沖田くんと神楽ちゃんって仲いいけど付き合ってるの?
いつも一緒にいるよね?
家近いんでしょ?
もしかして神楽ちゃんって沖田くんのこと…
その言葉を、私は全力で否定しよう。喧嘩ばっかりだけど仲が良い(もしくはそう見えるのは)、十何年も一緒に過ごしてきたからだ。幼稚園も小学校も中学も高校もずーっと傍に居続けて、只単に家が隣で、気があって、運がよくてクラスも一緒、
俗にいう幼なじみって奴だ。
「神楽ちゃんは、告白とかしないの?」
信頼なる姉御の言葉に、お箸の動きも口の動きも止めそのまん丸い瞳を食い入るように見てしまった。
「…まさか。」
小首を傾げる彼女にならったように茶色のポニーテールが揺れる。
私が、アイツに、あのサドヤローに、告白?
「そーごに告白なんて、この前勝手に冷蔵庫の牛乳飲んでごめんなさい、くらいヨ。」
あらそう?
隙のない笑みでニコリと微笑まれた。
「沖田くんとは言ってないんだけどね。」
さすが姉御。目敏い。
少しだけ吹き出しそうになるのを堪える。だってこの質問も何回も繰り返されてるわけで、私の神経もこの質問において衝動的になることを覚えてきつつあるのだ。
しかし冗談抜きで、私とアイツがそんなフワフワした雰囲気になったことはない。小学校の保健の授業で初めて男と女の違いを教えられた時でさえ何とも思わずに、笑い飛ばしたし。だって元々が体をはった喧嘩ばっかりな関係だ。
総悟の攻撃を私が受け止めて私の攻撃を総悟が受け止める。誰にも出来ないことがお互い出来て満足で。それ以外は考えようとしなかった。
それがどうだ。
中学に入ってから私はアイツにグングン身長を抜かされて、拳を受け止める掌は大きくて、力も更に強くなってきて気も抜けない。おまけにあんなに整った容姿のおかげで、あいつの傍には視線をおくる可愛い女の子が沢山居るようになった。加えて高校生となればお年頃。なんだかおいてけぼりになった気分は拭えないのも事実。
つまりは、アイツが私にそこまで構う必要はなくなってきつつあるってことで。
「神楽ちゃんはまず一杯考えましょうね?沖田くんのこと好きかどうか、自分で。」
姉御は凄く大人だ。
促しながらも押し付け足りはしない。猶予をくれる。けれど、それは私と彼女の時間内でのことだというのも忘れてはいけないんだと。
いつ、総悟が私の隣から居なくなるかなんてわからないけれど。
だれが、アイツの隣に並ぶかも想像できないけれど。
それでも、私が並ぶにはひどく不恰好でしかない。
口の中に箸を進めながら、睫毛の長い二重瞳に言ってやった。
「ぜったい無いネ。」
心臓がキュッと萎んだような感覚が起こるけれど、私の中では精一杯のフルボリューム。
繰り返すように言っても胃の辺りが重くるしい時、掻き消すように、呑み込むように名前が呼ばれたことにハっと気付く。顔をあげるとすぐ目の前に、噂のアイツが私を覗き込んでいた。一瞬で教室は消えてしまった。
「神楽?腹いてーんかィ?」
紅い紅い瞳と視線が合う。
コイツは馬鹿だ。
仮にも私は女なんだからさ、普通に風呂上がりに上半身裸で彷徨くんじゃねーヨと言いたいのである。
姉御も居ない。
勿論クラスの皆だって。
だってここは総悟の家で、あぁならくつろいで当然か。
んなわけねーのである。
ここら辺りが、良く考えれば気遣いの無い親しい中であり悪く考えれば幼馴染みの枠内でしかないのだ。
「ばぁーか、ばぁーか。変態。」
胸の中心で黒くうねるような、とにかく気持ち悪い感情のまま口を開くと、案の定コイツは眉をしかめて舌打ちした。
「馬鹿はてめーだ。犯すぞ、貧乳」
そんな仕草さえ、ずっと一緒だった沖田総悟じゃないみたい。昔はもっと可愛らしかったのに。ソファーの上で体操座りをしている私を見下ろす瞳は知らないヒトのよう。
だけどこいつの中で、私はずっとずっと幼いまま。
悔しくなって唇を噛んで、。
「ヤれるもんならヤってみやがれ。」
ギロッと睨み付ける。
きっとこの後、総悟は凄く困って逆の態度をとる。
だってコイツは天の邪鬼。はんって笑って、私を馬鹿にして、私がその態度に頭にきて何時もどうりに家の中がぐちゃぐちゃになるくらい騒いで…
「なにがあったんでィ」
冷静な声に、はっとなった。
気負けしそうになる瞳にじっと見詰められて、頭が冷水をかけられたように冴える。ただし体は熱い。
私は何を考えている?
