ストレス供養と返信
 2021.04.24 Sat 20:29


じゅじゅわからん、わからんのですよ。
手を出してはならぬと本能が言っております。
だって、だって、しぶで散見する悟様のビジュアルがもう、もう、私を殺そうとしているのがわかるのよ!!!!
ツンツン白髪青目!?大好物だコンチクショウ!!

たかなさんの小ネタ読んでから、落ち着け自分と今はワートリ読み返してる(笑)

制服かー!
私はありがたいことに無意識に制服は恵まれてたなあ。
有名なデザイナーさんだったからね。
お洒落な大覇王に譲ってあげたかったなー!
大きくなって着れなくなって、近所の子に私服としてあげちゃったんだ。
校章が入った園児用の小さなランドセルはまだあるんだけどねー。

大覇王、服は着こなしよ、着こなし。
与えられたものを、ただ残念に思わないで。
服を安くも高くも若くも老けても見せるのは、着こなしよ。
昔はお嬢様だったおばさんが力説するわよ。
着る人の品と教養で、どんなお高い服も残念クオリティになるのよ(おばさんで検証済よ)。
着こなしって言っても、組み合わせやアレンジじゃなくて、ただ着るだけなのがポイントなの。
服を輝かせるのは、センスではなく、着る人の心なのよ。
落ち込まないで。
その年で園の先生に成長した姿を見てもらおうという気を使える育ちのよいあなたなら大丈夫!
どんな服もお洒落に上品に見せられるわ!!

これにてバサラ関連の小ネタは終了で、この設定が生かされることは今後ないかと思います。
いつも好き勝手させてくれてありがとう。
楽しかったです。


<召喚>


なんだかんだすったもんだあった、あったんだよ。
藤丸もどきは強化した片手の握力で宝石を割り砕き、指先に息を吹きかけて破片を乗せた。
ナイスダンディなおじさまが指を鳴らす前に、幻想的な天の川が敷かれる。

「蜘蛛の糸、珠々玉々、玉結び。」

短い詠唱のあと、か細く光る糸が太い縄を絞める音を立て、丸い結界を作った。
爆炎爆風がぶつかる度に和柄の文様が浮かび上がり、衝撃を吸収して時間を稼いでくれる。
藤丸もどきは頭から滝のように流れる血を前髪ごとかき上げ、指の間をすり抜けた血は舌で舐めとった。
戦国時代基準で鍛えられた体に加え、魔術で回復と痛覚遮断をしているとはいえ、これは非常にまずい状況だ、そろそろ失血死しかねない。

藤丸もどきの先陣を切っていた幸村も佐助も戦闘不能、何故か加勢してくれた政宗は満身創痍ながらガウェイン卿とともに陽菜の指揮で影人間のようなエネミーと戦っている。
前者は藤丸の帰る場所を守るために、後者は汎人類史を守るために。
さて自分はといえば、目の前のナイスダンディなおじさま直々に、前者後者の取捨選択を迫られている。
悲しきかな、頼れる最優のサーヴァントは、姿が見えないどころか声も聞こえない。
理由は明白だ、今自分は聖杯を前に魔術師どころか人間ですらなくなりかけている。

この異聞帯は、汎人類史の戦国時代から枝分かれした世界だ。
これをここまで育てたのは、戦国時代に散っていたはずの野望や恨み辛みを、一人の馬鹿な女が無意識に抱え込んで大事にしていた、今自分が魔術を行使するために切っ先を掲げる赤漆の備えの刀の成れの果てだ。
汎人類史時間軸的実物は、ジュナスタの愛するマイルームの片隅で暇している使い古された刀型の礼装である。
どおりでこの素晴らしい体でも婆沙羅技の一つも使えないわけだ、代わりにご先祖様には無自覚的に魔術師の素養がおありだったようで、流石は遠いご親戚に丑の刻参りの神を味方につけた姫に繋がるだけある、随分と余計な事をしてくれたもんだ。
あとは魔術回路を発酵させた、つまり腐ったこの魂で聖杯に望みさえすれば、自分は何食わぬ顔で藤丸としてこの世界の主として生きていけてしまう。

「小娘よ、何を悩む。」
「ついさっき、相棒に私が聖杯を手に入れたらこの異聞帯がカルデアにとって取るに足らないものになる、つまり放置されるって知らされたから、あんたの提案が魅力的になってきたのよ。」

