敵の海賊達だけではない。
頭に血が上ったノリは、大抵無茶をして怪我をする。
「ノリ!落ち着け!」
エースは叫ぶが、ノリはもうムカ着火ファイヤーしてしまっている。
冷静であれば、敵の男が股間に鍋蓋を装備している事に気が付けた筈だ。
思いっきり蹴り上げて、悲鳴を上げたのはノリだった。
「いってえーッス!」
だからと言って退く様なノリではない。
ニヤリと笑う敵が振り下ろす太くて長いナイフに怯まず、多少の怪我を承知で懐に飛び込んだ。
痛い。
視界の端で血が飛んだ気がするし、間違いなく近くから血の匂いがするが、自分のものではない。
痛いが、それは切られた痛みではなく、強く抱き締められた痛みだ。
その懐が誰のものかなんて、感覚でわかる。
それなのに、熱くもなければしっかりと腕の感触がある事から、血の気が引いた。
「隊長!」
ノリを庇ったエースは、左腕を負傷しながら敵を睨みつけ、竦ませた。
その隙にノリは軽く飛んで敵の頭を蹴り飛ばした。
その時のノリの荒れっぷりは、平クルー達が「ノリを怒らせないようにしよう」と肝に銘じる程だった。
拳から血が噴き出るのも構わず、エースを傷付けた敵を禍々しい表情でひたすら殴り続けた。
理由は「私もまだ隊長に一撃入れた事無いのに、テメエみたいな雑魚が何先越してんスか。」だ。
「テメエみたいな雑魚に傷付けられる様な雑魚隊長の部下の下っ端とか、恥ずかしくて生きていけねえじゃねえッスか。」に続き、「汚名は自らの拳で返上する、それが私の信条ッス。」を実行した。
敵が動かなくなったところで漸く清々しい表情を浮かべ、また戦場を駆け回った。
それを溜め息一つで見送ったエースも、簡単に止血して戦闘に戻った。
それからノリは一層自らを鍛えた。
暇さえあれば筋肉という筋肉を痛め付け、丈夫そうな仲間を見つけては体力が尽きるまで取っ組みあった。
「コラ、ノリーッ!」
それでノリの気が済むならと静観するつもりだったエースだが、マストの上で見張りをしながらの懸垂は我慢出来なかった。
「危ねえだろ!?」
「あれくらいで落ちねえッスよ。」
「グランドラインは優秀な航海士でも気象を読むのが難しいんだ!突然強い風が吹く事もあるんだぞ!?」
「…さーせん。」
怒られているノリは頑なにエースの方を見ない。
不貞腐れているのが明らかで、流石に通りすがりの平クルーの先輩がノリの頭を叩いた。
「いい加減にしろ!エース隊長になんて態度とってやがる!?」
ノリは唇を尖らせるだけでうんともすんとも言わない。
「エース隊長は無茶ばっかりするおまえを守るために怪我までしたんだぞ!それを仇で返す気か!?」
「…余計なお世話ッス。」
今度はゲンコツをお見舞いしてやろうとした平クルーだったが、直前でエースがノリの頭を片手で包んで守った。
「そのくらいにしてやってくれ。」
「しかし、」
「これでもノリは反省してんだ。」
「は?」
エースがそのまま頭を撫でれば、ノリの目から涙が零れた。
ぎょっとする平クルーに、エースは笑って見せる。
「あーあ。やっと泣いたよ、この意地っ張り。ありがとな。」
もうノリしか見えていないエースの目に、平クルーはむず痒い思いを抱えてそそくさとその場を去った。
「隊長、私は悔しいッス。」
「そうだな。」
「エース隊長に怪我をさせてしまった事が、悔しくて、情けない。」
「だろうな。」
「謝りたくもない、感謝も言いたくない。どんな安っぽい言葉でも態度でもあんたは受け入れちゃうから、帳消しにしちゃうから、…大嫌いッス。」
「ごめんな。」
「そういう所が嫌いなんスってば!」
顔を上げたノリは鼻を啜った。
「私を嘗めんじゃないッスよ!何スか、その上から目線!広い懐で受け入れてやるぜ感!」
「そんなつもりじゃ、」
「年下のガキが偉そうなんスよ!もっと言う事聞けって怒れよ!そんでもって助けてやったぜ感出せよ!その方がこっちも楽なんだよ!」
「でもノリ。そういう奴、大嫌いだろ?」
「唾吐きかけるくらいにな!」
「だろ?」
「だから悔しいの!自分を許せないの!」
「だから俺だけでも許してやんなきゃ、ノリはまた無茶するだろ?」
エースは心底ノリを心配していて、それをひしひしと感じているノリは唇を噛み締めた。
「悔しい。」
「俺も怪我をせずにノリを守れたら格好良かったんだけどな。」
エースだってノリにそんな負い目を感じさせた事が、少なからず悔しいのだ。
