返信という名の暴想
2021.05.31 Mon 18:53
眠い!眠いぜ相棒!
さすがに顔に出てるので昼は別室で横になり目を閉じる許可を得た!でも眠れん!小鳥はかわいいが鳴かないでくれ!
昼寝ですら頭を蹴られる夢を見て目を覚ましたぜ!
…夢、…だよな?(笑)
人差し指はまだ無事だ!
だがしかし顔がやばい!
くまと肌荒れがやばい!
この年になると×ニキビ〇吹き出物!
悲しい!!
ポプリ(死語)とかでがんばって寝るぜ!!
事故ったり仕事で大ポカしたりしないように細心の注意を払うぜ!!
就寝に向けた行動か〜。
お子さんがいると、寝る2時間前からお風呂もご飯も済ませて少し明るさを落としたお部屋で静かにゆっくりまったりなんて難しいもんね。
病院勤めだったときは、院長と事務長の方針でず――っと自律神経を癒す系音楽をかけてたから、やっぱり効果があるのかも。
あとは誰に聞いてもやっぱり寝る前にホットミルクらしいよ。
病院がないならネットがある!ただし寝る前は見ちゃだめだよ!!
今回の小ネタは眠れないストレスを妄想に変換し、ちょっと趣向を変えてみたよ!
【目が離せない】
ハロー、皆さん。
社畜スタッフの和子です。
身分に相応しい区域の行き来を容易にしてくれる、名札という名の首輪を今日も背中に流して自ら首を絞めつつ、魔術化と機械化が進んだカルデア内であってもまだ重宝される紙媒体のデータを山盛り抱え、真っ白な廊下を小走りで移動しています。
「(技術部の誰でもいいから、休憩中にスケートボードかキックボード作ってくんないかな。)」
以前、名札は肩が凝るというのが本音で、盗難複製などのセキュリティの甘さを建前に、顔認証にしようと誰かが提案したけれど、ひとは5徹辺りから人相が機械でも判別不可能なほど激変するらしく、網膜認証も3徹辺りから瞼が重くてなかなか上がらず機械でも以下同文、何よりそんなことにかける予算と時間が無駄とオルガマリーに却下され、未だに旧時代的な首輪が外される予定はない。
おかげで管理される側のマスター候補生達とは違い、レイシフト適性がないスタッフ側の優秀な魔術師達はちょっとだけズルができるのだ。
「(オルガマリー先輩が悪い。)」
和子は複製した上位スタッフの名札で、普段は通れない廊下を使い、早々と目的地に辿り着いた。
半分寝かかっていたミスタームニエルの椅子を軽めに蹴って起こし、荒々しく机にファイルの山を下ろした。
「早かったな。」
「これがないと仕事が進まん。相棒が手を離したところでその我儘ボディじゃ再開が深夜になる。」
「おいおい。どうしちまった、相棒。その間にまんまと休憩するのがおまえだろ?」
「単発的な仮眠で自分を騙し能率を取り戻す段階は疾うに過ぎた。次に我々に必要なのは枕を用いての睡眠だ、違うか。」
「ヤー、確かに。この山が終われば4時間はいけるな。」
「久しぶりに湯を浴びて温まってから寝たい。」
和子は、ただの水が注がれたカップの淵を指先で辿り、ミスタームニエルの目を見つめながら呪文を唱えた。
色は変わらないが、ミスタームニエルの鼻は確かに珈琲の匂いを察知した。
催眠術だからなんでもありだ、ただの水も、一口飲めば目が冴える下っ端スタッフには回って来ない上等な嗜好品になる。
「こりゃ5時間も夢じゃねえな、相棒。」
「おうよ。」
そうやって一心不乱に仕事に打ち込んだ二人だが、やっと手が空きそうなところに別担当のスタッフらが脱落し浮いた仕事がたらい回されて来る間に若干重量を増して雪崩れ込んできた。
「なんで私達は倒れてくれないんだろうな、相棒。丈夫な体が今は恨めしい。」
「違うな、相棒。俺達は体が丈夫なんじゃない、チートな裏技を使ってるのがいけない。」
「二仕事終えて、罵詈雑言を堪えるために要らない紙を丸めて口に咥えてるだけじゃないの。」
「これがお気に入りの煙草の味と匂いでニコチンに似た作用をしなきゃな。」
「魔術にも満たない催眠術程度で叱られる覚えはないわ。」
「そんときゃ一緒に正座して謝ってやるよ。」
「相棒だから当然よね。」
和子は先に一服を終え、灰皿に丸めた紙を押し付けて自分の催眠術を解き、大欠伸をしながら、シャワー30分、睡眠2時間半を堪能すべく立ち上がった。
スタッフ用シャワールームもまた、名札がなければ入れない。
鏡を見て、顔認証でなくてよかったと本気で思った。
皮脂でなかなか泡立たず、次に入れるのはいつになるかわからないので念入りに洗い流し、体力も時間もいよいよ限界になってきた。
時間になれば最悪相棒が探しに来てくれるだろうと、廊下を出てすぐ横たわった。
