狂☆拍手お礼文☆112
 2019/04/30 Tue 21:46


拍手ありがとうございます!



<ハッピーライフ、ハッピーホーム、モモホーム>@

※輪咲



「(こうしていると、まるで見えているようなんだが。)」

高杉は、楽しそうにテレビを見る桃太郎を見ていつもそう思う。
願望だ。
元々見えていたのだから、見えていた方が楽しいだろうし、幼い頃から英才教育をしたおかげで、色彩感覚も良ければ感性も高い。
本人も普段そんな素振りを見せないが、常々不便を感じ、残念に思う事が多い事を知っている。
その分、自分が桃太郎の目になろうと、桃太郎が楽しそうに見ているテレビを見た。
湯葉餡かけ丼の紹介だ。
桃太郎は細い顎の下に白魚の指を添えて真剣に見入っている。

「豆乳、あったっけ。」
「(こいつぁ明日の晩飯は決まりだな。)」

湯葉は好きだが豆乳は嫌いな桃太郎が、買い置きしている訳がない。
好き嫌いは相変わらずだが、最近は高杉に美味しいものをたくさん食べて欲しいので、自発的に色々なものを食べるようになった。
桃太郎の目が見えなくなって、高杉は自宅で緩んだ顔を隠さずに済むようになった。



桃太郎は休日であっても着飾るのが仕事だ。
気高く美しい容姿で元気いっぱいに歩く様は、今現在の治世の象徴だ。
また、桃太郎の美貌はまだまだ若く瑞々しく、将来への希望も感じさせる。
存在するだけで人々の心を鼓舞するが、桃太郎の頭は派手な飾りでしかなく、そのような難しい事はまったく考えていない。
桃太郎の頭はいつも、高杉の事でいっぱいだ。
桃太郎は、繋いだ高杉の手を振る。

「晋助。買い出しの前に茶屋行こうぜ。甘いもん食いたい。」
「朝飯食ったばっかだろ。」
「食ったばっかってもう3時間前だし、家事すっと腹減んの。」
「今度からもっと朝飯食え。柔らかくなるのはいいが、銀時みたいにはなるな。」
「銀時みたいって?」
「糖尿病予備軍だ。」
「にゃはは!俺は普段からあんなに餓えてねえし、甘いもんのドカ食いしねえし、大丈夫だって!」
「気づいてねえのかもしれねえが、もっと食わねえとおまえの体は餓えてるぞ。」
「へ?」

検査をしていないのではっきりとはしていないが、桃太郎は天人との混血だ。
高杉は、桃太郎が見えていなくても高杉の表情を察せられるのをいい事に、不敵な笑みを浮かべた。

「あばら骨が消えりゃ色気が増すし、もう少し肉がついた方が抱き心地がよくなる。」
「…さぞ俺の体に御不満があるようで。」

カチンときた桃太郎は、見えない目で高杉の顔を覗き込む。

「よろしければ俺が抱きますけど?」
「寝言は寝て言え。」
「いや、マジで。一回、試してみねえ?」
「は?無理だろ。」
「なんで言い切れるんだよ。」

桃太郎は不機嫌だが、高杉は心外だ。

「おまえがどうこうっつうか、俺が我慢できねえだろうよ。」
「俺、そんな下手じゃねえけど。」
「違げえ。最初は付き合ってやれるが、俺相手に盛ってるおまえが可愛過ぎてすぐ引っくり返しちまう。」
「…ああ。」

桃太郎の目が明後日を見る。
確かに、高杉は桃太郎を好き過ぎるがため、その熱過ぎる思いを表現するには受け身では物足りなさそうだ。

「なるほど。すっげえ納得したわ。」

ただ、まだ桃太郎の目は明後日を見ている。
高杉は桃太郎の喉をくすぐって注意を引いた。

「おまえは俺の好きにされんのがいいんだろ?黙って抱かれてろ。」
「…じゃあもう少し肉付けるために甘いもん食いたいです。」

桃太郎が手を引けば、高杉は何の抵抗もなく付いて来てくれる。
桃太郎の機嫌はすぐによくなり、元気よくパンケーキの店に入って行った。



この辺りの甘味処は和洋問わず、メニューに熱い茶が必須だ。
甘いものを好まず、桃太郎が幸せそうに食べるのを幸せそうに見るだけの、高杉のためだ。
それがなければ、いくら我儘というより高杉に甘えまくりの桃太郎でも、来てはくれないからだ。
桃太郎が来た店は繁盛する、というか桃太郎を見に人が殺到するし、桃太郎と同じ物を食べに人が殺到する。
それでも桃太郎が街中で平和に過ごしていられるのは、目付きと柄の悪い高杉のおかげだ。
周囲を町単位で巻き込んだブラコンに加え今はバカップルは、無事に帰宅した。
昼食を共に作り、談笑の後は縁側で昼寝をし、洗濯物を畳んで、また二人で寄り添って、何をするでもなく時間を共有した。

「晋助。」

もう日が沈む頃、桃太郎の美声が静かに響いた。

「晋助ってさ、生活派手そうに見えて地味だよな。」
「何言ってんだ。おまえが隣にいる。それだけで贅沢だ。」
「うお。御馳走様。」

桃太郎が顔を向けたので、高杉は口付けた。

「おまえのいない空しさを酒や女で埋める姿は、さぞ滑稽だったろうよ。」
「若かっただけだろ?晋助は遊び上手じゃねえか。」
「おまえも、派手な生活を好みそうに見えるし、女好きだろ。だが、本当は静かに暮らしたいんだよな。昔も今も、おまえは元気いっぱいだが、派手な生活を望んだ事はない。」
「だって、俺も、晋助がいればそれだけで贅沢だから。」

今度は桃太郎から口付けた。

「晋助は、俺が今の生活から逃げたいって言ったら、あの時みたいに浚ってくれるんだろうなって妄想だけで、今はまだ頑張れるよ。…心配してくれてありがとう。」

桃太郎の心からの微笑みに、高杉も微笑みを返す。

「老後の楽しみは田舎で自給自足の生活か?…悪くねえ。」
「そのためには、今の内に頑張って金溜めとかねえとな。」

桃太郎は伸びをして立ち上がり、高杉はその手をとって立ち上がった。

「でも、嫌だなー。明日からまた仕事だよ。」
「くっくっ、おまえはほんっとに頭使うの嫌いだよな。」
「頭悪いもん。頭使わねえとは思わねえけど、体をよく使う仕事の方が向いてるわ。」
「俺もそう思う。おまえの弁当がなけりゃ、ここまで続いてなかっただろうよ。」
「へへ!嬉しい事言ってくれるじゃん。」

銀時は空気を読んで壁から背を離し、気配を主張した。

「よう、桃太郎。御所望の銀時印の豆乳だぞ。」

桃太郎は市販の豆乳が嫌いだ。
料理上手な銀時が大豆から作ったものだけ、頑張ったら飲めるのだ。

「桃太郎の新作料理が食えると聞いて来たのだが、会場はここか?」

桂の手には酒が握られている。
高杉は頭を掻いて、二人を手招いた。

「ブツだけ置いてとっとと失せろ。」
「「おまえ、そういう所だぞ。」」

三人がなんとなく一斉に桃太郎を見れば、桃太郎は嬉しそうに微笑んでいた。
三人は顔を見合わせ、おのおの緩む口元を揉んでやり過ごし、縁側から上がって行った。

 



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