バトン 剣と月の祝福を@
2013.08.04 Sun 20:43
喧嘩発散ばとん
※第21話後のダレンです。
ジヴーニャは長い残業を終え帰社途中、まだまだ賑やかな夜の街中で鬱々とした背を見つけ、駆け寄った。
途中、ヒールがアスファルトの割れ目に引っかかったが、何とかこけずに済んだ。
「ダレンよね?こんばんは。」
外套を軽く引っ張られて漸く気付いたダレンが振り返る。
「…ああ、ジヴーニャか。」
「ど、どうしたの?」
そのあまりの顔色の悪さに、正義感の塊であるジヴーニャは心配して問わずにはいられない。
ダレンは今にも泣きそうな声で答えた。
「ギギナと喧嘩をした。」
「…え?」
「家から追い出された。」
「え、…えっと、」
これは大変だ何か出来る事はあるだろうか、半分。
これは大変だ間違いなく面白い、半分。
「とにかくここではなんだし、ご飯でも食べながら話を聞かせてくれない?」
ダレンは無言で頷く。
フードから銀の長い髪が力無く垂れた。
その髪からは風呂上がりの良い香りがした。
喧嘩した時の気持ちの整理に!
◎喧嘩したのはいつ?
「ついさっきだ。」
◎場所は?
「今日、俺は自宅待機だったから、いつもの様に引き籠っていた。」
◎きっかけは?
どっちから売ったの?
「勉強に集中している隙に、部屋が、…少し、汚くなっていた。」
「少しで?」
「…俺にとっては少し。」
「…成る程。」
◎そもそも前々から彼(彼女)のどういうとこに不満があった?
「そもそも俺がエリダナに移り住んで大分経つのに散らかして良い部屋を作らぬギギナが悪い!」
「そもそもそんなに無理して一緒に住まなくても、ダレンはお金を持っているみたいだし、エリダナで部屋を借りれば?」
「…俺に金はあっても生活力は無い。」
「…うーん、他人に素直に頼れる性格でもなさそうだしね。」
◎自分自身の悪いとことかある?
「…う。」
「わかっててもしちゃうのはもう仕方が無いとして、どうして素直に謝らないかな。」
「…何故、謝らなかったと決め付ける。」
「謝ったの?」
「…ギギナの物言いに腹が立って逆ギレした。」
「コラ!」
◎前々から彼(彼女)にその悪いとこ指摘されてた?
「…それでもいつもギギナが折れるから。」
「全く、聞きしに勝る甘えん坊ね。ギギナさんの忍耐力に脱帽だわ。」
「…。」
◎喧嘩したあと一人の時間、(今)どういう事考えてる?
「家に帰って、…。」
「…帰って?」
「部屋を片付ける。」
「そうね。それが良いわ。」
◎まだムカついてる?
「でも、ギギナが入れてくれるどうか。」
◎それとも自己嫌悪?
「何故脊髄反射で逆ギレする事は出来るのに、家に帰る事が出来ないのか。」
◎しばらく放っておく?
「でも、こういうのは時間が経てば落ち着くものだけど、落ち着いちゃうとそれはそれで謝りにくいし、相手に誠意も通じないかもしれないわねえ。」
「しかし、怒っているギギナが聞く耳を持ってくれるかどうか。…何しろ前科が多過ぎるからな。」
「…ああ。」
「…家を追い出されたのは初めてでどうしたらいいかわからぬ。」
◎彼(彼女)の方から連絡きたら?
「夜のエリダナは危ないから早く帰って来いとか、連絡は無いの?」
「…無い。」
「(うーん、あの過保護なギギナさんがねえ。これは相当怒ってるなあ。)」
◎仲直りのパターンは?
「いつもはギギナさんが折れてくれるんだっけ?」
「…うん。」
◎じゃぁこんな時に聞くのもなんだけど、彼(彼女)の好きなとこは?