それを顔にも態度にも出さず、また無茶をするまでは見守ってくれていたのだ。
ノリは守られた時に包まれた懐の感触を思い出し、頬を染めた。
「嘗めんじゃないッスよ。」
「は?」
「私は格好悪い男に助けられる程、落魄れちゃいないッス。」
「…。」
ノリの言葉を反芻し、暫くして理解したエースは顔を真っ赤にさせた。
ノリは、まだ包帯の取れていないエースの左腕に触れ、目を閉じた。
「痛いの痛いの、飛んで行けッス。」
ノリの手も、敵を滅茶苦茶に殴り付けた時の傷が癒えていない。
その手に触れようとしたエースだったが、ノリが目を開けたので吃驚して出来なかった。
「さっさと治して私に後ろめたい思いさせないで下さいッス。」
「…はい。」
「あーあ、ちっくしょー。マジ強くなってやるッス。」
架空の敵を殴りながら去り行くノリの背を、エースはまた溜め息を吐いて見送った。
お互いの怪我が治った頃、またも大きな荒事があった。
ノリはやたらとエースの視界から消えようとするので、エースは必死だった。
「コラ、ノリ!どこ行くつもりだ!?」
「だってエース隊長、近くに部下が居たら闘い難いでしょうよ!?」
「は!?」
避難を終えた二番隊を背に、ノリは満開の笑顔で二番隊隊長を指さした。
「行けーッ!人間火炎放射機!」
「後で覚えてろよ!?」
「珍しく頼ってやったんスから喜べ!」
「そういやそうか!よし任せとけ!」
泣く子も黙る筈の火拳のエースの格好悪さに、敵は戸惑いつつ燃えて行く。
それをノリはご機嫌で見守っていた。
マルコはノリに目線を合わせた。
やはりその位置からはエースが輝いて見えた。
「珍しいじゃねえかよい、ノリ。」
「でしょ?たまには隊長を立てとかないとって思ったんス。」
「ほお、どういう風の吹き回しだ?」
「どうせ超えるなら高い目標の方がやり甲斐があるッスからね。たまには自分の目標がどんなもんか確認しときたいんス。」
「…ふーん。」
その位置からはエースがただの目標には見えないマルコだったが、口には出さない。
普段は尻に敷かれているがいざという時に自分を守る男が、どれだけどこまでいかに格好良いか、久し振りに確認したいだけじゃないのかと、思ったが口には出さない。
照れたノリではなく、「余計な事を言うんじゃねえ!」と割と察しの良いエースに殺される。
マルコが「お」と思う間もなく、ノリは走り出した。
エースの炎に怯まず、ダイナマイトを体に括り付けた敵が走って来た。
あの火薬の量では船が大きく破損する。
エースが気付き、炎を回収し始めるが間に合わない。
その炎を裂いてノリはダイナマイトの敵に体当たりをした。
体格差で敵はよろめいただけだったが、足は止まった。
ノリは押し返された体勢を整えて踏ん張り直し、短い助走で精一杯力を込めて敵に飛び蹴りを喰らわせた。
敵は船の外に蹴り出されたが、導火線に既に火は点いていて、勢いが付き過ぎたノリの体も海の上だ。
エースは慌ててノリの襟首を掴んで引き寄せ、爆発の余波から抱き締めて庇い、甲板の上を転がった。
しかし、引き寄せた時にエースの炎は完全に回収し切れておらず、また咄嗟過ぎて抱き締められたのは飛んでいたノリの腰だ。
ノリは抱き締めて庇ってあげたエースの頭を解放してやり、火の付いた服を払って得意気に鼻の下を指先で擦った。
露出した肌だけでなく、顔にも火傷の赤みがある。
ノリのおかげでどこもかしこも痛くはないエースは、怒りと心配が過ぎて言葉が出て来ない。
その隙にノリは両手を腰に当てて鼻を鳴らした。
「私の気持ちがわかったッスか?」
はっ としたエースは、唸るだけだ。
ノリは嬉しそうに笑う。
「いい気味ッス!」
「…ちくしょう。」
片手で顔を覆い項垂れたマルコから報告を聞いた白ひげは、手負いの獣の様だった子ども達が生意気ではあるが健やかに育っている事を喜んで豪快に笑った。
「あ、隊長。まーた鼻血出てるッスよ。」
それから暫く。
エースはノリの懐の感触を思い出しては、溢れ出る、男盛りにしては稀有な純情を、もう直ぐ捨てるから丁度良い雑巾で容赦なく掻き消された。
「今日も暑いッスからねー。」
「まったくもってそうっすねー。」
ついでに心の涙も拭いてやれよい。
マルコは物影からどんよりと生温い目でエースに同情した。
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