剣☆拍手お礼文☆110
 2019/02/08 Fri 22:50


拍手ありがとうございます!



<穴座亜素界>

※剣と月を祝福をの花街パロです。
※時代設定は近代とかその辺です。



とある花街のそれなりの見世。
全国指名手配犯<顔剥ぎ>の目撃情報を元に、遠路遥々いらした軍人を、それなりの階級であるにも関わらず下っ端根性が抜け出せずいつも嫌な役目が回って来る不幸収集体質、つまりガユス・レヴィナ・ソレル大尉が世話する事になった。
相手の階級は大佐で、帝国軍の特別精鋭部隊<第十二翼将>の一翼で、本来であればガユス一人でもてなせるような身分ではない。
しかしこの大佐、まだ二十歳だそうだ。
若過ぎる。
中央では名を馳せる天才だそうだが、地方の役人にまでその噂は広がりきらず、つまりは小僧が偉そうに生意気なんだよと、ガユスのみが宛がわれたわけだ。
ガユスがおもてなし係に任命されたのは、それだけではない。
不幸収集体質のガユスだが、何故か遊びの女にはもてた。
顔は疲れていなければ整っていて、背丈は高い。
生粋の女好きで、女に偉そうな態度を取らないどころか、彼女達の魅力を引き出す役に徹し、野心はあるものの、いざ人の上に立つと落ち着かない、そんな人柄が花街でのガユスの人望に結びついている。
だから、ガユス以上にこの地でおもてなしをできる男はいないのだ。
そう思っていたが、ガユスの自信が揺らいだ。

「あのー、それで、メオ・ジギー大佐。」

「発言を許す。」

「ありがとうございます。このソレル大尉、まだまだ至らず、不手際や御不満がございますようで、御教授願いたく存じます。」

「ない。飯も酒もうまい。女達は美しく、歌舞も素晴らしい。」

「では何故、怒っていらっしゃるのでしょうか?」

「別に、何も思っていない。興味がないだけだ。」

「はあ。」

その女達よりも美しい大佐のお顔は、到着から今に至るまでずっと険しい。
女達は大佐に余程抱かれたいのか、一生懸命過ぎていっそ怖い。
大佐と女達の温度差もあって、ガユスの胃が軋む。

「さ、さて。大佐。夜も更けて来た事ですし、そろそろお休みになられては?」

「ここでか?」

「ここは花街ですよ?他にどこで寝る気ですか?」

「金は私が出す。相手は愛想がない者がよい。隣の嬌声が聞こえぬ静かな部屋に通してくれ。」

ガユスの青い目が一瞬歪んだのを、大佐は見逃さない。
皇帝黄玉の瞳を眇めた。

「なんだ。貴様が懇意にしている女の部屋か。」

「ちっがいますよ!今その部屋使ってるのが男だからどうしようかなって思っただけです!」

「ほお、丁度良い。」

大佐が初めて興味を持った。
大佐の不機嫌そうな顔が、初めて笑みになった。
それはそれは美しかったが、恐ろしくもあった。

「早く案内しろ。」

大佐は呆気に取られるガユスに金を投げた。



案内された部屋は、最上階の端の部屋だった。
隣は空き部屋のようだが、下の階が姦しい。
まだましかと、大佐は灯りを消し、刀を下ろし、窓辺に腰を下ろした。
障子を開き、寒々しい夜空を見上げた。

「(今夜も眠れそうにないか。)」

女将直々に案内された男が部屋に入って来た。
大佐は花街の礼儀作法に詳しくないが、明らかに無礼な入室者を見上げた。
最初は暗くてわからなかったが、近づくにつれ、月明かりに暴かれて行く男の全貌に、驚いた。
大佐の所望通り無愛想で不機嫌そうな男は、艶やかな着物の上からでもわかる程鍛え抜かれた体をしていて、背が高く、美しい。
何より驚くは、鋼の瞳に鋼の髪、同郷の出だ。
何が遭って、武勇の誉れ高いドラッケンがこの様な所で働く事になったのか。
想像に難く、何にせよ大佐の涙腺を刺激した。
思わず零れた雫を、意外にも男は指先で拭った。
その手を、大佐は払った。

「触るな。私にその様な趣味はない。」

「ならば何故私を指名した。」

「私が所望したのは静かな部屋だ。貴様は何もしなくてもよい。私に構わなければ、寝ていても、何をしていても構わぬ。ああ、灯りは点けるな。以上だ。」

「…。」

大佐はまた月を見上げた。
それが唯一の癒しであるかのように、じっとだ。
男は三味線を掴み、鳴らした。
大佐は、静かな部屋を所望しただろうと怒りかけて、やめた。
男が奏でる音色はとても美しく、心が洗われる様な旋律だ。
故郷を思い出し、月がよりいっそう美しく見えた。
演奏が終わり、大佐は素直に拍手した。