四季折々の清涼な空気、天下統一天下泰平を夢見る熱気、血湧き肉躍る正々堂々たる闘い、守るべき穏やかな日常、ささやかなおいしいご飯、何より大切な温かい家族、この世界に悪い所なんて一つもない。
藤丸もどきが知る限り、些細な差異は見られるものの、大きく汎人類史から逸脱はしていない。
なんなら汎人類史のバックアップとして並行させて、何か遭ったときはこの異聞帯をベースにカルデアの総力を以て歴史をやり直せばいいではないか。
この思考がどれだけ客観的なのか、鼻で笑ってくれる最優のサーヴァントがいない。
その事実が、今自分が自分に甘い考えをしているのだと引き留めてくれる。

「幸村様、佐助さん。」

カルデアの目的は聖杯の奪取だ。
あの男から聖杯を取り上げれば、この異聞帯そのものが消滅する、任務達成だ。
そもそも、大親友のような魔力タンクにストローよろしくブッ刺して繋がなければ、赤漆の刀一本で世界一つを到底支えられるものではない。
生きたいと、望みもなくのらりくらりと死ぬ機会を待っていた女が、強く願ったせいで、塵も積もれば山となった怨念を爆発させ、異聞帯発生の引き金になってしまったが、それだけだ。
藤丸もどきは状況を冷静に把握し、飽くまでテメエのケツを拭くために聖杯を引きずり出すための囮を買って出るだけだと、自分に言い聞かせてイレギュラーなレイシフトをやってのけたが、本心は騙しきれず彼らと触れ合いたかったと自覚しているところまで含めて客観的であるつもりだ。
今は、幸村と佐助のいる温かい世界で胸を張って闘って生きて死にたいに、願いが変質しているのも予想の範囲内だ。
当然、経営顧問らもそんな甘い考えを見越して、今回のレイシフトからジュナスタを外したのだ。

「さあ受け取れ、小娘。」
「そう言っておっさんにこの世界を譲る気がないのくらい、私でもわかるのよ。あんたが欲しいのは真っ新な魔術回路と黒ずんだ赤漆の刀でしょう?…自分の欲望のために。」
「貴様の望みと私の望みは必ずしも相反せぬ。取引きの良し悪しもわからぬのか。」
「良し悪しとか、私達はそういう次元で生きてんじゃないのよ。」

会話の最中も連続する爆発に、藤丸もどきの結界にひびが入り、砕け散った。
爆風を全身に浴びた体は呆気なく吹っ飛び、荒野を転がった。
土を掴み、色々吹っ切って体を起こし、真新しい刀を構えた。
次の爆発を切り裂いて特攻するつもりだったが、炎と影の壁と男二人の体に守られた。

「もう、やめてください。」
「やめぬ。」「やめない。」
「私、そんなに強い人間じゃないんです。」
「「知ってる。」」

幸村と佐助は瀕死の体で、力強く笑った。

「そっちの世界でも、お館様も某も政宗殿も、強くて格好いいのでござろう?」
「俺様だって、忍者といえば佐助ってくらい歴史に名を残してんだろう?」

二人の得意げな笑顔に、血まみれの藤丸もどきの頬が二筋、洗い流された。

「「悔いはない。」」
「…嘘つき。」

藤丸もどきは、自分に残る魔力を振り絞って体を回復させ、刀を鞘に戻した。

「道満様。」
『ンンンン、小娘風情がこの道満様を軽率に顎でこき使ってくれた礼を楽しみにしているよ。』
「彼の御霊、この血は呼べ、この血に繋げ。」
『行くぜ、相棒!』

ご機嫌なミスタームニエルの応答と同時に、藤丸もどきの体に雷が落ちた。
陽菜と藤丸もどきの魔術回路が途切れる。
煙が晴れればそこには二人の藤丸がいて、一人は魔術協会の衣装をまとっていた。
藤丸は、自分が軽手亜で愛用していた羽織袴に近い衣装の藤丸もどきを見下ろした。
藤丸もどきは、その細い腰に、藤丸の軽手亜での退屈な時間を紛らわしてくれた、使い古された赤漆の刀を差している。

「あなたは私になれない。私があなたになれないように。」
「そんなの、わかってる。」
「わかってない。あなたは私とは違う。あなたは、主。導くものでしょう。」
「はっ。導くって、失われた未来の、いったいどこに?」

皮肉りながらも泣きそうな藤丸もどきの頬を、藤丸は思いっきり引っ叩いた。
武士の渾身の一撃は重く、小柄な藤丸もどきの体は簡単に投げ出された。

「奪われたなら取り返した先に、壊してしまったなら作り直した先に。」
「そんな簡単に、」
「女々しいわね。何もかもが何かの後でしかないのだから、前に進むしかないでしょう。」

