バトン 狂い咲き@↓続き
 2013.11.03 Sun 09:55


※続き


(10)星のような花びらの雨

喋りたいのに喋れない。

口を開けば花弁が入ってくる。

「すげえ」とか「綺麗」とか言いたいのにもどかしい。

我慢して黙ってたのに、あざ笑うかの様に口に花弁が付いた。

大口開けて喰う勢いで何か叫んでやろうとしたら、兄さんが笑った。

つい、と指先を俺の唇に伸ばし、取った花弁に口付けて投げ捨てた。

いちいちエロいなこのアラサーは。

ふと、自分もエロい部類に入る事を思い出した。

兄さんの耳元にある花弁に目を付ける。

兄さんを指で招いて、耳元に口を寄せた。

唇で食んで取り、それを舌先に乗せて見せた。

最後に片目を瞑ってやったら、兄さんは何を思ったのか、それを“食べた”。

「何すんわぶっ!」

嗚呼、悲しきかな。

花弁が最後まで言わせてくれなかった。

小馬鹿にする様に笑う兄さんの頭を代わりに軽く叩いた。


(11)言い出せなかった、

給料日に兄さんが俺の好きな菓子を買ってくれたから、「お礼に何が欲しい?」って聞いたら、「言葉が欲しい」って返ってきて、口を開いては閉じ、数分。

今に至る。

いい加減、兄さんも飽きてはくれないものか。

いつまで待つつもりだ。

出鼻をくじいた時点で、俺に言う気はないぞ。

でも、それすらも言える雰囲気ではないから、口を開いては閉じる。

やめろ、真っ直ぐ俺を見るんじゃねえ。

俺は冗談や軽口じゃねえ限り、んなこっ恥ずかしい事、地球最後の日でもねえ限り言わねえぞ。

「今でなくて良い。」

見かねた兄さんが、また折れてくれる。

今でなくても俺からは絶対言わねえぞ。

でも、「それで喜んでくれるなら」と思わないわけじゃない。

だから、いつも言わないんじゃない。

今日もまた、言い出せなかっただけ。

兄さんもわかってるから、きっかけを作ってくれてるんだろうけど、わかってるなら、いい加減物を所望して欲しい。


(12)忘れてゆく大事なこと
→白輪

「弱い者虐めは駄目だ」とか「人を傷つけるな」とか、わざわざ言われて育った訳じゃない。

それは父さんや、兄さん達が上手に育ててくれたから、俺は頑なにそういうのが嫌いなんだと思う。

だからと言って、今の兄さんが嫌いな訳じゃない。

やっぱり大好きだった。

だからこそ、俺は忘れない。

今の兄さんの根本を。

兄さんが忘れゆく大事な事を。

忘れなければ鬼の名を背負えない優しい兄に代わって、この俺が。

大丈夫、貴方は間違ってない。

昔も今も、優しいだけ。

俺は知ってるよ。

忘れないから。だから気が済むまで自分の道を走って。

俺がずっと、隣に居るから。


(13)守りたいものがある、だから僕は
→白零輪

倒したいと言うよりも、守りたいものの為に、倒すべきものが出来た。

この身体が一つである事が、口惜しい。

守るだけでは堂々巡り。

倒すだけでは守れない。

連れて行けばまた話は違うのだろうが、そんな事出来るわけがない。

気丈に振る舞う幼い弟を飽きもせず眺めて、考える。

何処か面倒を看てくれる所は、と思うまでもない。

こいつは吉田松陽の養い子、特大の厄介事の種だ。

例え引き取ってくれても、一般家庭が守り切れるわけがない。

誰か残る、という案が一度出たが、それは各々の心情が許せず、もう誰も口に出さない。

誰よりも大事な弟を前に、俺でさえそうだ。

「桃。」

「ん?」

「愛してる。」

「俺も!」

だからこそ。

満開の笑顔で抱き着く弟を抱き返し、見直す。

俺達が愛する弟だ。

それに奴等が目くじらを立てる血縁はない。

大丈夫だ。

惜しみなく闘おう。

いつか来る平和な世で、おまえが穏やかに暮らせる様に。

俺達の背をじっと見上げて育ったおまえの事だ。

勝手だが、わかってくれる。

辛くて悲しくて泣いてしまっても。

恨んでくれても良い。

生きて欲しいと、わかってくれる。

「大きくなった頃には、もうこの腕に収まってはくれねえんだろうな。」

「?そんなにデブにはならねーよ。」

「…、くっくっ。」

笑いが堪えられず肩を震わせる。

笑われて不機嫌になる細く小さな身体を改めて抱き締める。

