人☆拍手お礼文☆114
 2019/08/31 Sat 16:54


拍手ありがとうございます!



<そういうところ>
※拍手お礼文72<隣の部長>の続編の続編の…
※お礼文☆113の続編



王子はやっと8月を乗り越え、深いため息を吐いた。
仕事が忙しいのはもちろん、天気や気温が貧相な王子の体の負担になっていたため、普段よりもかなり疲れていた。
明日は休みだと思い至ったところで、何も夏らしい事をしていない事に気がついた。

「花火、ビアガーデン、プール、海、祭。どれも興味ねえな。」

「え?」

低いのに素っ頓狂な声に振り返れば、人類最強の彼氏様が立っていた。

「リヴァイ兵長、お疲れ様です。こんな時間まで残っていたんですか?」

「接待帰りだ。」

「お疲れ様です。紅茶でも淹れて来ましょうか?」

「他部署の奴にそんな事させられるか。」

「じゃあ。」

まだ8時だが、王子はパソコンをシャットダウンし、ディスプレイの電源を落とした。

「帰りましょう。同室の誼でお気に入りの茶葉で淹れてあげますよ。」

「そうしてくれ。夕飯は食ったのか?」

「何スか、シメでもご所望スか?」

リヴァイがラーメンをすする傍ら、王子はチャーハンと餃子を頬張った。

「で?夏らしい事に興味ねえのか。」

「それで「え?」だったんスか。」

口に物を入れたまま喋ったので、リヴァイは王子の頭を軽く叩いた。

「人混み嫌いだし、目立つ傷痕ありますしねえ。」

「ナイトプールならどうだ?」

「…えぇ。」

絞り出すような王子の声に、リヴァイは説明を足した。

「以前、エレン達にせがまれ仕事帰りに行った。日差しもなく子どもも少なく、まあ、クソ共を適当にあしらいさえすれば、なかなか遊べる。」

「そのクソ共、たぶんパリピの事だと思いますけど、それが嫌なんじゃないスか。」

「エレンとミカサを連れてきゃ、何が寄ってきても追い払ってくれる。」

「部下と妹を番犬扱いすな。」

「狂犬がいなくとも大抵は俺に睨まれたら逃げて行く。他に問題がねえなら明日だ。」

王子は普通にしていれば大きな目を瞬かせ、呆れたように笑った。

「ほんと、思い立ったら即行動ですね。」

「人生百年とは言え、活発に動ける年齢は限られていて、なおかつ自由に金が使える社会的地位と重複している期間は特に貴重だ。一秒たりとも無駄にはできねえだろ。」

「そういうところ、好きッス。」

ちょうどリヴァイが二人分の伝票を持って立ち上がったところだったので、リヴァイはその板で王子の額を小突いた。



王子は甚平、リヴァイは浴衣の、お祭ガチ勢気分でナイトプールに参戦し、小規模な打ち上げ花火まで堪能し、後は帰るだけだ。
高速の分岐で、王子は気がついた。

「こっち、帰り道じゃなくないです?」

「正しい日本語を使え。」

「こちらは帰り道とは違いますよね?」

「ああ、そうだな。」

「これからどっか行くんスか?」

「俺はどこでも構わねえが、家で事に及ぶと一ヶ月はよそよそしくなるじゃねえか。」

「…なるほど、てか、いや、いつもどこで見つけて来るんスか。」

「俺の伯父がその手の仕事でな。」

そこでリヴァイの眼光が研ぎ澄まされた。
急に追い越して行った車が、前に割り込み、速度を急に落としたのだ。
リヴァイは速度を落とさず車体をスライドし、クラッチを操作してアクセル全開、追い抜き返し、そのままぶっちぎった。
すると、割り込んで来た車にも火がついたのか、追い駆けて来た。
メーターを見たくない、絶対見たくない。
助手席の王子はシートベルトを両手で握り締め、怒涛のカーチェイスに巻き込まれた不運を呪った。

「あの、何か言ってますよ。」

左から幅寄せして来た相手の男が怒鳴り散らかしているが、リヴァイの目は平静で、ガクンとスピードを落として、相手の体当たりを空ぶらせた。
そしてまたスピードを上げてぶっちぎっていく。

「リヴァイさんって実は何者なんスか?」

「ただのサラリーマンだ。」

絶対嘘だ。
相手が勝手にスピンして停車するのを見届け、リヴァイは高速を降りた。

「おい、大丈夫か?」

「…大丈夫に見えますか?」

「…見えねえ。悪かった。」

年下の彼氏に格好いいところを見せたかったリヴァイは、今や叱られた大型犬だ。
王子はそれを尻目にゲロゲロしながら、背を擦る優しい大きく逞しい掌に、本人の思惑とは違うところで惚れ直していた。

 



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