返信かつ疲労困憊の末の暴想
 2021.05.03 Mon 08:44


もう長々と語るまい。
日々鳴りやまぬ電話に襲来に対処し、GWまで動員がかかった同士諸君に両手を合わせる。
本当にお疲れ様です。

古式ゆかしい二次作法(笑)
いや(笑)じゃないんだけど、ご丁寧にありがとうございます!
ジュナスタちゃんの名前はどうぞ笑ってください。

だよねー!
五条悟だよねー!一巻だけでも読んでこようかと古本屋に行ってみたけど、びっちりビニールで巻かれてたよねー!
GW中は大人しくしたいので、明けてから古本屋巡ってみます。
サスケ・シロちゃん・骸に落とされたヲタだもの!
慎重に行動するわ!

女前と男前が好きだよという小ネタが以下です。
いつもより雑ですみません。


<初恋(仮)>


その日、和子は目の保養とはこのことだとしみじみ味わった。
給仕も完璧な漆黒の王子様の所作はもちろん、紅茶の色は宝石のようで、高く盛られたお菓子も輝いて見える。
加えて、向かい側のレディ達があまりに見目麗しかった。
今日だけは許そう相棒、後で焼き増しを頼む。
相棒ことミスター・ムニエルは、埃一つ立てることなく床を転げ回り、最高の一枚を求めてシャッターを切り続けている。

「おお、モー様、カイ様、今日は一段と美し過ぎます。」
「和子には及ばねえよ。」
「ああ、和子は本当に可愛いな。」
「私はここまでだ、相棒。甘い美声による賛美に、今にも蕩けて消えてしまいそうだ。」

相棒はこの美しい空間を穢すまいとオタクの鏡として空気に徹しているが、内心では「がんばれ相棒」「今のおまえなら大丈夫だ」と応援しているに違いない。
和子は気を持ち直し、布面積は小さいが内包する魂によってはこうも健康的になるのか赤いドレスを着こなすモードレッドと、我儘ボディに押し上げられるだけでこうも豪奢になるのかシンプルな水色ドレスを着こなすカイニスを、改めて堪能した。
すっぴんでもなんとか直視できる美貌が、薄化粧だけで目が痛いくらいの美貌にパワーアップしている。

「ああ、あなた方が神か。」
「俺はまだ騎士どまりだ。じき、騎士王だがな。」
「神霊だからあながち間違っちゃいねえな。」

和子はカイニスの希望で白の、モードレッドの希望でチャイナドレスを着ている。
スリットは膝下からで、白の編み上げハイヒールを履いている、非常に歩きにくい。
赤いドレスも水色ドレスも和子が実家から持ち込んだ私物だ、二人の要望に適うものがあってよかったのか悪かったのかはわからない。
なければ着ずに済んだし、あったおかげでイケメンに褒められた、複雑である。
こちらは舞台化粧寸前のガッツリ塗り絵を施しているが、二人のイケメン美女の足元に間違っても及ばない、むしろ足元に影差して謝罪レベルだ。

「モー様は髪を下ろしても素敵です。思ったより長くて艶やかです。カイ様はオールバックが女前過ぎます。額の形が綺麗ですね。」
「もういいだろ。和子は大袈裟に褒め過ぎだぞ。そろそろ雑談しようぜ。」
「そうだぞ、和子。今日は王族には縁のない学生の時の話が聞きたい。」
「だってお二人とも私の語彙力が追い付かないほど美しいんだもん!いつまでも堪能したいんだもん!」
「じゃあこっち来いよ。」
「いえ、それは心臓がもたないので。」
「そっちにいても大変そうじゃねえか。着替えてくるか?」
「いえいえ、大人しく昔話しますのでどうかそのままで。」

和子は片手で顔を覆い、もう片方の手の平を二人に見せた。
モードレッドとカイニスは顔を見合わせて肩を竦ませた。
和子はせっかく可愛らしくしても相変わらず残念だ。
お茶とお菓子を勧められた二人は頬張りながら、和子が「学生時代の話でしたね」と話し始めるのを促した。

「地味な生徒でしたよ。幼少時はお嬢様校で主に男への媚び方や家の仕切り方を学んでました。」
「うわ、和子ってそういうの壊滅的に苦手そうだよな。お疲れ。」
「興味なくても職員室に呼ばれる面倒を回避するために及第点までは必死に努力するだろうから、そりゃ目立たなかったろうな。」

和子は、実はまだ擦れていなくてそこそこ真面目で優秀だったけれど、生粋のお嬢様方には敵わず出る杭は打たれて泣いていた話をすべきか悩み、黙っておいた。

「家が遠かったので部活動などはしていませんでしたが、半年に数度、お姉様方に誘われるので、スポーツの練習はしていました。乗馬にテニスにアーチェリーも少々、なぜか気合いが入り始めると品がなくなるそうで、極める前に家庭教師からストップが入ったので齧った程度という表現がぴったりですね。」

