狂☆拍手お礼文☆107
2018/10/08 Mon 20:26
拍手ありがとうございます!
<君ニ一杯喰ワセタクテ>@
※三輪咲後
異星間交流のパーティーは、多種多様な食事と花々と歌舞が集まった、華やかなものとなった。
その中で木野子は、隣に座る男を見て、複雑な溜め息を吐いた。
ああ、美しい。
見れば見るほど美しい。
目元を花の飾りで覆ってもなお、その美しさを損なう事はない。
今日は主催者である天人の趣向に合わせて、中華風の装いだが、完成度が自分とは雲泥の差だ。
ふりふりひらひらの服でも、色彩と着こなしと、何よりも着る人間が違うとこうも違うのかと、思い知らされる。
種は違えど同じ母から生まれ、二人とも母親似であるのにだ。
「お兄様。」
紅を差していない桃太郎は、女装していても男らしく、美しいままだ。
木野子は呼んで気を引いてみたものの、兄妹らしい世間話を思い付けず、愛らしさの残る唇を尖らせた。
「ところで最近。お仕事をサボっているのではございませんか?」
「うお。バレてら。」
「色仕掛けの成果が現状維持ばかりでは、その内クビを切られますわよ。」
「現状維持もなかなか難しいのは木野子ちゃんだってわかってくれんだろ?」
「もちろん。ですが、貴方に求められるものは勝利です。」
桃太郎は、顎の下に手を添え唸る姿も様になる。
「せめて俺に学がありゃあなあ。」
「常に申し上げているでしょう。榎本の城に御戻りになってくだされば、優秀な家庭教師をお付け致しますと。」
「無駄無駄。猫に小判、豚に真珠、俺に授業だ。」
「貴方は聡明な母の血を引いておりますし、お相手の方も私の父とは違い、母が選んだ殿方です。遺伝子は優秀なのですから、後は使い方次第でしょう。頭ごなしに無理だと決めつけず、精進なさっては如何ですか。」
「俺が頭いいと困るんじゃねえの?現当主さん。」
「心配御無用。人並みになられたところで、魔境で育ち可愛らしさなど忘れてしまった私に勝る事はできませんわ。」
「そうかねえ?」
木野子が睨んだ先、桃太郎は自分の席に飾られている花をとった。
何色でどのような形をしているか説明したが、見えていない桃太郎が楽しめるのは香りくらいだ。
しかし、桃太郎は器用にそれを編み、花冠を作って木野子の頭に乗せた。
「木野子ちゃんは俺に似てんだ。可愛いに決まってんだろ?仏頂面ばっかりしてねえで笑ってみな。」
そういう桃太郎こそ無邪気に笑っていて、きっと大人から見れば可愛らしいのだろう。
年下の木野子から見れば、実の兄だろうとなんだろうと格好良いだけで、ますます胸が高鳴ってしまう。
慌ててそっぽを向いた。
「何も楽しくないのに笑えませんわ。」
「歌とか舞とか、飯とか。木野子ちゃんは楽しくねえの?」
「歌や舞を美しいと理解する事もできれば、食事を美味しいと感じる事もできます。ですが、それを楽しいとは思えません。そもそもこういったお仕事はお兄様の領分でしょう。このくだらない時間に私がこなせた執務にどれほどの価値があるか、」
「理解、ねえ。」
「…聞いていらっしゃいませんね。」
桃太郎は目隠しをとり、それで花輪のように頭を飾った。
まるで木野子とお揃いのようで、衣装と相まっていつもよりも兄妹らしく見える。
「俺、もう少し勉強するからさ。その代わり、木野子ちゃんはもう少し俺みたいに馬鹿になろうぜ。」
「は?」
「晋助、悪い。遊んで来るわ。」
「大丈夫だ。今のところ目ぼしい気配はねえ。」
「サンキュ。総悟、案内頼む。」
「へいへい。」
「よいしょっと。」
「きゃ!?」
桃太郎は勇ましい掛け声がいらないほど軽い木野子を抱き上げ、来賓席を出た。
混乱の極みにいる木野子に、力を抜いていればいいからと耳打ちし、舞台に上がり、楽隊に先程の曲をもう一度と願い出れば、快諾してくれた。
かくして見目麗しい兄妹の、無邪気な踊りが始まった。