疲労が免疫力を下げ、濡れた髪が体温を奪っても、徹底的に除菌殺菌されたカルデアでウイルス性の風邪などひきようがない。
今は睡眠だ、これ以上削られたら死んでしまう。
「マスター。」
「いいよ、カルデアでは俺にばかり気を使わないで。」
「ありがとうございます。」
そんな会話が聞こえたような聞こえなかったような気を失うように、和子は眠りの世界に旅立った。
ふと耳元が騒がしいような気がして重たい瞼をこじ開ければ、それはドライヤーの音で、体は温かかった。
実家にいた頃は身の回りの世話をメイドがやるのは当たり前だったが、時計塔を挟んで随分と前の話だ。
もう少し意識を覚醒すれば、自分は誰かの懐にもたれるように抱きかかえられ、髪を乾かされていた。
自分は小柄だと決して認めないが、相手との体格差は明らかだ。
もっと意識を覚醒すれば、手触りで男だと、気配でサーヴァントだとわかった。
「ぶふぉ!?」
慌てて着痩せする逞しい胸板を押して体を離せば、顔面にドライヤーの風を浴びることになった。
「おはようございます、女性スタッフさん。まだ髪が濡れていますので、失礼を承知でもうしばらく大人しくしていただけますか。」
「え?は?いえ、」
サーヴァントは和子に有無を言わさず腕を引っ張って元の位置に戻し、作業を再開した。
和子は、寝不足の頭をフル回転させてこのサーヴァントが誰だったかを思い出した。
マハーバーラタの大英雄で、授かりの英雄で、インドの王子様、アーチャーのアルジュナだ。
そんな雲の上の人に何をさせてるんだと恐れ多くなったが、先ほどの強引さからして断るのは失礼な気がして行動に移せない。
そうこうしているうちに髪は乾いてしまった。
「ありがとう、ございました。」
「いいえ、どういたしまして。」
「「…。」」
相棒と軽口ばかり叩いているから、会議以外でこんなに重苦しい沈黙は久しぶりだ。
和子は重い理由の一つ、肩に掛けられたアルジュナの上着を脱いで畳んだ。
「何から何までありがとうございます。」
「いいえ、これはまだ着ていてください。」
「必要ありません。自室に戻り、正しく布団で寝ます。」
「では、再び行き倒れないように付き添います。それまで肩に掛けていてください。」
「わかりました。」
渋々と従う和子に、アルジュナは目力を強めた。
「何か意見が?」
「ありません。」
「しかし、もの言いたそうです。」
「意見はありませんが、疑問はあります。藤丸立夏君の指示ですか?」
「明確に指示されていませんが、マスターの視界で行き倒れた女性を放っておくわけにはいきません。好色なサーヴァントも多いため、風紀粛清もまた最優のサーヴァントの仕事の一つと自ら申し出ました。」
「ご迷惑をおかけしました。二度はありません。」
タイミングが悪かっただけか、そもそも男が入って来られないシャワールームで寝るか、大人しいふりをしているだけの和子の考えることなど、アルジュナにはお見通しだ。
しかしこの人に何を言っても無駄だとも直感で理解したので、眉間に皺を寄せるだけに留めた。
和子が使う共同部屋に辿り着き、アルジュナは和子に丁寧に畳まれた上着を受け取った。
「ってなことがあってよく眠れんかったわ。」
「そいつはご愁傷様だが、咥え煙草は行儀が悪いぞ。」
「スプリンクラー作動させて仕事増やす愚行を誰がするか。」
「丸めた紙の催眠術が覚せい剤の類じゃないことを信じてるぜ。」
「あー、もー、次にまともに眠れるのいつよこれー。」
「まあまあ。贅沢に三食優雅にとまではいかねえが、ランチくらいはゆっくりたらふく食おうぜ。」
「朝夕抜いても穏やかな相棒は、差し入れのお菓子を食い過ぎなのよ。」
「相棒が食わなさ過ぎなんだ。カルデアの味はお気に召さないか?お嬢様。」
「食ってる暇があったら手を動かしたい。私にカロリー摂取させたいなら横から食わせて。」
「オーライ。気が向いたらな。」
そのうち足も使って仕事しそうだなと思っていたら本当に無線マウスや画面切り替えボタンを床に置いて四肢を駆使して働く相棒の唇の端に、ミスタームニエルは定期的にチョコレートクッキーを割って押し付けた。
バリバリと噛み砕きごっくんと飲みこむところを見るに味わってはいないが、目的のエネルギー補給は果たされている。
今日のランチは何かなと期待しながら、ミスタームニエルも手と頭を働かせた。
「移動時間が勿体ない、帰りに持って来て。」
「言うと思ったが却下だ、相棒。日に一度はしっかりゆっくり食事を摂れ。」
「私は相棒ほど効率も要領もよくないから、そうでもしないと足を引っ張ってしまうのよ。」