痛みで涙をぼろぼろ溢す藤丸もどきに、藤丸は今度は蹴りをくれてやった。
そんな二人にナイスダンディな爆発が襲うが、それは陽菜とガウェイン卿が防いだ。

「誰?さっき良し悪しで生きてんじゃないって啖呵きったのは。」
「そもそもあなたのせいじゃないの。」
「そうよ。だから責任を取りに来たの。汎人類史とやらでは名すら残せず埋もれた女が、生き残っただけの空っぽな女に、希望を託すために。あなたも事態をややこしくした責任を取りなさいな。」

あなたが生きた方がよほど世界のためになると、見上げた藤丸もどきは飲みこんだ。
微笑む藤丸の後ろにうっすらと、自分のサーヴァントが見えた気がした。

「私の主と兄貴分、素敵でしょ。この刀と一緒に長く残して、それが私の望み。」
「…わかった。」
「謝ったらぶっ飛ばすところだったわ。」

藤丸もどき、ジュナスタは、低い姿勢から使い古された赤漆の刀を抜き、藤丸の左胸を突き刺した。
引き抜いた切っ先は湯気を上げ、貫かれた心臓が脈打ち鮮血を吹き出している。
ジュナスタは心臓を鷲掴み、生きているうちに口の中に詰め込んだ。
藤丸の体が崩れ落ちるのを幸村が抱きかかえ、吐き気を堪えるジュナスタの背に温かく大きな手が添えられた。
ジュナスタの背は燃えるように熱く、その熱に耐えられなかった使い古された赤漆の刀が風に溶けて消えてなくなった。

「藤丸殿をよろしくお頼み申す。」

幸村の言葉は、ジュナスタとアルジュナの二人に向けられたものだ。
ジュナスタは幸村から新しい赤漆の刀を受け取って力強く頷き、太鼓のように脈打つ左胸に手を添えた。
抜刀するジュナスタの咆哮は同心円状に世界を震わせた。
長い時間をかけて熟成された魔術回路と、敢闘精神のみで磨かれた新しい刀が合わさり、異聞帯の発展は不可能となり、目に見えないとこから綻び始めた。
ナイスダンディなおじさまは崩壊の音に耳を澄まし、冷静に指を鳴らした。
聖杯を破壊するためだ、その腕が地面に落ちた。
切断面からは血が噴き出し、もう片方の腕も同じことになった。
ジュナスタは強化とバフの魔術で目にも止まらぬ剣戟をやってのけ、低い姿勢でストンと刀を鞘に納めた。
聖杯を拾い上げ、ナイスダンディなおじさまに聖杯越しに息を吹きかければ、使い古された赤漆の刀同様、逞しいナイスダンディな体が風に溶けて消えていった。

「小娘が見た夢程度では、私はこのような扱いを受けるのか。」
「あの刀は兵共の望みでできていた。散ったのだから、みんなそれぞれやっと大事な人の所に帰るのよ。」
「ふん、くだらぬ。」
「今まさに散りゆくあなたもね。」

既に政宗の姿もない。
最愛の嫁の元に帰ったのだろう。
残り少ない時間を大事な人と過ごすこと、それがあの刀の、つまるところ、みなに共通する望みだ。
その持ち主は散らずに最愛の人の腕に抱かれている。
そばには兄貴分も控えている。

「私は負けない。どんなに強い敵にも怯まず、立ち向かう。アルジュナと共に、アルジュナより先に死ぬことなく、誰が願ったわけでもない、あるがままの未来を守るために闘う。」

二人はジュナスタを見上げて男前に微笑んだ。

「「君の名は?」」
「スカーレット・ノリカ・ウィステリアルフ。和子って呼んで。」

和子は、肩を震わせる二人に怒ることなく、手持ちの宝石をあるだけ砕き、撒いた。
欠片は地面に沁み込み、和子と陽菜がレイシフトした後も、しばらくは世界の形を保つ役に立つだろう。

カルデアに帰還した面々の心情は複雑で、気づかわしげな陽菜と腑に落ちないガウェイン卿と、近寄りがたい和子といつもより無に徹しているアルジュナだった。
和子の腰には真新しい赤漆の刀が差してある。
恨み辛みの重さと邪悪さが一掃された、ただ天下泰平を望まれただけの刀型の礼装だ。