最初こそ体を固くしていた木野子だが、桃太郎の手取り足取り多彩なリードが上手に過ぎて、体が勝手に踊っている事を理解してからは、抵抗する方がおかしい事に気がついた。
体から力を抜いて桃太郎に任せれば、桃太郎は慣れているし見えてないからいいかもしれないが、木野子には気になっていた衆目も、自分達のお茶目で子どもっぽい振る舞いを寛容している事に気がついた。
目の前の桃太郎の事しか見えなくなってからは、心の底から楽しそうな桃太郎につられ、木野子も思わず歌を口ずさんでしまった。
鼻歌すらまともに音程をなぞれない兄とは違い、木野子のまだ幼く瑞々しい歌声は、大人の耳を楽しませた。
「(ああ。お兄様を探して江戸まで来た日の事を思い出しますわ。目に映るもの何もかもが新鮮で、短かったけれど、とても楽しい時間だった。)」
予定外の催しは、演奏の最後の音と共に兄妹がお辞儀をする事で終わった。
拍手喝采、温かな賛辞に見送られて席に戻った兄妹は、微笑み合っていた。
「楽しかっただろ?」
「はい。」
今の二人は表情もよく似ている。
高杉ですら、そう思った。
沖田は目を丸くしている。
木野子は沖田の表情に気がつき、首を傾げた。
「どうかなさいまして?」
「あ、いえ。似てると思いやして、失礼しやした。」
「お兄様に、今更ですか?」
「…いや。」
珍しく歯切れの悪い沖田に、桃太郎は意地の悪い笑みを見せた。
その毒々しいが無邪気な笑みに、木野子の胸がまた高鳴り、頬が染まる。
沖田は面白くなく、桃太郎の笑みに拍車がかかる。
「そういや、木野子ちゃんは総ちゃんの初恋のお相手に似てるかもな?」
「まあ、そうなんですの?」
「ざけんな。あんなブラコンのお転婆と比べたら木野子姫に失礼だろうが。」
「いやいや、俺の妹も結構お転婆よ?深窓の御令嬢が、俺探しに単身城飛び出すくらいなんだからよ。」
「お兄様!」
木野子は慌てて桃太郎の口を両手で塞ぐ。
桃太郎は楽しそうに塞がれてやってから、木野子の頭を撫でてやった。
「庶民中の庶民であるあいつも退屈してるみてえだからさ。これもまた異文化交流っつう事で、ちょっとの間話相手してやってよ。」
「それは構いませんが、お兄様の方が沖田様の御話相手に相応しいのではありませんか?」
「俺とのくだらねえ会話にも飽きて来たころだ。たまには上流階級のお転婆と話すのも面白いだろうし、木野子ちゃんも、たまには庶民の生活覗き見るのもいい勉強になるぜ。」
「庶民庶民ってえ、失礼な野郎だな。これでも高給取りだぞ。」
「へいへい。俺も高給取りだけど、うまい棒がやめられねえクチよ。でも俺がそんな事言うとお兄様には御立場がどうのこうのって叱られちまうだけなんでね。お兄様に代わって可愛い妹の視野を広げてやって。」
桃太郎はまた立ち上がり、今度は高杉の袖を引いた。
沖田は目を据わらせた。
「おい、おめえは何処行くんだよ?」
「ちょっと晋助とお花摘んで来る〜。」
「そのまま戻って来んな、汚らわしいバカップル。」
後ろ手を振る桃太郎を、沖田は親指を下にして見送った。
桃太郎はそれを背で感じ、肩を震わせて笑った。
「いやあ〜、あの総悟がねえ?」
「おまえ、ダチに妹の目を逸らさせるつもりか。」
「総悟ならうまくやるさ。」
「おまえの頭でそこまで見越してんなら上等だが、俺は美しい兄貴に幼い恋心を向けておいてやった方がよかったと思うがな。」
「へえ、珍しい。晋助が俺のやる事にケチつけた。」
木野子は榎本の後継ぎとして、政略結婚をしなければならない。
一度は破談となり、今はその時ではなく、一番勢いがある時によりよい家柄と結び付くべきだ。
本当の恋心は絶対に叶わぬ種違いの兄に抱いたまま、結婚は仕事と割り切って嫁いだ方が気持ちが楽だと、高杉は考えた。
普通の男相手だと「叶えられたかもしれない」「うまくいったかもしれない」と、中途半端に気持ちが引きずられる事になりかねない、と。
桃太郎は高杉の考えを知ってか知らずか、肩を竦めた。
