剣☆拍手お礼文☆115
2019/09/30 Mon 21:03
拍手ありがとうございます!
<基ミに必要ナ礎>
※第22話以降の設定。
ダレンはアルバイトをしていた時、狭苦しい大都会エリダナにあっても、屠竜刀というどう見積もっても確実に大業物を頑なに振り回していた。
それはギギナも同じだ。
ダレンの<ナダギス>と比べ物にならない程、ギギナの<ネレトー>は長大だ。
『当然だが屠竜刀も色々種類があるんだな。』
大小ドラッケンが仲良く屠竜刀を手入れしているところにガユスが独り語を挟めば、小ドラッケンは<ナダギス>を改めて見て複雑な笑みを見せた。
『<ナダギス>は名刀だが、初心者用の屠竜刀。つまり、子ども用の屠竜刀だ。』
『は?』
「郷の誇りの愛刀が子ども用?」に加え「それで子ども用?」という意味の「は?」でもある。
<ナダギス>は全長1メルトル、用途が竜殺しだから幅広なため、魔杖刀の基準で考えると間違いなく大人用だ。
幼い子どもがそんなものを振り回せるとは思えないが、ドラッケンは色々と規格外で、その中でもダレンは規格外だ。
『勿論、高級な演算宝珠と咒弾を装備しているが、並の咒式士では化学練成系第三階位<爆炸吼アイニ>以上の強力な咒式は使えぬ。』
ガユスは「割とパカパカ使ってる気がするが」と目で語れば、ダレンは苦笑いを浮かべた。
『休暇中はあまり目立たず生きたかったし、咒式の制限は基礎を見つめ直すなかなか良い修行となる。何より、』
ガユスの目が、ダレンの目を追う。
<ナダギス>は到達者階級にしっかりと眺められても揺らがない、自信に満ち溢れた威厳があった。
『父上が大事な一人息子“ダレン”にと与えて下さったものだ。俺は平時の環境に在って、使用する武器に生死を左右される様な腕はしていない。折角の<ナダギス>から鞍替えする理由が無い。』
ダレンの澄んだ皇帝黄玉の瞳が、朝日を反射した水面の様に輝く。
ダレンを見るギギナは、とても誇らしげだった。
ダレンは公務員に復帰してからも、たまの休日に飛んで帰って来ては、仕事内容が荒事の旦那の所為で、一緒にいるだけで戦闘に巻き込まれてしまう。
公務員は副業が禁止されているから、ガユスとしては嬉しい限りだ。
「いやあ、残念だよ。ダレン君。労働に見合う賃金を支払ってあげられなくて。」
「これしき、体操と大差無い。構わぬ。」
ダレンの美しい白銀の長髪は、ギギナの手によって青いリボンを混ぜて緩く大きく三つ編みされている。
黒い外套に揺れる様は幻想的だ。
ダレンはガユスの目に、アルバイトの時は元気一杯のやんちゃ坊主でしか無かったが、今は事務所に突然訪れた頃の様な研ぎ澄まされた雰囲気を纏って見える。
これが現役との差かと、少し寂しくもある。
使用するのも屠竜刀では無く、ちゃちな賞金首相手の狭苦しい市街地戦では十分な、魔杖短剣だ。
短剣よりも間合いのある魔杖剣相手に、よくあそこまで潔く鋭く的確に踏み込めるものだと感心する。
必要最低限の動きで相手の急所を切り裂き、咒式を発動させる暇すら与えない。
いつも退屈そうなギギナも、超一流の剣士の体操に見入っている。
一人で制圧したダレンは、それすらも鋭い一閃で血糊を振り落とし、短剣を鞘に収めた。
「剣に状況を合わせるは一流の剣士。状況に戦法を合わせるは一流の兵士。」
ギギナの言葉にガユスは納得し、ダレンは微笑んだ。
「その通りだ、ギギナ。」
「貴様は今、休暇中である筈だが?」
「!」
ガユスの目の前で、ダレンの雰囲気が一変する。
改めて大きく、子どもらしい目だ。
「「切り替えが出来ぬは二流」とは貴様の言葉だ。郷の誇り。」
「ギ、ギギナのくせに生意気だぞ!今のは俺の短剣裁きをギギナに見せびらかしただけだ!」
「ほお?」
「何だ、その態度!?また躾けられたいのか!」
ダレンが今にもギギナに飛び掛かりそうなので、ガユスはダレンの頭を撫でて注意を逸らした。
「子ども扱いするな!」
「今、おまえの旦那は仕事中だ。夫婦喧嘩は終業後にごゆっくり。」
「夫婦じゃ、」
そこまで言いかけて、ダレンは言葉に詰まってしまった。
ガユスが訝しがる前に、真っ赤になってしまったダレンの頭上からギギナはガユスの手を払い落し、ダレンが俯く程力強く頭を撫で回した。
「眼鏡の台座如きの言葉に惑わされるな。」
「ギギナのくせに、ギギナのくせに!」
「そんなギギナが良いくせに」と、ガユスは命が惜しいので口にはしない。
ダレンのおかげで、歩く災厄という認識でしかなかった相棒の人間味のある所が見られて、ありがたい。
まだまだ不幸塗れの人生にも希望はありそうだと思えて来る。
「行くぞ、元アルバイト君。本日の任務は体操でも散歩でも無く、迷宮街での失せ物探しである。」
「ああ、はい、十分承知しております、ガユス元帥。目標は依頼主の婚約者が喧嘩をした折に投げ捨てた先にあった迷宮街に繋がる排気口に落ちた婚約指輪。納期は本日ヒトナナサンマル、婚約祝賀会開始までであります。」
「よろしい。ならば急ごう。」
「はっ!」
剣の基礎はもういいだろう。
おまえに必要なのは人生の基礎だ。
元気一杯の返事に、ガユスは若くて優秀で愛嬌のある人材が、いくら給料を出せば正社員になってくれるか本気で考えてしまった。
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