「何だかんだ言って尻に敷かれてくれる所。」
「…うん。まずはその謝りにくい状況を作る元凶を何とかしましょうかね。」
(^O^)おつかれさまでした仲直りできますよーに
化け物級の単車の聞きなれた駆動音にガユスは眉を顰める。
次の交差点を信号が赤になる瞬間に単車を倒し右折させれば、信号等存在しないかの様に直進して来たギギナと並走する羽目になった。
横目に確認すれば、ギギナも嫌そうな顔をしていた。
ジヴーニャに呼び出された二人は、暫くして、指定された飲食店に着いた。
そのテラス席では、ジヴーニャがテーブルに肘を付き、長い脚を組んで座していた。
その頬は飲酒により少し赤い。
テーブルには回収しきれていない空瓶が並んでいた。
「遅い!」
「…うわあ。」
すっかり出来上がり、黒魔皇女か鬼軍曹が降りてきている普段は可愛い恋人に、ガユスはあまり関わりたくない。
何の気なしに窺った隣の相棒は、更に嫌そうな顔をしていた。
その視線の先、ジヴーニャの隣で大事な許嫁がテーブルに突っ伏していたからだ。
こちらは耳だけでなく、項まで赤い。
「ダレン。ギギナさんが来たわよ。」
「…。」
のっそり。
緩慢な動作で顔を上げたダレンは泣いていた。
「何だ、喧嘩でもしたのか?」
「私の部屋を散らかしたから叱っただけだ。」
「泣くまでやるなよ。どうせ本だろ?散らかしたくらいで可哀想じゃねえか。」
「いつも泣きたいのは私だ。」
漸くギギナを見たダレンは桜色の唇を噛み、大きな隻眼をより涙で潤ませた。
長い髪も相まって、中性的な顔立ちが際立つ。
ギギナよりは貧相ではあるが、首より下に続く、鍛えられた精鋭の肉体が滑稽だ。
ふらり と立ち上がったダレンが崩れ落ちる様にして膝を付こうとして、それは動きを先読みして駆け寄ったギギナに遮られた。
「郷の誇りがこの様な場で私如きに軽々しく頭を垂れるな。」
「…だって、」
これはかなり酔っている。
ギギナは美しい顔を苦渋に歪め、ガユスは頬を引き攣らせた。
「おれ、ぎぎにゃの部屋を散らかしたから。ぎぎにゃに怒られたから、謝らなければ。」
「それは後で良い。」
「ごみぇんなしゃい。部屋を片付けるから、家に入れてくだしゃい。」
「…。」
言葉尻が嗚咽と混ざる。
盛大な溜め息を吐いたギギナは、聖女の様にダレンを見守るジヴーニャを睨んだ。
「ぎぎにゃに嫌われたくにゃい゛ッ!?」
めそめそと泣き言を漏らすダレンを頭突きで黙らせたギギナは、ダレンの胸倉を掴んで踵を返した。
「私の様に意地の悪い女に可愛い許嫁を好きな様に遊ばれたくないなら、もう大人気ない事しないであげてください。」
「私は悪く無い筈だが。」
「それでも、ダレンが良いんでしょう?」
「…。」
ギギナは少し振り返り、花が綻ぶ様に笑うジヴーニャから逃げる様に目を逸らした。
「これでも郷の誇りだ。威厳に関わるから今後一切、酒を飲ませるな。」
「はいはい。」
「自分で歩け、帰るぞ。」
そのギギナの一言にダレンの顔が上がる。
大人しく手を引かれ、嬉しそうにジヴーニャを振り返り、引かれたままの手を見せる様に振った。
ギギナの後ろに跨り、エリダナの雑踏に消えるまでダレンを見送ったジヴーニャは、漸くガユスを見た。
「あー、面白かった♪」
「じゃあもう少し早く呼んでくれれば良かったのに。」
「あら。ガユスも結構好きなんじゃない。」
「相棒の弱みを握れる機会を逃したくないだけだよ。」
そう言ってガユスは手際良く経費で会計を済ませた。
今日、アシュレイ・ブフ&ソレル咒式士事務所は仕事が割と早く終わり、ギギナはいつもよりも少し早めに帰って来ていた。
「(今思えば、ダレンは風呂に入っていたのだ。)」
そのおかげでギギナはダレンが散らかした後を暫く眺める余裕があったのだ。
…げ、早かったな。
髪を拭きながら部屋に戻り、ギギナに気付くや否や漏らした言葉は、解釈をしようと思えば“帰って来るまでには片付けようと思っていた”にならなくもない。
今となっては確認のしようもないが、もしそうであれば頭ごなしに叱ったのは確かに悪かった。
最近は割と良い子だったから特にそう思う。
どうしたものかと思っていた所にジヴーニャから連絡が入り、救われたのは間違いない。
ギギナは幼子の様に目元を赤く腫らし眠るダレンを見下ろして、溜め息を吐いた。
「(さて。明日、ダレンは機嫌を直してくれるだろうか。)」
少しでも悲しみが和らげばと、ギギナは一晩中、ダレンの頭を撫で続けた。
藤丸:うはは!ただのばかっぷぉー!
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