「名を聞きそびれた。もう一度名乗ってくれ。」

「ギギナ。ギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ。」

「アシュレイ・ブフ家のギギナに、何が遭って武勇の誉れ高い戦闘民族がこの様な所で働く事になったのかは知らぬが、そのおかげで“俺は”珍しく良い思いをさせて貰えた。ありがとう。」

そしてまた月を見上げる大佐に、ギギナは問う。

「眠らぬのか?」

「私は眠らずとも構わぬ。ギギナが寝たければ布団を使うといい。」

「そこは寒かろう。眠らずとも布団を使え。」

大佐は、いくらギギナが年上だろうと、客に対する物言いに少し機嫌を損ねた。
ギギナは布団を引き摺って大佐に近付き、睨み上げる大佐を布団で包んだ。

「先程触れた時、氷の様に冷えていた。それでは眠りたくとも眠れぬだろう。」

「余計な世話だ。眠れぬ理由は寒さではない。」

「人の気配が多い所では眠れぬか。」

「そう思うなら少しでも離れてくれ。」

ギギナは大佐を引き寄せ、自分にもたれさせた。
大佐はまだ、ギギナを睨んでいる。
口元は皮肉に歪んだ弧を描いた。

「はっ、なんだ。私に取り入って身受けでも狙っているのか?」

「私はここでの生活を気に入っている。黙っていても女が寄って来る。」

「ドラッケンが、嘆かわしい。」

「ああ、まったくだ。」

「さっき、気に入っていると言っていたではないか。」

見上げる大佐に毒はない。
ギギナは大佐を見下ろし、眉を下げた。

「外に出ても敵がおらぬ。退屈だ。」

「…成る程。同情に値する。」

大佐は体から力を抜き、ギギナにもたれた。
目は閉じているが、眠る気配はない。
宿敵である<顔剥ぎ>を追う為に研ぎ澄まされた精神が、微かな物音や僅かな気配にいちいち反応してしまう。
しかし、体は温かい。
ここのところ眠れていなかったから、体だけでも休められたらありがたい。
今度はギギナが歌い始めた。
心地良い声で、大きさで、速さで、音程で、優しい言葉が紡がれる。
子守唄だ。
馬鹿にするなと思ったが、邪魔をするにはギギナの歌は美しく、終わってからにしようと思って傾聴していたら、気がついたら布団で寝ていた。

「え!?」

目を覚ましたら、眼前にギギナの美しい顔面があった。
ギギナは枕を使っていて、大佐はギギナの逞しい腕を枕に寝ていた。
飛び起き、何はさておき自分の身形を確かめた大佐は、自分の軍服が乱れていない事に安堵した。
ギギナも体を起こし、欠伸をしながら頭をかいた。

「よく眠れたか?」

「あ、…ああ。」

「そうか。」

ギギナが微笑んだ。
大佐は顔に熱が集まり、胸が絞めつけられ、体調不良を疑ったが、一瞬だった。
その反応に首を傾げていたら、頭を撫でられた。
子ども扱いをされているのだからいつもなら腹が立つところだが、心地よくて体から力が抜けた。

「ここに滞在する間は私を指名するがいい。眠らせてやろう。」

「…助かる。」

「軍服は固い。今宵は浴衣に着替えてもらうぞ。」

大佐は刀を腰に差し、軍帽を被った。
見送りを辞退し、早速捜査に向かうその腕を、ギギナは掴んで引き止めた。
大佐は睨まず、丸い目でギギナを見上げた。

「なんだ?私は急いでいる。」

「名を聞いていなかった。」

大佐の、大きな瞳が ぱちぱち と音を立てて瞬く。
そんな愛らしさは一瞬で、すぐに妖艶な笑みに眇められた。

「旦那様でよかろう。他の客を取ったり、お茶挽きの女を部屋に上げていたら、見世を変えるからな。」

「生意気な幼旦那様だな。」

「ふん、気が変わった。今夜、この“俺”を馬鹿にした事を後悔させてやろう。身を清めて待っていろ。」

犬歯を露わに吐き捨てて去るその背を、ギギナは部屋から見下ろし見送った。
その部屋の端、ガユスは溜め息を吐いた。

「いやー、おまえが意外にも構わんとか言うから吃驚したけど、うまくやってくれた様で良かったよ。」

「眼鏡の糞台座。ドラッケンを匿っているとなれば、あの生意気な糞餓鬼にどんな言いがかりをつけられるかわからぬ。私の心情は関係なく、そうするしかなかろう。」

「迷惑量産機が。大佐君がさっさと<顔剥ぎ>を捕まえてくれりゃ、おまえも年季明けだ。精々お世話してやんな。」

「下級が、貴様の指図は受けぬ。」

「あー、はい、そうですか。アシュレイ・ブフ少佐殿。一個しか違わねえじゃねえか。」

大佐が大門に差しかかった。
ギギナが目を凝らせば大佐は視線を感じ、振り返り見上げた先、ギギナを見つけて驚き、慌てて出て行った。



ダレンは顔剥ぎを単独で追っていて、ギギナは顔剥ぎに間違われて厄介なのでほとぼりがさめるまで廓で匿われているって俺得話です。

 



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