三基の英霊は、和子ではなくジュナスタの荒ぶる戦法を脳裏に思い描き、お嬢様を育てるための家庭教師の判断をすごく支持した。

「だがしかしよ。和子は今や乗馬しながら剣振り回すし、運動不足解消企画ドッヂボール大会じゃスタッフの男共を泣かせたじゃねえか。親に隠れてこっそり練習したのか?」
「モー様、ピンポン。あんまり弱いとお母様に不出来と叱られるしお父様が仰るとおり家ごと嘗められるし、だからといって強過ぎるとお姉様方や家格が上の妹様方に角が立つ。上手に譲るためには相手より優位でなければと、何度かトイレで水を被って学びました。」
「へえ?」

あ、口を滑らせた。
和子はモードレッドの、穏やかなのに殺意に満ちた笑顔で察した。

「そいつはカルデアにいるのか?」
「いません。魔術師の家系もちらほらいましたが、彼女達自身は魔術師ではありませんでしたし、カルデアのスタッフが務まるほど優秀ではありませんでしたから。」
「おいおい。そいつらの性格なら、和子に魔術師の素養があるだけで妬んだはずだ。その辺は大丈夫だったのか?」

同じく怒り心頭のカイニスの問いへの答えに、和子は口元に手を添え、熟考して言葉を選んだ。

「確かに元々ありましたが、一応これでも貴族の末端ですし、うちの家系では女はあくまで繋ぎであって、よりよい魔術回路を、その、取り込む事が仕事でしたので、交渉の材料として商品価値が下がらないようあまり外には出さず、穏便に、…あの、穏便に。」

最後は笑顔で人が殺せそうな二人に向けた言葉だ。
慌てて言葉を足した。

「ですが、そんな両親も不景気に見事に煽られて都合よく私の能力を見込んで時計塔に放り込んだんです。あんだけ繋ぎだって言い聞かせてたくせに、女の私でも魔術の学術的研究と当家の回路の熟成をなしつつ、大貴族との学園ラブロマンスの末、優秀な魔術回路を孕んで帰って来るって都合よく夢見てたみたいです。都合よく。」
「和子自身はどんなつもりで時計塔に足を突っ込んだんだ?」
「わ〜た〜し〜は〜、…時計塔といえば、女子校のいじめが可愛く思えるほど権力と書いて実力主義の化け物ぞろいの大魔境。当時は箱入り娘だったので不安や恐怖もありましたけど、実家から出られた喜びもありましたね。噂と予想以上の実力主義過ぎて、感傷的になる暇なんてその先ありませんでしたけど。」
「学園ラブロマンスは?」

モードレッドはカイニスと違い、和子の魔術師としての学園生活よりも、乙女としての恋が気になるところだ。
少し身を乗り出すモードレッドに、興味がないわけではないカイニスは譲った。

「私の魔術回路単体はわりかし人気ですからね。言い寄って来る弱小貴族のn男達が何人かいましたが、実家の意向もあって相手にせず。まあ、私自体も暇も余裕も何よりその気がなかったので、後腐れない上手な振り方を女子校でしっかり学んどいてよかったです。」

和子は人差し指と親指を顎にかけ、キランと星を飛ばして得意げに微笑んだ。
モードレッドはテーブルを拳で軽く叩いた。

「違う!俺は和子が片思いでも恋しなかったのか聞きたいんだ!」

カイニスは、黙っちゃいるが和子のサーヴァントの前でよくもまあ聞けたものだと感動した。
そして和子も和子でよくもまあ素直に答えたものだと感動した。

「これを恋って言っていいのかわからないけど、たぶん先輩かな。だだっ広い園内で一度しか会った事がないんだけど、すっごいもさくて素朴な人を目で探してた時期があったな。」
「「恋って言っていい。」」
「よかったー。」

モードレッドとカイニスの声が重なった。

「魔術師の集団ってだけでも人間性が失われた環境を意味するのに、天才魔術師が普通とされる時計塔はとにかく化け物ぞろいで、中途半端に出る杭は木っ端微塵に打たれるし派閥争いもすごいし、モー様やカイ様が思う以上にヤベエ場所なんですよ。」
「そうか。和子も超天才達には埋もれちまうが、そもそも天才ではあるのか。」
「ここは天文学科の真骨頂、カルデアですよ。恥ずかしいので本当にやめてください。」
「お、おう。」

