書 い て み た
 2008.11.29 Sat
【SSS:風邪っぴきネウロ】


 一億度の業火に耐え、マシンガンなんてものともしない、ビルの屋上から落ちても平気な顔をしている魔人が、まさか風邪をひくなんて。

「……何を妙な顔をしているワラジムシ」
 けだるげに寄越された目は熱に潤んでいてやけに色っぽい。なんとなく後ろめたい気持ちになって私はぎこちなく視線を逸らした。
「い、いや、なんか珍しいなーと思って」
 普段なら「見せ物じゃない」とか言って暴力を振るってくるのだけれど、ネウロは無言でトロイに頬杖を付いたまま、浅くため息をつくだけだった。なかなかしんどそうだ。
 所作のひとつひとつが艶めいて見えるのはやはり熱のせいなのだろうか。
「ネウロ……横になったら?」
「……断る」
「事務所なら休みにすればいいじゃん。意地張らないで寝ときなさいよ」
「…………」
 魔人は頑として首を縦に振らない。どうやら病気で弱っているところを見られたのが不機嫌の原因らしい。かっこつけたい思春期の中学生でもあるまいし、今さら何を気にしているんだか。
 仕方ないので買い物に出るという名目で席を外すことにした。その間にソファでなり寝ててくれればいいのだけれど。
「じゃあ行ってくる。あかねちゃん、留守の間ネウロのことよろしくね」
 ネウロに聞かれないよう小声であかねちゃんに言い置いて、私は事務所を出た。


 私の居ない間にネウロが眠れるよう、なるべく時間をかけて買い物をする。通常なら五分とかからない買い物に、今日は三十分以上はかけただろうか。無駄に外を歩き回ったため、事務所に帰るころには身体はすっかり冷えていた。
「ただいま。……ネウロ、寝てる?」
 入り口から小さく聞くと壁から生えたおさげが大きく縦に揺れて肯定した。本当だ、ソファのひじ掛けに金髪が乗っかっている。買い物袋が音を立てないよう注意してネウロに近づいたけれど、やはりかすかにビニールが鳴ってしまった。音に反応したネウロのまぶたがゆっくりと開かれる。
「あ、ごめん……。起こしちゃったね」
 ネウロの枕元にかがみこんで魔人の顔にかかった前髪をそっとはらう。横になっているせいか、先ほどよりも体調が悪そうに見えるのが心配だった。
 ネウロは真っ直ぐ私を見て少し擦れた声で言った。
「……遅かったな」
「そう、かな。気のせいだよ」
 まさか「わざと遅くなりました」なんて言えるわけがない。言葉を濁して適当にごまかそうとしたが、それはネウロに手を掴まれることで阻まれた。熱い。
「ならばなぜ貴様の手はこんなにも冷えているのだ?」
「それ、は……」
 風邪をひいて熱をもったネウロの手と冬風に吹かれて冷えた私の手が繋がって、熱がじんわりと中和されていく。ネウロの問いに正直に答えるわけにもいかず、私は言葉に詰まった。
 しかし魔人に手を掴まれた時に私の思惑はすべて見破られてしまったらしい。
「……ウジムシごときが余計な気をまわしおって」
 内心では喜んでいるのか、表面上は不機嫌そうに呟いて、ネウロは目を閉じた。ほどなくして人より間隔の長い寝息が聞こえ始める。しかし繋いだ手は離されていない。
「なんか前もこんなことがあったような……。ってあれは手を繋ぐ、じゃなくて手を繋げる、か」
 あの時はさんざんだったけど今回は私もあったかいからいいかな、なんて掴まれた手を見て思う。
 とにかく、ネウロの目が覚めたらいろいろ試してみようか。ビニール袋にはリンゴや薬、アイスノンに熱冷ましシートなど風邪に効きそうな物ばかり入っているのだから。

fin.

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風邪っぴき弥子Ver.も見てみたい。

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