一言話せばそれ自体既に決闘の合図だった。
あいつは良い。力をいれてもへこたれない。気配を消せば、闘心という頭に血が上る感情はどこえやらスッと意識を抜く。動きが粗いと毒付けば反抗はするが見違えるように鋭利な動きを見せる。順応性があるというのか。光源氏ではないが、元が良い分自分好みな闘い方をしてくれる。



「なになに。沖田くんって神楽好きなの?」


旦那の赤ら顔はまさに酔った人間ならではの惚け顔だった。この場に相応しい表情かと言われれば恐らくそうだ。右手にガラス製のコップを、反対側には木の机にピッタリと押し付けた大瓶の長い口を無造作に握っていた。純然たる酔っ払い。その人を相手に酒を煽っている俺の思考も相当きている。


そんな中、出された質問はさして気に止める必要がなかった。


「あー、いいですねィ。好きでさァ」



酔った勢いと言うのは、かなり凄い。例え旦那を挟んでその『神楽』が座っていても簡単に口を開くのだ。
短く隣の男が歓声を上げ、軽く吐き出した感情をゆっくりとなぞる。そして、彼ごしにチャイナを見ると居酒屋なのに酒も飲まずお椀一杯の茶漬けを口に流し込んだところのようで、上げられた顔についている青い瞳と視線がかち合った。

じっと、という言葉が当てはまるほど何をいうこともなく俺は見られていた。
なんせ愛の告白。
あの年代の女の子にはずっと惹かれるものがあるはずだ。
しかし、その視線の意味はまさに探るようにだった。戦闘部族かなんだかしらないが、こういう内なるところを抜かりなく見つめる表情を結構好んだりしてる。


「ちゃんと聞いてたヨ?」


抜けるような青は感情を語らせなく、暫くしてようやく小さな口が開き見つめられたまま言葉が投げ掛けられた。
直ぐに言葉は出てこない。
だって酔ってんだもん。

安っぽいコップを傾けて、今しがた彼女が吐いた言葉を頭の中で反復する。
愛の言葉に、聞いてるよ?で返された俺はどうなんだろうか。酔っていてもガラス製のハートにヒビが入りそうな、俺も所詮ただの酔っ払いと見なされたのか。かとなれば相当恥ずかしい。




「かぐらぁー、微妙な返事だなぁ」


まさしく旦那の言う通りだ。机に突っ伏した彼が起き上がったのを横目で見ながら、落胆すればいいのか、嫌がられなかったことを素直に喜べばいいのか考えるが答えは見当たらず。
取り敢えずこの父親代わりは邪魔くさい。席を立って旦那を超え桃色頭の隣に移動して腰掛けた。

黙ってその動作を見ていた白い目尻が初めて歪められるのを見ながら酒を一口飲み干し、彼女に再び向き合う。イスごと体を向けると隊服の中の膝頭がチャイナの紅い生地に包まれた白い腿と擦れあった。こんな酒場の席同士が近いことは知っている。本来ならそういう場所は気の知れた仲間と来るわけで特に気にすることではない。のだろうけど、スリットの破れ目が乱れる様は妙に艶かで…



「沖田クンの変態」



呟かれた言葉は何時も俺をクン付けで呼ぶ男ではなく、それを真似した彼女からだった。


「好きでさぁ。」


「酔ってるくせによく言うアルナ。顔赤いし、その隊服仕事中だし、あーもう抱きつくなヨ。…臭い。銀ちゃぁんっ」

「旦那なんか関係ねぇ、愛してまさぁ。」

「力そんな入れるナ、苦しい苦しい!」

「紹介するよ、神楽ぁ。お婿さんだ。サディストだけど大切にしろよー。」

「この酔っ払いども!」


ばしばしと背中を叩かれることなんか気にも止めず腕の中に初めて素直に収まった彼女に口付ける。


「んぅっ…!」


ぷっくりした桃色の唇が誘ってたんだから仕方がない。角度を変えて、噛み付くように唇にすがり付いた。息を上手く吸えない小さな彼女の瞳は細く微かに涙が溜まっていて、でもその頬は色づくばかり。合わさった息は乱れ、押し返そうとするためにか肩にかかった指先は余りの衝動に隊服を掴んで終わってる。

―かわいい



「…本気でさぁ」


ギュッと小さな肩口に顔を埋めれば、耳のすぐ横で酸素を取り戻したチャイナの荒い息ばかりが鼓膜を振動させる。背中にそろりと回った掌が心地いい。まだこんなにちっさいのに、抱き締める度にもっと求めてしまわせるチャイナは凄いと思う。


「うっわー、見せつけてくれるねー沖田くん、もー、いっそこのままこの娘貰ってやって。ここのお代払ってくれんならいいよー」

「ぎっ、銀ちゃん!?」

「そりゃぁお安いごようでさぁ。そこでへしゃげてる目付きのわりぃマヨネーズは俺のでっかい財布みたいなもんなんで。」

「おーう。ヒジカター起きろー、銀さんの財布ー。」


同じく隊服を来た上司を揺さぶりはじめた旦那を視界の中にいれた後で、立ってチャイナの脇に腕を差し込んで抱き上げる。相変わらず軽くて簡単に持ち上がって、騒ぐ高い声を無視して歩き出す。ちょっとコイツ借りますねィ。おっけー。ちょっ離せヨ!…みたいな確認作業をしあって。


「すいやせんけど、二階の個室かりて良いですかねィ。」

カウンターの奥にいるこの店を運営している夫妻のこ洒落た娘さんに声をかけると、愛想よく受け答えしてくれた。でも所詮はそこまで。いきなり大人しくなった肩の上の勘違い娘を愛しく思う一方。階段をあがって奥の襖を開けて畳の上にチャイナをそっと寝かせる。

「…警察のくせに。」

「まぁ、それは否定しねぇよ。」

「節操なし。」

「誰がだ。」


まだ何か言いたそうな口を塞ぎ、少しだけ見開かれた青に瞳だけで笑ってやれば素早く反らされた。



「お前だって俺のこと好きな癖に。」


耳元でわざと低く呟く。
きゅっとやっぱり隊服が握られて、弱い部分に舌を這わすと横からは甘すぎる吐息。意地悪…!なんて普段の迫力はどこえやらもう可愛くて仕方がない。
口付けながら、布の釦をぷちりと外していく動作をしていると彼女の細い指先が戸惑いを含み手を止める。

「怖い?」


軽く睨み付けられた。
じゃぁ、そんなこと気にできないくらいにしてやろうかと口付けた矢先、舌を差し込ませると組み敷いた小さな体が震える。今まで俺は酒を飲んでいたんだから、チャイナも酔ったりするんじゃないか。
あぁ、でもその前に必死に俺の名前を呼ぶ高い声に体が熱くなる。こんなんだったら捕らえた彼女に息なんかさせてあげられないかもしれない。



猫かぶりの陰謀













沖神+銀or兄で甘々微裏とリクエストしていただきました向日葵様に捧げます!何時もながら微裏じゃない微裏なんですが´ `
沖田がガッツキすぎなんだよな、うん。
今回は酔っ払える銀さんに登場させました。おまけにマヨ方さんもひどい扱い←書く度に全然リクエストにかなっていなくて申し訳ないですっ!コメントもすっごく嬉しかったです(^^)
ありがとうございました!

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