剣☆拍手お礼文☆111
 2019/03/14 Thu 22:15


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<胃凭レ胸焼ニ我友素壱錠>

※第22話以降の設定。



ダレンは執務中、世界各国のニュースを視界の端に捉えている。
少し准尉が席を外したり、休暇中だと、気がつかない内にバラエティ番組になっている事もある。
今現在、准尉は入浴中だ。
普段なら興味のない番組だが、その国の大統領の息子がゲスト出演していた。
話がその息子の父親の事になったので、息子から見た大統領像に関心を持ち、筆を置いた。

「おや、大佐。どうかなさいましたか。」

准尉が風呂から執務室に直行したら、ダレンの目は凄まじく荒んでいた。
その目でバラエティ番組を睨んでいた。
何か不愉快な内容だったのかと、画面端のタイトルを確認したが、特に問題はなさそうだった。
ダレンは眉間の皺を揉みほぐした。

「某大統領の息子だ。」
「ああ、彼ですね。涼しげな相貌で品があり、当たり障りのない話を洒落た口調で供し人を愉快にさせる人物だったはず。好感が持てます。」
「私もだ。司会者に請われ、彼が父親との会話で印象に残るものとして口にした内容だ。」

准尉は姿勢を正し、ダレンは椅子に深く腰掛けた。

「彼らは風呂に入った際、面積の小さなタオルを愛用している。大きければいいわけではない。どんなに小さなタオルでも絞ればいくらでも使える。物を大切に使えという教えだそうだ。」
「…はあ。」
「やはり准尉もそのような発想に至ったか。」
「彼の国は小さな土地で、資源も乏しく、外交でも押しが弱く、軍隊を持たず、タオルを大きくする術はありません。むしろ、それ以外に聞こえませんが。」
「そうなのだ。しかし、この番組に出演する者みなが感動しておった。」
「繊維が。」
「そう。絞られる繊維達だ。」
「「…。」」

二人は無言で見つめ合った。
沈黙を破ったのは准尉だ。

「少し休憩しましょう。」
「そうだな。」

准尉はダレンの周りの書類を黙々と片付け始め、ダレンは携帯受信機を取り出した。
かける所なんて一つだ。

『お子様はもう寝る時間だろ。』

出たのはやはりガユスだ。
ダレンは少しだけ体の力が抜けた。

「児童虐待についてはメディアを煽って上層部にかけ合ってくれ。」
『何か遭ったのか?』
「迷い犬探しから竜殺しまで何でもござれの事務所にかけたんだ。ただ、話を聞いて欲しいだけだ。」

ダレンの椅子が回る。
子どものような振る舞いに、准尉はこっそり微笑んだ。

「某大統領の息子が司会者に請われ、彼が父親との会話で印象に残るものとして口にした内容だ。」

話し終えたダレンは身構えた。
ガユスはまずは素直に答えた。

『大統領も物を大事に扱うんだって、好感度上げるための話じゃねえの?』

ダレンが溜め息を吐く前に、ガユスは言葉を足した。

『って、思うのが普通の人間だ。汚ねえ狸親父共の油に塗れて生きてるダレン君は、鼻で笑うだろうがな。』
「やはり俺はおかしいのだろうか。」
『いや?おかしいのは自分の考えが正解だと信じて疑わねえ奴の頭だ。主義主張はアイデンティティのなすもので誰も赤ペンではねる事はできねえが、一つの事に対して一つの考え方しかできねえのは間違いだ。』
「略すと?」
『こうやって電話してくる可愛気がありゃ充分だろって話だ。』

ダレンはほんの少し頬を膨らませたが、機嫌が悪いわけではない。
ガユスの声は優しい。

『狸親父共に中てられてすっかり疲れちまったらいつでもかけてこい。戦闘中じゃなきゃ、伝家の宝刀<ヘリクツ>で遊んでやるよ。』

ダレンの頬が萎み、緩む。

「前々から思っていたが、ガユスの方がこの仕事に向いている気がする。」
『やめてくれ。俺がその席に座るにはやる気とカリスマ性が皆無だ。』
「俺に備わっているかはさておき、やる気とカリスマ性があっても、向いていなければ務まらぬだろう。」
『向き不向きはわからねえが、おまえならやれば平均以上どころか優秀にできるだろ。がんばれ、そんでさっさと休め。』
「ガユス先生にそう言われると自信がつく。」

椅子がまた回り、ダレンの顔が正面に戻る。
その顔はいつもの精悍さを取り戻していたが、穏やかな笑みを湛えていた。

「ガユス先生の言うとおりにするよ。がんばろう。」
『いい子だ。ギギナなら修行後、直帰してる筈だ。』
「ギギナには寝る前にかける。ガユスの方が大佐に向いていると切り出したら、何と言うやら、楽しみだ。」
『また要らん事吹き込みやがってって怒られるからやめろ。』
「ふふ、仕事の邪魔をしてすまなかった。ありがとう。ガユス所長も残業がんばってくれ。」
『ああ。またな。』

ダレンはしばらく受信機を見つめ、瞬きをして笑みを消した。
准尉が整えた書類に手を伸ばし、黙々と仕事を再開した。
准尉は、改めて聞くまでもなく、今のダレンの気分に合う飲み物を用意し、邪魔にならない場所に置いた。
いつもの高級なソーサーに置かれた、カップに豆から挽いて淹れる上等なものではなく、マグカップになみなみと注がれた、アルバイト時代にガユスがよく淹れてくれた砂糖と牛乳が多めのインスタント珈琲だった。

 



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