狂☆拍手お礼文☆117
 2020/01/09 Thu 22:45


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<狂い咲くのは桃の花>
※輪咲設定



今日の桃太郎の装いは、中国の後宮スタイルだ。
少し気の強い瞳が、男性的な色彩ではあるがひらひらふりふりの装いに、怜悧で知的な印象をもたらしていた。
隣にいるまた子はその女官の格好だが、普通の女官と違い、勇ましく銃を構えている。

事は数分前に遡る。
湖の中に浮かべた小船の上で、桃太郎は外星の外交官と午後のお茶を楽しんでいた。
ただ、高級な茶と菓子を楽しめるだけなら望むところなのだが、口を挟めずとも桂に見守られているとはいえ、この会話の行く末が後の江戸の経済に影響を及ぼすと言うのだから、如何せん味がしない。
そんなところに、事件は起こった。
気配に敏い桃太郎が作り笑いを消し、花で飾られた目隠しの下、見えない目で水底の様子を探った。
桂は見えないとわかっていても、気配で伝わるようにと頷いた。
外交官は首を傾げる。

「如何した?武松殿。」
「船が揺れます。お気をつけ下さい。」
「は?」

桃太郎が刀がない事を嘆く間もなく、船は大きく揺れ、外交官はどさくさに紛れて桃太郎に抱きついた。
桃太郎は嫌悪を露骨に顔に出したが、桃太郎の薄い胸板に顔を押し付け震えている外交官には見えない。

「危ないから離れてくれます?もしもーし?そもそも俺、泳げねえし、このまま船が転覆したら二人とも溺れ死にますよ?おーい?」

桃太郎の爪の先まで飾られた手が、手首を飾る貴金属で爽やかな音色を奏でながら、外交官の背を叩くが、外交官は嫌々と首を振るだけだ。
桂も刀を持たない今、船が沈まないようにバランスをとる以外どうしようもない状況だ。
桃太郎が溜め息を吐こうとしたら、先に溜め息が降って来た。

「そんな状態で本当に今の状況を知りたいんスか?」

桃太郎の表情が劇的に変わる。
見上げる桃太郎は、紅で彩られた唇に満面の笑みを浮かべていた。

「また子さん。いつの間に?」
「今さっき、このうねうねが顔出した瞬間ッス。」

まさにその瞬間、給仕用の船に乗っていたまた子は、空気抵抗もある衣装の裾をたくし上げ、短い助走で勢いをつけ、うねうねと称した触手を複数足蹴に、桃太郎の船まで文字通り飛んで来た。

「さっすが、鬼兵隊幹部。ありがてえ。俺の刀は?」
「それじゃあっても振れねえだろ。」
「あるだけで安心するんだよ。」
「悪いッス。武市変態が持ってる。」
「それは、…二つの意味で残念だわ。」

また子の視線の先、給仕用の船に触手が迫る。
動きは遅いが、船が逃げるのは間に合わない。
また子の銃が火を吹けば、触手は怯み、狙いを外して水面を叩いた。
怒り狂った触手がそこかしこで水面を叩き始め、船が大きく揺れる。

「また子さーん?」
「鬼兵隊は基本、侍ッスからね。ほとんど私以外、湖の上じゃ為す術がねえ。」
「マジか。」
「武松様。基本、だ。」

怯える船頭を押し退け、桂は船を巧みに操っていたが、その役目を船頭に返した。
その手には刀が握られている。
一番近くで上がった水飛沫と音は、意思のないものだ。
叩き切られた触手が、水底に沈んで行く。

「来島殿、あまり侍を嘗めないでいただきたい。」
「嘗めた覚えはねえッス。ただ、尊敬に値する御仁が、最近じゃめっきり減っちまっただけッス。」

桃太郎の見えない視界の上、空から降って来た気配は、宙で刀の血糊を払い、鞘に納めて、船を大きく揺らす事なく着地した。
また子の尊敬に値する御仁だ。
誰かなんて、聞かなくても桃太郎にもわかる。

「遅くなって悪かった。」
「俺の刀は?」
「ふ。」

桃太郎の頭が撫でられる。

「もう要らねえだろ?揺れても船から手え離すなよ。」
「…うん。」
「また後でな。」

いつまでも大きく温かい手が、桃太郎の頭を優しく叩いた後、離れた。

「来島、頼んだぞ。」
「はっ。」

そこから先、桃太郎はまた子の目を借りて状況を把握した。
高杉と桂は触手や船を足場に、湖の上を飛び回り、触手を切り落として行った。
湖にいかだが投げ込まれ、足場も増え、鬼兵隊の中でも腕に覚えのある者達が参戦し、水面に上がって来る触手はなくなった。

「さすが晋助。格好いい。」
「武松様は呑気でいいッスねえ。」

いかだの上、高杉は手で鬼兵隊に撤収を命じ、別のいかだで片膝をつく桂を鼻で笑った。
桂は不快を露わに睨むだけで、集中を乱すような事はなかった。
まだ、水面の下、水底の、大きな気配は消えていない。

「来島。武松様からそいつを引き剥がせるか?」
「やってみるッス。」

桃太郎なら見えなくても指示と補助があれば、水面の足場を飛んで渡る事ができる。
置いて行かれると思ったのか、外交官はより強固に桃太郎に抱きついて離れようとはしない。
頭をぶち抜いて水底の怪物の餌にしてやろうかと、また子が思ったのを察して、桃太郎も苦笑った。

「この人の護衛に来てもらった方が早くねえ?」
「天人は重くていかだが沈んで渡れねえッス。救助ボートを出してたッスが、モーター音が気に障ったのか直ぐに沈められてたッス。」
「なるほど。目よりも音に反応してんのか。俺と同じだな。」
「おい、来島。早くしろ。」

高杉の声に、少しだけ焦燥が混じる。
また子も桃太郎も水面の気配は察していたが、天人の力は強い。
桃太郎は身動き一つできない。

「また子さん、逃げて。」
「馬鹿言うな。逃げたって晋助様に殺される。」
「うーん。じゃあ、まあ仕方ねえ。」

また子は桃太郎に手招かれ、手で銃の形を作られたので、一丁、撃鉄を下げて渡してやった。
桃太郎はそれを受け取り、思いっきり外交官の頭を殴った。

「おまえ、容赦ねえッスね。」
「結果、助かれば文句も言われねえだろ。」

また子は外交官の首根っこを掴み、桃太郎から引き剥がした。
桃太郎は固まった関節を鳴らし、立ち上がった。
また子は手を差し出し、桃太郎が見えていない事を思い出し、手を掴もうとして出来なかった。
桃太郎は懐から笛を出した。

「俺が気を引くから、また子さんは船ごと逃げて。」
「おまえは誰が守るんだよ!?」
「しー。」

また子は慌てて口を塞いだ。
桃太郎は口の前に人差し指を立てたまま、微笑んだ。

「そんなの、決まってるだろ。」

船がまた、僅かに揺れる。
また子は額に手を当てた。

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