和子のあまりの迫力に、さすがのモードレッドも気圧された。
和子は咳ばらいをして気を取り直した。

「その中で本当に素朴な普通の人だったんですよ、彼。時計塔ってまあ本当にだだっ広い面積だったんで、池や湖や山とか地下とか、色々あってですね。下宿先の屋根裏部屋も憧れの秘密基地感で快適ではあったんですが、鍛錬もかねて荒んだ心を癒すとっておきの場所を捜し回っていたら、ある日、湖の畔で泣きながら必死に水に浮いた紙を拾い集める少女を見つけたんですよ。よくあるいじめですね、カバンを放り投げられたっぽかったんです。」
「なるほど。彼女を助けた男がいて、和子は一目惚れしたんだな?」
「残念ながら助けたっつーか手伝ったのは私っすね。いじめに巻き込まれるなんてまっぴらごめんなんで、周りに誰もいないことを確認してから、スポーツウェアだったんでそのまま湖に入って、沈んだカバンや教科書を集めてあげました。」
「「偉い!」」
「普通ですよ。モー様もカイ様もするでしょ?助けて偉いってのはいじめをどうにかしてあげるところまで面倒見て初めて言えることです。」

普通と言いながら、円卓の騎士と神霊と普通の基準を同列視していることに和子は気づいていない。
モードレッドもカイニスも和子相手なら気分を害さないので、話はつつがなく進む。

「まあ、可愛い子でしたよ。でも薄汚い貧乏貴族が余計なことしないでって、全部回収してから叫ばれて引っ叩かれて走って逃げられちゃいました。」
「まさか和子、実はおまえ、女色なのか?」
「さっきからモー様フライングし過ぎですよ。どの辺にそんな要素ありました?」
「だって和子よお、可愛いもの大好きだし、俺やカイニスとめっちゃ仲いいじゃねえか。もしかして、もしかすんじゃ。」
「私は男色ですが、大事なのは一物の有無ではありません。漢字の漢で男と読める魂の有無で性別を判断し、恋愛対象として魅力を感じます。」
「お、おう。」

またもや和子の迫力に、モードレッドは気圧された。

「もう、呆然ですよ。そらまあ貧乏でしたよ、周りと比べたら。実家が変なところで見栄張るから大事な教科書や魔術書は遠縁のお兄様のお下がりでしたし。でも中堅以上の貴族は湖に入ってくれまではしないだろうし、そうするとあの子は日が沈むまで延々と木の棒で湖面を叩くしかできなかったわけで、下賤な女に感謝して欲しいとまでは思ってなかったですけど、まさか叩かれるとは思わなくて、時計塔マジ終わってるって涙が一筋流れましたよ。」

当時はまだここまで擦れていなかったので、時計塔のいじめに巻き込まれる恐怖をおしての行動を無碍にされて普通にざっくり傷ついたのだが、それも黙っておく。

「まあ、言い方が悪かっただけで、あなたもいじめに巻き込まれたらどうする気って怒ってくれたのだと思うことにして、春先でまだ寒かったしいい加減湖を出るかってなったときにたぶん先輩と出会ったんです。」

男のくせに見てただけかけしからん。
フライングしないよう、アルジュナが絶妙なタイミングでモードレッドの空になった杯を満たした。

「時計塔にありがちな金髪長身なのに、ここは一昔前の秋葉原かってくらいだっさい眼鏡かけたもっさい服の人でしたね。通りすがりなのに慌てて駆けつけてくれて、湖から出るのを手を引いて手伝ってくれて、事情を聞いてくれて、上着で頭を拭いてくれました。」

その時は一筋どころかわりとガチで泣いていたので、主に涙を拭ってくれていたことも黙っておく。
だから、何故か麦わら帽子をかぶって眼鏡をかけていたのは覚えているが、はっきりと顔まで覚えていないのだ。

「当初の目的を伝えると、その人は少しだけ悩んだ後にとっておきの場所を教えてくれました。本当に静かで綺麗でよく集中できる穴場だったんですけど、感動し過ぎて感謝を伝え忘れるわ、名前を聞きそびれるわ、そこでも再会することはないわで、日々目で探す羽目に。それが初恋、なのかな。その数年後に糸が切れちゃってやさぐれてからは淑女にあるまじき生活送ってたので恋愛とは縁遠く、オルガマリー先輩に暇してんなら手伝えって徴兵されてからはカルデアで精進生活だし、浮いた話はないッスね。」

モードレッドが乙女の純粋な恋物語にほんのりしている傍らで、カイニスはうさ耳を動かした。

「女性に年齢を尋ねることが失礼と承知で俺とおまえの仲だ。和子は何歳だったか?」
「アラサーには達していない、十代の元気は遠のいたがまだ若い。」
「やけに酒を飲み慣れているから十代ではないとは思っていたが、見た目に反して大人なんだな。」
「そんなに幼く見えます?」
「モードレッドも二十代の女を捕まえて乙女とは表現しないだろ。他の騎士達みたいにレディとか呼ぶだろうよ。」
「いや、和子は心が純真だから乙女と表現している。決して貶しているわけではない。」
「ああ、そうだったのか。」