直ぐに機嫌を直してくれた。

「じゃあその時は俺が晋兄を抱っこしてやるよ。それなら寂しくねーだろ?」

「…ああ。デッカくなれよ。」

「おう!」

何とも頼もしい弟だ。


(14)花びらはただ波に散りゆく

いつもは元気いっぱいな目は半分程しか開かず、詰まらなそうにテレビを見ている。

場面は小川を流れる花弁の大写しだ。

綺麗ではあるが、弟は花より団子の育ち盛りだ。

「俺が死んだら兄さんどうする?」

頬杖を付きながらせんべいをかじった弟は、唐突に適当に問いを放り投げた。

無視してやろうかと思ったが、こちらを見る仕草が可愛かったので付き合ってやる事にした。

「死に方は?」

「んー、じゃあまずは交通事故。」

「相手を殺す。」

「即答かよ。じゃあ病死。」

「医者を殺す。」

「首吊り自殺。」

「準備段階で止める。」

「いやいや、俺が死ぬの前提だから。」

「…死体下ろして綺麗にしてやる。」

「じゃー、飛び下り自殺。」

「自殺するなら俺を呼べ。俺も死ぬ。」

「…。」

一瞬止まった弟は、何を考えてるのかわからない顔でせんべいを置いた。

「今さ。俺はテレビを見てて、綺麗に舞ってた花弁が川に落ちて水に流されて揉まれて沈んでくのを見て、何か虚しいなって思ったわけよ。」

「…おまえでも今の一瞬で何か思う事があるんだな。」

「今は失礼な発言は置いておく。そんでさ、」

弟はまた頬杖を付いた。

物憂げな顔は美しい。

「死んだ俺を見て、兄さんガッカリしねえかなって思ってさ。」

「するか、馬鹿。」

「…。」

即答してやれば、照れた弟はテレビに目を戻し、せんべいを掴んだ。

大きな口を開け、豪快に咀嚼した。

頬に付いた食べかすを取ってやる。

「俺にガッカリされたくなきゃ、生きてる内にもう少し行儀良くしろ。」

「却下。」

残りのせんべいを食べ終わった弟は手を拭き、飛びかかってきた。

「そう言えば誰が無神経じゃーッ!」

「誰もそこまで言ってねえ。」

頬を抓ったり顎で頭をぐりぐりしたりしてじゃれつく弟の好きにさせる。

最後に抱き着いて落ち着いた。

「俺より先に死んでくれるなよ、桃。」

「やだよ。置いてくなよ。最後まで面倒見てよ。」

「…。」

全く、俺の弟はいつも可愛くて仕方が無い。


(15)差しのべた手
→輪咲

兄さんは、基本的に俺が伸ばした手を払わない。

それどころか、むしろ、絶対握り返してくれる。

ああ、もう、大好き。

だから構って欲しい時は手を伸ばす。

抱き着くのも効果的だ。

名前を呼ぶのは俺的に負けた気がするし、そもそもその必要が無いからしない。

兄さんの片手は広げた新聞の端を持ち、もう片方は俺の手の形を確かめる様に握り方を変え、たまに指を絡めたり力を込めたりして遊んでくれる。

凛々しく、目つきの悪い隻眼は、ずっと小難しい内容の見出しがデカデカと書かれた記事を追ってる、んだろうな。

昔は一通り目を通したら「少しは新聞を読め」って膝の間に座らされた。

今は「報道には耳を傾けとけ」って膝の間に座らされる。

…俺より小さいくせに。

兄さんの逞しい胸板にうっすい背中を預け、報道を聞いてる振りで難しい顔をしておいた。

逆に、俺も、兄さんにハッキリ手を差し伸べられたら、迷わず取る。

飛び付く。

呼ばれるだけで、犬みたいに喜んで駆けて行く。

だから兄さんはあの時、直ぐには姿を現さなかったんだ。

俺が昔みたいに何も考えず、その差し伸べた手を取らない様に。

昔みたいに、覚悟なしでは取れない手になってしまったから。

昔も今も、俺にとっては何も変わらない手なのに。

ふりふり、兄さんの視界で呼ぶ様に手を振る。

今回は邪魔ってのもあるだろうし、兄さんは直ぐに握り返してくれた。

「…ゴメンナサイ。」

だけではなく、指先を軽く噛まれた。

「集中しろ。」

「…はい。」

兄さんは俺の手の甲に愛情たっぷりに口付け、握り込み、そのまま俺の腹を抱き直した。

昔も今も、“この手”は変わらないのに。

「(…顔、熱。)」

今こそ色々、遠慮して欲しい。


(まだ続く)



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