「木野子ちゃんは俺と晋助っつう成功例見てんだ。俺によく似たお転婆なら何しでかすかわかんねえだろ?だから、総悟なら安心なんだよ。あいつ、絶対仕事では手ぇ抜かねえし、魔が差す事もねえから。」
高杉は隻眼を丸くした。
「ああ、おまえ、顔にも態度にも出さねえが、…妹の扱いに困ってたのか。」
「うん。割と結構大真面目に。」
高杉は珍しく頭を使った桃太郎を撫でてやり、腰を抱いた。
その方が桃太郎は歩きやすい。
「俺は弟の扱いに困った事がねえから、気がつかなかった。」
「うはは!」
「初恋を俺に盗られた者同士、今頃仲良く俺の暗殺でも企ててんだろうな。」
「じゃあ俺達は仲良く駆け落ちでも企てねえとなあ?」
「俺はいつでも準備ができている。あとは桃次第だ。」
急に真面目な高杉の声に、桃太郎は驚いたりはしない。
「サボってねえでさっさと誑かして落として来い。おまえが選んだ道だろ?」
「うお、さすが晋助。バレてる。」
サボっている事ではない。
桃太郎の最終目的が、高杉との駆け落ちである事だ。
サボってるつもりはないし、高杉もそうは思っていない。
今度は桃太郎が選んだ回り道から帰って来るのを今か今かと、しかしあの時のように強引に迎えに来る事なく待ってくれている高杉に、桃太郎は微笑む。
「おう。お清めセ○クスがありゃあ、やり方も頑張り甲斐もあるってもんよ。」
多少危険を冒しても急ぐよ。
それを茶化して伝えたつもりだったが、桃太郎は急に下がった気温に肩を震わせた。
桃太郎の腰を抱く高杉の腕の力が、痛くはないが、物理的拘束を強めた。
「一回でも一線越えたら駆け落ちどころかすぐに監禁だ。お清めどころかお仕置きするからな。」
これは急がなければいけないが、慌てず確実に“転ばずに”進まなくてはいけない。
鬼気迫る高杉の声に、桃太郎は背筋を震わせた。
「はい。」
間髪入れずに大きな声ではっきりと返事をすれば、高杉の桃太郎の腰を抱く腕から青筋が消えた。
「木野子姫もなんであんなチャラくて頭の悪いブラコン野郎なんかに拘るんでさあ?」
「沖田様こそ。そんな方のお友達でいられるのはどうして?」
沖田と木野子は顔を見合わせ、吹き出した。
「「あの目付きの悪い男からちょっとでも奪ってやりたいから」」
「でさあ。」「ですわ。」
高杉は、クソガキ共が考える事なんて手に取るようにわかる。
桃太郎の思い通りとは少し違う所で、沖田と木野子は仲良くなってしまった。
木野子は今日、少しでも高杉から桃太郎の意識を引き剥がし、自分に向けてもらう事ができて、喜んでいた。
あの時、沖田が似ていると言ったのは、そんな木野子と自分の事だったのだ。
だから高杉は、桃太郎が沖田と一緒にいる事をあまりよく思っていない。
桃太郎は馬鹿だから、気がつきもしない。
そこがいいのだが、危なっかしくて仕方がない。
「でも、なかなかうまくいきませんわねえ。」
「あいつ馬鹿だから、一回くらいは引き際を誤りそうなもんなんですけどねい。」
「もう少し危険なセッティングをしてもいいかもしれませんわね。」
「そうしてくだせえ。その時は是非鬼兵隊でなく新撰組を護衛に。」
「もちろん。桃太郎様の心に消えない傷を作りたい訳ではございませんし、桃太郎様は沖田様の事をとても気に入っていらっしゃいますからね。安全性でも、計画的にも、沖田様ほどの適任はいらっしゃいません。」
「俺も、桃太郎と喧嘩する事はあっても恨みはありやせん。あくまであの気に入らねえ男から気を逸らさせて、あの澄ました顔を歪ませたいだけでさあ。」
「ふふ。私達、気が合いますわね。」
「そうですねい。今度いろんな“練り切り”を捏ね繰り回しながら、茶でも一杯どうですかい?」
「どれもさぞ癖になる味でしょうね。“一杯どころか何杯でも”お付き合い致しますわ。」
桃太郎がまた体を震わせる。
誰もいない背後を振り返り、首を傾げたら、高杉の上着をかけられた。
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