「一時はどうなることかと思ったよ。」

さすがに和子の天敵である経営顧問も、それ以上の皮肉は控えた。
和子も何も言い返さず、大人しく技術顧問に聖杯を渡した。
マシュと道満を伴った立夏は、和子と向かい合い、右手を差し出した。

「和子さん、おかえりなさい。」
「ただいま、立夏。」

和子は立夏の手を握り返し、剣士の握力を嫌というほど味わわせてやった。
和子の瞳は赤く燃え、心なしか影が濃い。
異聞帯とはいえ、己に連なる魂を食らい、ドロップを手にし、霊を二体憑依させ、魔術回路を随分と変質させてもまだ、英霊一基との絆を保った、物珍しい魔術師となってしまった。
以前の自分なら望まぬ過ぎた力だが、今の自分は違う。
クリプターだって倒して見せる、ここにいる人達の手を今みたいに取って、闘う。
固く誓って振り返れば、気を引き締め直した最優のサーヴァントがほんの僅かに微笑んだ。
そこに大きな影が差し、水を差した。

「ンンンン、随分と変わった魂だ。ぽんぽん体から離れることといい、お嬢さんは一体何者なのかな?」
「魔術師よ、道満様。」

道満の禍々しい手が伸びる前に、すっと間に入ったアルジュナに牽制は任せ、和子は肩を竦めた。

「私の魔術回路は夢見がちでね。すぐ飛んじゃうの。」
「否、魂の共食いで強化されたとはいえ、魔術回路はありふれたもの。ンンン?摩訶不思議なのは複数の魂を受け入れられる体の方かな?」
「さて、なんの事かしら。」
「試しに腕の一本ンンン、拙僧に預けてみる気はないか。」
「腕はただの腕、つまらないものよ。」

アルジュナは臨戦態勢に入るが、道満は和子の強気な笑みに眉根を寄せた。

「人形はお嬢さんの方か。」

途端に興味を失くした道満にアルジュナは怒り心頭だが、マスターである和子が否定も肯定もせず笑っているので、大人しく引き下がった。
和子の笑顔を曇らせるのは、別の理由だ。
何もかもが何かの後でしかないのなら、考えたって仕方ないのはわかっているが、思わずにはいられない。

「こんなことになるなら、オルガマリー先輩を喜ばせたかった。」

魂の共食いなんぞ吐き気を催す行為だが、いつも責任と義務と意地に縛られていた線の細い彼女は、生臭い自分を見ても珍しく「ふん、まあまあやるじゃない」と心から微笑んでくれただろう。
決定打に欠けるから優秀なスタッフ達は検証せずにいるだけだ、和子も隠し通せると思っていない。
今回少しだけ熱が戻ったが、随分と前から体は冷えたままだ。

「食らいつくしたその先で、青空の下、またゆっくりお昼寝ができるその日まで生き延びなきゃ。」
「それまでこのアルジュナがお傍に。」
「それからもよ、アルジュナ。アルジュナにお昼寝の素晴らしさを理解してもらうことが私の願いなのだから。」
「随分と高い目標を立てましたね。和子が道半ばでお腹を壊さなければいいのですが。」
「言ってくれるじゃないの。」
「はい。配慮は礼儀、遠慮は建前と藤丸様から学びました。和子と私の間に遠慮は無意味です。」
「いいね、それ。」

場所は話しながらマイルームだ。
アルジュナが広げる腕に、和子は大人しく収まった。

「早速、藤丸様には及びませんが、最優のサーヴァントとして忌憚ない提案を。おデコさんを食べるのは一番最後にしましょう。」
「そうねえ、一番骨が、いや歯が折れそうだわ。デコ姉さんのいる異聞帯が最後に現れることを祈ろっか。」
「はい。」

アルジュナもまた、素直に甘える和子の頭を撫で、少し体温が高くなっている事に気がついた。
恥じらっているわけではないから、魂を食らうことで力をつけたからだとわかる。
散りばめられた魂を集め、和子がこの先どうなるのか見てみたい。
サーヴァントとマスターの望みが重なった瞬間だ。



それは遠い昔の話。
和子が時計塔で目立たず生きていた頃のことだ。
聖杯戦争が勃発し、当然巻き込まれることなく難を逃れ、たまに聞こえる爆音も慣れたもので、呑気に街で買い物をしていた。
欲しいものもなくぷらぷらと、行き詰った課題を留守番させての気分転換だ。
ふと、骨董品店に目が行き、目が合って驚いた。
夢でも見ているのかと思って頬を抓って目をこすってみるが、間違いない。
財布の中身を確認し、骨董品店のドアベルを鳴らした。

