*基本会話
午前0時。
昨日と今日の境目。
その僅かな間に、何かがあったら、あったとしたら、貴方は何があると考える?
もしかしたら、未来や過去に繋がっているかも知れないし、別世界への入口かも知れない。
考え方は千差万別。答えの数は無限大。
さあ、どうしますか?
針の穴程もない隙間に、貴方は飛び込む?怖気付く?
まぁ、結局貴方の考えはどうでもいい。
現状を打破するには、こちらに来るしかないのだから…。
「で、アンタ結局なんな訳?」
「いや、だから」
「ミカミさんの気紛れで連れ込まれちゃった哀れな子。……だぁよね?」
「あ、哀れ…」
「それ、答えになってないじゃない!」
「いやいや。十分なってるよー。つまりは迷える子羊ちゃんてことっ」
「こひつじ…」
「余計分かんないわよ!迷える子羊って何。迷子なわけ!?あ"?」
「ひぃっ!?」
「こぉら。女の子が般若みたいな顔しなぁーい。」
「誰が般若だ!」
「うーんとね、説明すると、この子は時の迷い子なんだよ。」
「時の迷い子ぉ?」
「そう。何か今に不満があって、それを解消出来ずに停滞しちゃったせいで、置いてきぼりにされちゃった迷子ちゃん」
「また、面倒臭い…。おい、アンタ」
「ふぁはい!?」
「アンタ本当に迷い子って奴なわけ?」
「え、えぇっと」
「あー。ダメダメ、イズチちゃん。その子はなんにも分かっちゃいないよ。そもそも自覚があったら迷わないでしょー?こんなとこ」
「まぁ、何にもないしな」
「ソファーと机とランプしかないもんねー。他はその時々で変わっちゃうしぃー。」
「あの」
「本当つまんないよねー」
「あのう!」
「て訳で暇潰しに付き合ってよ、子羊ちゃん。」
「ふぇえっ!?」
「んなことより、さっさと追い返してよ。人間臭い」
「臭っ?て、え?人間臭い?」
「んぅ?あぁ、ごめんね。僕ら人間じゃないんだ。」
「へ?」
「なんて言ったらいいかなぁー。幽霊、とか?」
「ひっ」
「っな、そんな気色悪いのと一緒にすんなあぁあっ!
」
「はいはい、大っ嫌いな幽霊なんかと一緒になんてされたくないよねー。ごめんねぇ?」
「っ!?いや、怖くなんかないぞ。怖くなんか!」
「怖いなんて一言も言ってないし。可愛いよねぇー。男勝りなのに、中身はちゃあんと女の子。…こーゆうのなんて言うんだっけ?あ、ギャップ萌?」
「萌とか言うなぁっ!お前はいつもいつも変な知識ばかり身に付けてきて…っ。」
「あはははは。漫画とかアニメとか面白いんだよー?今度一緒に」
「断る」
「うっわ即答。…じゃあ子羊ちゃんも困ってるみたいだし、話戻そっかぁ」
「……」
「子羊ちゃん?」
「…イ、ズチさんて」
「あ"?」
「っ!」
「こぉーら、苛めない」
「はぁっ?苛めてなんか」
「幽霊、お嫌いなんですか?」
「…………は?」
「こんなに可愛いのに…」
「え、と。…子羊ちゃん?」
「はい、何ですか…?」
「こんなに、てどういう事…?」
「つか、膝の上で撫でてるのは何だ!」
「あ…。見えません、よね…」
「いやいや、見えるとか見えないとかじゃなく、何もないからね?」
「…可愛いのに」
「あ、そんなしょんぼりされるとなんか罪悪感」
とはいえ、小さな溜め息を吐きながら、膝上数十センチを撫でる姿は異様の一言。
まるで、それが当たり前とでもいうようなのだから驚きだ。他人が見たらどう思うかと、考えないのだろうか。
自分も異形な訳だから人のことは言えないのだが。
「……もしかして、何か居たりする、のかなぁー?」
「………っ」
「はい。…やっぱり、見えないですよね…。すみません」
「あぁ、いや、謝る事じゃなくて。……子羊ちゃんて、そっち系の人…?」
「そっち、とは…?」
「あれだよ、あれ!見えちゃうとか言ってる奴らっ!
