暴想を超えた迷想
 2020.10.17 Sat 00:35


来週から地獄なので血迷いました。
友人がゲームを心から楽しんでいて何よりと思い、色々しぶで見てにわかで書いてみました。



<刀サークル>



和子がジュナスタで引きこもりなのには、理由がある。
このカルデアにお客を歓迎する玄関があるとすれば、猛犬注意の札が必要不可欠なのは言うまでもない。
藤丸立夏が、カルデア一どころか世界一のマスター特有の最強スキル、人たらしによって何でもかんでも侍らせているからだ。
彼との絆は支配や主従という荒縄や鎖の類いではない。
拾って来ては名前をつけて可愛がるのはいいが、なんでもかんでも放し飼いは困るんだよ飼い主ならちゃんと面倒見ろやってのがなんであのお人好しにはわからんのだ。
ここにはおまえ以外の人間がいるんだよ、てか多いんだよ、おまえ以外はみんなおまえ以外なんだよ当たり前だろ。
多種多様な人類すべてが話し合いで手を取り合えるようなら、今この状況はないんだよわかれよマジでと、声を大にして耳元で叫んでもだめだった。

「ほんっとうに、これで私が死んだらあいつマジで一回シバき倒す。」

ぶっ殺さないのは、可愛いマシュが可哀想だし、藤丸立夏の死亡つまり人類を滅亡させた悪の大魔王として異聞帯のどこかに名を残しかねないからだ。
一番の理由は、本人にそんな意図は微塵もなかろうが、藤丸立夏が築いたイケショタパラダイスをこの程度の怒りで失うのはあまりにも惜しいからだ。

「お嬢!今日こそ私から一本取って見なさい!」
「沖田せんせに勝とうなんて、これまでもこれからも一瞬たりとも思いませんて!」

ジュナスタも、ピンクの髪の美少女剣士とただの鬼ごっこなら楽しかったのだが、この鬼、鯉口を既に切って追い駆けて来るからシャレにならない。
ジュナスタは普段は絶対に帯刀しないが、たまには下げて歩いて慣れておかないと、実戦で足でも引っかけてすっ転んでアルジュナに鼻で笑われるならまだしも、本気で失望されかねない、つまり人生オワタ。
そういう真面目なときに限って刀ユーザーの誰かと遭遇して全力疾走する羽目になる。
ああやだやだ、この暑苦しい体育会系サークル、ほんとやだ。
しかも、天才が天才を呼んで日本一にまでのし上がった最強チームだ。
ちょっと太刀筋を見てもらいたくてうっかり見学に行ってただ酒かっ食らってみたらこのザマだ。
普通の大学になんて通ったことないからよくわかんないけど、申請してさっさと部活にして貰え。

「士道不覚悟で切腹しますか!?」
「新選組を格好いいと思っても入ろうなんて思ったことありませんから!」
「呼んだか?」
「呼んでません!!」

団体名をミドルネームとでも思っているのか、黒色を身に纏った色男が爪先まで実体化するのを待たずに通り過ぎた。
鬼の副長まで混ざったらシャレにならん。
副長本人は洒落たイケメンなのに、鬼ごっこの鬼がマジの鬼とか、マジでシャレにならん。
鬼という単語にアイデンティティが刺激されそうな酒呑童子姉さんとかが、童は今日も元気じゃのうみたいなスタンスで本当に助かってる。
黒い影から一瞬追い駆けようとする好奇心を感じたが、鬼の副長もまた何を察したのか実体化はしなかった。
さすがは新選組副長殿、バラガキなどと侮ること絶対なかれだ。
敵に回すと厄介な類をよくご理解し、害にならない程度なら泳がせておく酔狂で、お互いマジで本当にイカれててわーいよかった。
ジュナスタは口に出したことはまだないが、もし彼が自分に危害を加えようものなら「豊玉発句集」を館内放送で音読してやる所存である。

「御用改めである!」
「今回マジで何もしてないのにその決め台詞やめろください!」

さて、如何にジュナスタが強化と気配遮断を得意としていても、刀を下げて全力で走っていれば疲労もする。
サーヴァントっていいなあと、抜刀の気配を察して屈んだ。
手は自然と腰の刀の柄にあり、左親指は鍔を押し上げ鯉口を切り、右手は柄に軽く添えられている。

「いい反応ですね。はい、次いきますよ。」
「沖田せんせったらいい笑顔!」

手加減された天才の剣戟を、つまりジュナスタが命辛々白刃を翻して防いでいたら、寒気を覚えた。
まずいと思いながらもジュナスタが半歩押し戻され、踵が角を僅かに出たときだった。
明るいはずの廊下が暗く感じるほどの殺意を纏い、アサシンがクラウチングスタートをかまそうとしていた。
これには沖田も門下生(仮)を守るべく刀を握り直したが、ジュナスタの目の色が変わる方が早かった。

「おいでなすった。」

ダーオカの抜刀を弾いた門下生(仮)に沖田の目も輝くが、ジュナスタの目は赤く燃え上がるようだ。
自然光ではありえない黒い影が落ち、…真打ちの登場を知る。
沖田は何度か加減を誤り見たことがあるが、ダーオカは初対面だ。

「おんしゃ誰にゃあ。」
「その喋り方、長曾我部の兄貴のところの御仁?あまり言いたくないけど、身なりからして先に名乗るべきはあなたの方と見受けるけど。」
「はあ、なるほど。」

誰何したのはダーオカだが、納得したのは沖田だ。
ジュナスタ如きが振り回すのが勿体ないほど鋼が贅沢に使われた刀の造りといい、魔術師のくせに道場剣術ではなく死に急ぐ戦法といい、幕末を生きた沖田やダーオカでさえ時代錯誤を覚える。
相手は戦国の世を駆けた名家の大先輩だ。
薄々察してはいたから、沖田はジュナスタのことをお嬢と呼ぶ。

「私は沖田総司で、彼は岡田以蔵です。恐らくあなたがご活躍なさっていた時代から2〜300年後の侍です。」
「私はいつの間にそんな長寿の化け物になったのかしら。」
「滅相もない。化け物はこちらの方ですよ。」

ほらと姿を消して見せる沖田にジュナスタが息を飲む。
吐き出すときは間違いなく甲高い音を伴う、相手が何にせよ見下されてご立腹のダーオカが人斬りの本能に忠実に低い姿勢から刀を振り抜いた。
それを逆手に立てた刀で防いだ沖田は小さく咳をし、その隙にダーオカは沖田ごと切り捨てようと振りかぶった。
浅葱の羽織の襟を引っ掴み沖田を屈ませたジュナスタはなんとか凶刃を避けたが、ただの人間が歴史に名を残す人斬りに適うわけがない。
沖田を庇うように覆いかぶさるので精いっぱいだ。
その手は震えていて、沖田は何としてでもこの娘を守らねばと思ったが、こんなときに限って咳が止まらない。
絶体絶命のピンチに現れたのは、赤いスタジャンを翻した魔王、織田信長だった。

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