「さすがは女の子、お人形が好きかい?」
「はい。イギリスでこれほど状態のいい日本人形に出会えるとは思いませんでした。」
「着せ替えて遊べるように、着物の端切れもつけてあげよう。お嬢様なら裁縫や刺繍は得意だろう?」
「課題や生活には困りませんが和装となると、浴衣程度ならなんとか。」
「大事にしてあげてね。」
「はい。」

和子はスカートの裾を軽く持ち上げて会話を終わらせ、髪が異様に長い日本人形を抱いて下宿に戻った。

「さて、君。そこまで自己主張してまで成仏したいのかね。このイギリスで。」
『日本の人形だからと、中身が日本人であるとは限らないだろう。』
「うわ、女の子でもなかったよ。買うんじゃなかったー。」
『待ってくれ。だからってすぐに道端に捨てようとするんじゃない。子どもならまだしも、犬が拾って行ったら大変だろう、私が。』
「経験豊富なのね。でもゴミ箱だと間違いなく燃やされるわよ?」
『そもそも私が男だと問題があるのか?』
「女の子の友達が欲しかったの。」
『女の子というのはそういうものなのか?』

日本人形の首が傾ぐ。
和子は鳥肌を立てながら、日本人形の長過ぎる髪を整える手を止めない。

「さあ?魔術師なんかに普通の友達なんてわからないけど、自分の周りがろくでなしばかりだから、物珍しい女の子と話してみたかっただけよ。」
『そういうものなのか。』
「あら。女の子に拾われたこともあるの?」
『元々小さな女の子の遊び相手だったのだ。姫子ちゃんと呼ばれていた。』
「それでどうして男の魂を呼んでしまったのかしらね。」

和子は自分の髪ではできないアレンジを、日本人形に施した。
短い髪はいじめや呪い対策だ、バッサリいった悔いはないが、たまにやりたくなるのだ。

『君は器用だな。私の前の持ち主とは雲泥の差だ。』
「その女の子、いったいいくつよ。私これでももうすぐ成人なのだけど。」
『いくつだっただろうか。幼いのは確実だが、日もあまり差し込まない暗い部屋に、ずっと一人でいた。』
「まあ、人形に魂ブッ込める程度には育ちの悪さは予想してたけど。なんで数少ないオトモダチのあんたが渡英することになったのよ。喧嘩でもしたの?」
『いや。定期的な清掃の際、薄気味悪いと係の幼女に彼女の了承も得ず捨てられてしまったが、ゴミ捨て場から犬に持ち去られ、巣に連れて行かれる前に翁に救われ、そこからはガラクタと共に転々としている。』
「波乱万丈ね。自分では自由に動けないの?」
『会話が成立したのも君が初めてだ。君は何者だ?』
「ただの魔術師で、少し目と耳がいい。それだけ。」
『そうか。私は人形らしく黙っていた方がいいか?』
「気を使わないで。私も友達が欲しかったの。相手に不服かしら。」
『いや、久しぶりに楽しい生活ができそうだ。』

その数日後、時計塔で前代未聞の大事件が起こり、とばっちりを受けた和子はサパッと死せず半死半生を彷徨い、辛苦に耐えかねて藁にも縋る思いで日本人形が差し出す小さな手を取ってしまった。
以降、体は冷え、髪の伸びが早くなり、魂は常に飢えていた。

戦国異聞帯から帰還して数日後、和子は色々な検査や始末書や詮索に追われて疲労困憊だったが、癒しがないわけでもなかった。
ノックのあと、笑顔と共に入ってきた今もまだ少し日本人形のような品のある大親友に笑みを返した。

「和子ちゃん。ゆきむらさまとさすけさんに会わせて。」
「いーよ。」

白地に赤縞の子虎と、迷彩服を着こなす子猿がベッドの下から這い出てきた。
ゆきむらさまは和子の膝の上で丸まり、さすけさんは和子の頭の上に独特な胡坐を掻いた。

「か〜わ〜い〜い〜!」

君が一番かわいいよなんて、太陽の騎士に聞かれたら鬱陶しいので、和子は心の中に留めた。
陽菜と話すときは特に、乾いた魂が潤うのだ。

「まさかね。」

運命とは恐ろしいものだが、平凡な自分にあるわけがない。
馬鹿な妄想は切り上げて、人懐っこいゆきむらさまにハートを飛ばす陽菜に、なかなかに人見知りなさすけさんを引っぺがして渡した。

 



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