剣☆拍手お礼文☆116
2019/11/02 Sat 21:38
拍手ありがとうございます!
<魂之浄化>@
※第23〜24話あたりの設定。
忙殺。
まさに忙しさは殺人手段になりうると、ダレンと准尉が目で会話をしていた時だ。
「Trick or treat。」
駐屯基地の関係者入り口で、ダレンは来訪者をポカンと見上げた。
来訪者が誰かはわかっている。
部下から報告を受けたから仕事を放り出して飛んできたし、今まさに肉眼でも確認している。
愛する伴侶、ギギナだ。
久しぶりに見たが今日も美貌に陰りはなく、鍛え上げられた体は亜熱帯の陽光を照り返し輝いている。
傷みを知らない銀の髪は陽光をすり抜けさせ、ああもうつまり最高の目の保養だ。
疲れて凝り固まった目が癒されていく。
それにしても、その美し過ぎる頭の上に乗っている獣の耳が気になる。
そういえば先ほど何か言っていたが、疲れた頭はもうすでに忘れてしまっていた。
「相変わらず、寝ていないようだな。」
「今横になれば、世界の終わりまで目が覚めない自信がある。」
「ドラッケンの郷の誇りが御謙遜を。」
「馬鹿者。これが戦場で在れば疲れ知らずだ。」
もう一歩近づいたらその逞しい胸にすり寄って立ったまま眠ってしまいそうだと思っていたら、頭に何か乗せられた。
足元の影の形でわかる、獣の耳だ。
「Trick or treat。」
ああ、そうだった。
先ほどそう言ったのだった。
何しに来たのかと思えば、そういう事か。
疲れが、幼い頃まで遠のいていく。
あれはいつだったか、ギギナに異国の文化を押しつk、…教えてやったのは。
嫌がr…尻込みするギギナを引きずって、毎年ドラッケンの郷の家々を回ったものだ。
郷では「Trick or death」とドラッケン式に改良された文化が根付いてしまったが、都会に出稼ぎに来たギギナは、きちんとした文化を学び、それを今、教え返そうとしている。
そして何よりは、それを口実に疲れた伴侶を癒しに会いに来てくれたのだ。
今、自分は感情に伴って、きちんと笑えているのだろう。
最悪怒られる事を覚悟していたギギナの目元が、綻んだ。
「すまぬ、ギギナ。俺の菓子はここにはないのだ。」
「ならば悪戯をさせてもらおう。」
「話を聞け。ここにないだけだ。」
後ろを振り返れば、ギギナ君がアポなしで来るなんて何事かとついてきた准尉が首を傾げた。
その腹の立つ笑顔、一瞬で曇らせてやろうではないか。
右手を軽く握り、顔の横に掲げる。
「Trick or treat?Meow。」
一瞬呆気にとられた准尉が、慌てて軍服のポケットを探り出した。
出てきたのは煙草だけで、笑顔が青ざめていく。
「悪戯だ、ギギナ。遊びに行こう。」
准尉が久しぶりかつ珍しく戦士の目つきになった。
本来殲滅戦用部隊を率いる超武闘派の上官としては大変喜ばしく、しばらく遊んでやりたかったが、親兄弟よりも長く共にある准尉よりも、今は一生添い遂げたい伴侶の方が大事だ。
准尉の捕縛の手をさっと避け、ここ最近本当に非常に珍しく魔杖剣を抜いた准尉から全力で走って逃げた。
「邪魔をしておいてなんだが、准尉が過労死する可能性は?」
「おまえの伴侶を嘗め過ぎだ。俺は相手が完全に死ななければ蘇生くらいできるし、そのために前線に出す部下は皆、下半身が消し飛んでも死なぬように躾けた。」
「一時間で帰ると准尉に伝えろ。貴様を守護神に嫌わせたくない。」
「二時間だ。」
食堂で第壱刺突爆龍隊の部下が褒めていた川沿いの喫茶店に行こう。
最近は大佐の伴侶の嗜好まで把握していて、調度品まで目を光らせて情報を収集してくれるからありがたい。
「一時間はTreat、一時間はTrickだ。」
「…魔法使いは便利だな。」
第壱部隊とその他少数は周知の事実だが、この国の民は大佐の伴侶が同性だとは知らず、発展途上にある国では先進国ほど同性愛が受け入れられていない。
個人としては別に隠す必要性を感じないが、龍皇国の大佐の好感度を保つためには、二人でホテルに入るわけには行かないから、つまりはそういう事だ。
「ふはは!おまえも天気のいい日は外で遊びたかろう?」
「貴様に年頃の性欲が芽生えて、喜ぶ事にしよう。」
本当は人間らしい愛情が芽生えた事を喜んで欲しいが、性欲についても思う事がないわけでもない。
「(先にTrickか。)」
ギギナの行動を先読みし、電磁光学系第二階位<光陰身モフラ>を展開。
ギギナの大きな手に腕を引かれてやり、茂みの奥へ組んず解れつ分け入った。
「たっっった二時間で元気になられてよかったです。」
帰還したダレンを待っていたのは、倍になった書類の山と怒れる守護神だ。
想定の範囲内で落胆する事もない。
「ギギナも仕事の合間にガユスと分かれて立ち寄っただけだそうだ。泊まりじゃなくてよかったな。」
「まっっったくです。お楽しみになった分、効率向上を期待しています。」
「ふん。むっつり助平な貴様が頬を染めるくらい見せつけてやろう。」
「…その一言で十分です。」
勤務中の准尉が、土産に差し入れた甘い香りのする煙草に火を点けるのを、今日だけは見逃してやった。
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