「へえ意外」と目が言うカイニスに、モードレッドが食ってかかろうとしたが、和子がカイニスに問う方が早かった。

「私の年齢が何か?」
「いや、その男が本当に先輩だったのかと思ってな。」
「そうか。貴族らしからぬもさい服装だったし優しかったし穴場知ってたし、用務員のおじさんだったかも。」
「いや、同級生か後輩だったかもしれないだろ。和子はどうしてその男を先輩だと思った?」
「えー?背が高かったし、落ち着いた雰囲気だったし、若そうだけど自分よりは老けて見えたから。」
「俺も侮るつもりはないが、和子は幼く見える。和子と比較して老けて見えても年上とは限らない。」
「私は私の容姿に対して実年齢どおりの認識があるので、相対的年齢算出くらい可能です。」
「一刻も早く改めろ。いや、きちんと認識しているから似合う服を敬遠するんだろ。残念だが、和子の計算機はぶっ壊れている。」
「う。」

和子は誤魔化すようにお菓子を口に運んだ、うまい。
カイニスはそれ以上年齢や見た目に対して言及することなく、うさ耳を動かすだけだった。

「とまあ、時計塔では貴重な優しさに触れたまだうら若き私はうっかり絆されたって話です。でも今でも不思議。あんなキリシュタリアやオフェリアとは別の目立ち方をしそうな人なのに、どうして見つけられなかったんだろう。学科お抱えの自警団所属って感じでもなかったし、…改めて思い出したら不審過ぎるな、あの人。なんで時計塔の敷地内のあんな人気のない所にいたんだろ。」
「優しかったんだろ?」

カイニスの注釈に、和子は素直に頷いた。

「和子がそう思ったなら、悪い奴じゃないさ。」
「はあ、本当にカイ様ったら男前。その一言で私の初恋(仮)を美しいまましまっておけます。」

モードレッドも頷く。

「それ以来まったく見てねえなら、お目が高い和子の初恋のお相手は案外誰かの英霊だったかもしれねえな。」
「そっか、もさい服装は正体を隠すための偽装工作。そりゃ捜索範囲広いわー、朝夕のランニングの距離じゃ足らんわー。」
「なんだよ、まだ未練があるのか?」
「いいえ、別に、まったく。」

和子は即答した。

「でもお茶会のお茶菓にはちょうどいいかなって。」
「確かに。」

その後も和子の初恋の人の正体について話は盛り上がり、もちろん正解に至るはずもなく、お開きとなった。
和子は歩きにくいのでアルジュナに手を引かれながらマイルームへ帰る道すがら、ガウェイン卿やプーサー王ともすれ違ったが、あの日の記憶とは一致せず、英霊説もないなと納得してベッドに突っ伏した。

「和子は本当に通りすがりの村人Gだったのですか?」
「うぅ、今それ聞くぅ〜?」

それまで空気に徹してくれていたアルジュナの突然の自己主張に、頭を抱えた。

「せめて髪が長かったかどうか、目が何色だったか思い出せたら、もやもやせずに済んだんだけどな〜。」
「かの方から何も言われなかったのなら、違うのでしょう。」
「そうよね。避けていたとはいえ、あいつがその気になれば逃げきれるものでもなし、あのときは云々嬉々として語り出しそうだもの。違う、違う。」

あーよかったと体を起こした和子は、アルジュナを見上げた。

「大丈夫よ、もうめそめそ泣くような可愛げはないわ。」
「和子の泣き方は幼子のようです。肩を跳ね上げるところが特に。」
「そういうの、冷静に言うのやめよ。」
「愛らしいと私は思います。きっとその方もそう思ったはずです。」
「そうかな。」
「やはり泣いていたのですね。」
「あ。」
「間違いありません。あなたの初恋はすれ違ってしまっただけで、叶っていたのでしょう。」
「意外。アルジュナも私の初恋(仮)を美しいまましまわせてくれるのね。」
「当然です。今その男が私の目の前に立ち塞がるなら闘うまでですが、人の思い出を荒らすほど無粋ではありません。本当に、忘れてしまったのですか?」
「うん。」
「そうですか。」

今は艶やかな黒髪と光を吸い込む褐色の肌を目で追ってしまうから、間違いない。
今度は忘れないように、しっかりと目に焼き付けよう。
アルジュナは首を傾げたが、和子は微笑むだけで言葉にはしなかった。




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