「構わねえさ、相棒。それが相棒ってもんさ。俺だって我儘ボディのせいで相棒に遠くにある重たいものを何度も運ばせてる。」
「う〜〜、ここだけでもお昼までに終わらせたかったのに。」
「はいはい。行くぞ。」
ミスタームニエルは、動こうとしない相棒を乗せた回転ごま式椅子の背を押し、食堂へ急いだ。
椅子で運ばれながら仕事から頭が離れず顎の下に手を添え半分白目でブツブツ言っていた和子も、目の前にカレーライスが置かれれば黒目が戻って来た。
花開くように笑顔になり、向かいの席に座るミスタームニエルも釣られた。
「いい匂い!おいしそう!」
「好きだよな、カレー。」
「うん、好き。海軍じゃなかったから、ここに来るまで食べたことなかったのが悔やまれる。」
「世界にゃもっとうまい食いもんが山ほどある。エミヤ料理長の腕に期待して職務に励もうぜ。」
「夜食にカレーうどん頼んでおこうかな。」
「そいつぁ最高にハッピーだぜ、相棒。俺も一緒に頭を下げに行こう。」
「「いただきます。」」
チョコレートクッキーとは違い、和子もしっかりと味わいながら食べているので、静かだ。
和子は小柄な体に相応しく、半分ほどで満腹中枢を刺激され始め、今度は睡魔が襲ってきた。
ミスタームニエルは和子がスプーンを持ったまま船を漕ぎだしたことに気づいていたが、小休憩になればと声はかけなかった。
和子の手からスプーンが落ちた瞬間、異変を察したが間に合わなかった。
和子が愛するカレーライスにキスをするのをとめたのは、急に実体化したアルジュナだった。
いつもは涼しげな黒い目を丸くして、和子の首根っこを引っ掴んでいる。
「失礼ですが、彼女の名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
「あ?ああ、和子です。平和の和に子どもの子。」
「彼女の名だからか、なんとも気の抜けた響きですね。」
まだ目を覚まさない和子の耳元に、アルジュナは顔を近づけた。
「和子さん。起きなさい、和子さん。いくらお疲れとはいえ、食事中に眠るのは行儀が悪いですよ。」
「起こした方がいいなら、俺が的確な呪文を知っていますよ。」
じゃあ最初からそうしてくれというアルジュナの目の前に、ミスタームニエルは紙ナフキンに呪文を書いて翳した。
「誰だここ間違ってるぞ!」だ。
アルジュナの目から急激に力が抜け、それは可哀想だと首を横に振った。
ミスタームニエルが気がつけば、エミヤ料理長がラップを持ってそばに立っていた。
まだ残っている和子のカレーライスを新しいスプーンで混ぜてラップに包み、大きな手で三角に握った。
「21時頃、これにチーズを乗せて焼いて届けよう。もちろん、君の分もだ。」
「ありがとう、ございます。」
その間に和子はアルジュナに抱かれて食堂を出て行くところだった。
「アルジュナの精神性って、いやそれより男の英雄って、…理性的だっけ。」
「なんか色々難しいこと言ってたけど、つまり心配なんだって。」
「ああ、立夏。」
「俺も心配してるんだ。」
空皿を乗せたトレーを持った通りすがりの立夏は、ミスタームニエルと同じ遠い目をした。
「和子さん、生徒会長とか風紀委員とか絶対嫌いそうだから。」
「ああ、わかるぜ。会話はどこまでいっても平行線、交わることはない。授かりの英雄があれでも女に手を上げることはありえないが、俺達にできることは喧嘩にならないよう祈るだけだ。」
「うん。」
立夏はトレーを返却口に運び、ミスタームニエルは残りのカレーライスを口に運んだ。
どうせ時間通りに戻ってこないだろうから、相棒の分までがんばらなければならない。
何を察してか、料理長も協力的だった。
まあ愚痴は聞いてやるからせめてゆっくり寝てくれ相棒と、ミスタームニエルは空になった皿を乗せたトレーを持って立ち上がった。
15時頃、ミスタームニエルの相棒は誰のお下がりかシケモクを咥えて戦線に戻って来た。
最近仲のいい新選組の誰かに一本貰って、センサーのない所で燻らせて来たのかもしれない。
独特の匂いを残した顔は不機嫌そのものだが、目の下のくまが幾分薄くなっている。
「すまん、相棒。遅れた分は取り戻す。」
「おう、頼むぜ。」
本物のニコチンでやっと鎮火したのだ、何があったかなんて聞くのは野暮だ。
いつか愚痴ってくれるだろうから、そのときまでお互いこの話は忘れよう。
ただ、相棒の仕事ぶりから悪いことだけがあったわけではないとわかり、ミスタームニエルはほっとした。
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