少なくとも、総悟をもう幼なじみとして考えなくなっているのではないか。
誰も望んでいないことを考えているんじゃないか。
「…総悟のこと考えるのが悪いことしてるような気がして、たまんない。」
ぼんやりと呟いた。
水滴にまみれた栗色の前髪の奥で光る紅の視界に入りたくなくて、膝の間に顔を埋めたが下ろされた自分の髪が腕で波打つ姿は酷く格好悪いことだろう。
「…かぐら」
普段通りの低い声は世界で一番聞きたくないものかもしれない。ドカッと総悟が隣に座った反動で、ソファーのスプリングは軋み柔らかいクッションが重みを押し返す。私の体も簡単に傾いた。総悟の方には傾きたくなくて、体重を反対へ向ける。否、向けようとした。のに、濡れた腕に止められた。
そして知らないくらい強い力で体ごと引かれる。
「…っ、」
思考停止
とはこのこと。
怪我をした後冷静に対処するように、なんとか頭の中を整理しようと踏ん張る。
私が、
抱き締められてる、
なんて、自分の無い頭ではこんな巨大な因果を考えることは不可能で、更に災厄なことに反比例して額に押し付けられる肩に顔が火照てり始める。
「…いつも一緒に居るだろ。俺とお前」
耳の中に直接なだれ込むかのように、低くどこか頼りなげな声が広がった。
じわりとTシャツが、水滴をすいとる。真新しい石鹸の香りに心拍数は上がる一方だ。
「登下校とかさ、夕飯もどっちかの家で食って、母さん達が帰ってくるまでこうやっていて。
土方のコノヤローに言われたんでィ。」
「…なんて?」
改めて声を吐き出せば固くて、私が総悟に緊張しているなんて初めてあった幼稚園以来だった。
「まるで、恋人みてぇじゃねぇかって。」
しん、っと部屋が静まった。
「…そんなわけ、無いアル」
必死に紡ぎ出すも動揺はありありと浮き出ていることが自分でもわかる。行き場を無くしていた掌を総悟の肩にかけ、少しだけ力をいれる。すると簡単に体を離してくれた。
「俺もそうおもう。」
「…は、はぁ?」
強い口調で呟かれ、すっとんきょうな声が出るのも仕方ないだろう?
こいつ、今までで一番自信たっぷりな声音と態度だ!
「おっまえ、私を馬鹿にしてんだロ!誰と賭けやがったアルカっ」
「ちげぇよ。
だけど俺は、そういうのお前だけでいいっていってるわけ。わかるかぃ?くそチャイナ」
「わかるわけないだロ。そういうのって何ネ?何で皆私がわかんないことばっか気にするアルカ?顔だけいいクソサドと幼なじみですけど何か?傍に居たいから一緒に居るに決まってんだローがバカヤロー!」
「そ。つまりはそんな感じでィ」
ニカッと総悟が笑ったのを私は眉を潜めて見る。こんなの滅多に見せないくせに。私は悪戯っこの笑い方が今も昔も悔しいくらい好きみたいだ。
そう好き。
…好きって、私の中じゃ『傍に居たい』と同等の扱いになるのは気のせいだろうか?
そんなこっ恥ずかしいことを今、まさに口にしたのは私自身。
「…忘れて。今の言葉。」
「やだね。」
「…!好きじゃない!お前のことなんか大っ嫌いだかんナ!」
「嘘つき。」
肩口に強い力がかかったかと思うと、そのまま押され、ドサっと…
ソファーの上に組み敷かれてしまった。下で、顔を赤く染めているだろう私を見て満足そうに微笑んだ。
「ずっとおっかしーなぁとは思ってたんでィ。隣に居てもウザくねぇ。最初は慣れか、テメーの成りがちっせぇからだと思ってたんだけど」
「お前は私をなんて眼で見てるアルカ!」
にやり、と端正な顔が電球の逆光のもと影を讃えて意地悪く微笑んだ。
「いざ居なくなると、探しちまうんだよなァ」
「…っ、」
反則だ。
ぜんぶぜんぶ。
こんなに体格差を見せ付けられたら嫌でも私が女だと理解させられるじゃないか。私の方が強いのに、そんな眼の中にいると逃げられないなんて思ってしまうじゃないか。
「俺らってこんな風にしたかったんだよな?ずっと。」
「…随分と強気アルナ。」
「大丈夫。お前も同じこと思ってるから。」
かと思えば、今度は今までで一度も向けられなかった優しい色にほだされてしまう。細い指先が頬をそっと撫でる。
それだけでも、私は縮こまらせてしまう。
馬鹿みたいに静かに見つめられて…
「好きだ。」
拒否権までも無くしてしまうなんて、とんだ策略家だ。
でもやっぱりフワフワした雰囲気なんて似合わないみたい。いきなり服の中に侵入してくる無骨な手を押さえ込むことなんて簡単なんだけれど、降り注ぐ口付けに言葉を無くした今声なんてくぐもったものしかでなくて、 栗色の髪先から首筋を伝い降ってくる水滴に溺れてしまえばいいのになんて、
milk拝借御免
(なにソレ)
(なにって告白アルヨ)
(…まだ逃げるつもりかィ?)
ひよりさんに捧げます幼馴染み沖神ですが、微裏とのリクエストを頂いていたのに全くといっていいほどそういうシーンが見当たらないのはきのせいではありません´`まことに申し訳ないです!
も、きっと沖田は普通に神楽いないと駄目な奴というどっかの漫画にありそうな(部下がいないとダメなボス)そんなのでいいと思います←
こんなにグダグダな奴ですがひより様、リクエストありがとうございました!