」
「うん、まぁ、ようは霊感とか持ってる人…?」
「……。」
「……。」「……。」
「………はい、多分。」
頷いた瞬間、女性の方が凄まじい勢いで立ち上がった。怖い。先程とはまた違う、恐ろしい顔をしている。怖い。元が美しいから、尚更恐ろしい。
金糸を背に棚引かせ、猛然と何処かを目指して走りだす。怖い。そちらもこちらも、闇しかないのに。
結局女性は男性に捕まり、元の位置に座りなおしていた。俯きながら何かぶつぶつと言っている。怖い。
幽霊よりも貴方の方が恐ろしいと思うのは私だけなのだろうか。怖い、怖い、怖い。
「あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない………」
「はいはい、ちょーっと落ち着こうねー?」
「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない」
「ありゃ、こりゃダメだぁ」
「だ、大丈夫で、すか…?」
「ひいぃっ!」
「っ!」
「よ、寄るな。触るな、近づくな…!わた、私はそんなもの、認めないぞ!」
「いや、もう全身で認めちゃってるよね。同じ事2回言ってるし」
「うぅう煩ぁあいっ」
「ガッタガタに震えすぎて、呂律が回ってないよぉー?」
「煩ぁあああいぃっっ!」
「………放っておくしかないみたい」
「い、いいんですか…っ?」
「大丈ー夫。イズチちゃん、基本図太いから。そのうち帰ってくるよ」
「………。」
「で、膝の上に居るっていうそれ。なんなの?」
「…え、と…何だろ…?」
「え。言い表わせない程奇怪な容姿なの?」
「そういう訳ではないんですが…。何と言ったらいいか、羊のもこもこに鹿の角。ウサギの耳に、馬のしっぽ」
「……キメラみたいな?」
「恐ろしくはないですけどね」
「……どういう事何だろ…。幽霊同士の合体?…うわぁ、想像したくない」
「あり得ないあり得ないあり得ない…」
「まだ言ってるし。…因みにさ、そいつって最初から此処にいたのかなぁ?」
「…みたいですね。ミカミ、さんが1人でいた時から居る古参のものだって」
「…えぇっ?じゃあ僕らより長いわけ…っ?」
「はい、ずっと居たって。だから、貴方の名前も分かる。…ヤサカさん、ですよね。」
「……わぁー、今ぞくっとしたわ。本当に居たんだ」
「なんなら姿も見てみるか、て言ってます」
「そんな能力あんの」
「…らしい、です」
「じゃあ」
ぽん、と何かがはぜる音。
ふわりと揺れる薄桃色の雲を見て、急に意識が浮上した。
これは何だ。次に気になるのは先の音源。恐る恐る顔を上げると、黒い瞳とかち合った。どういう事なのか。
羊の膝の上にはこれまた羊、のようなもの、が乗っていた。
「…何、こいつ」
「お。帰ってきたぁ」
「で、なんなわけ?」
「さっき話してた幽霊クン。いや、ちゃんかな?」
「角の形から見て、多分、男の子じゃないでしょうか…」
「だって」
「……。」
「あれ?またどっか行っちゃったー?」
「行ってない。」
「お」
「行ってない、けどっ。」
「やっぱり、怖いんだねぇー」
「……。」
「ま、震えてないだけマシじゃない?」
「……。」
「…あ、あの」
「ん?どうかした?」
「……えっと、結局、貴方達は何なんですか…?」
「………」
「……」
「あー。…そういえば、忘れてたね」
「…それどころじゃなかっただろう」
「うーん、僕らはね、なんていうか……思念体とでも言えばいいのかな」
「…思念体、ですか」
「そう。いろんな人の感情とか願いとか、沢山のものが集まって混じり合い、1つになって形を持った。て、感じかな」
「じゃあ、実体は」
「ないよ。基本ね。…まぁ、頑張ればつくれなくもないんだけど」
「疲れるな」
「うん、疲れる」
「そうですか…」
意外とあっさり流された。霊感があるから、特異な事には慣れているのかも知れない。
しかし、あまり慣れすぎると実生活に支障をきたすのではなかろうか。そこまで考え、漸く気付いた。
「ねぇ、ものすごーく今更なんだけどさ。」
「何?」
「…はい。」
「子羊ちゃん、早く元の時間に帰らなきゃいけないんじゃない?」
「あ」
「…ぁ」
「……ヤバい。完全に忘れてた。」
「途中から妙に馴染んでたもんねー」
「呑気に下らない話をしてる場合じゃないじゃないか!」
「下らなくはないけどねぇ。大問題だし。」
「黙れ、話の腰を折るなぁっ!」
「ひっ」
「怒鳴っちゃ駄ー目。子羊ちゃんが怯えるでしょー?」
「そんな事はどうでもいい!羊、アンタさっさと帰れ。面倒なことになる前に!」
「あ」
「どうでもよくないし、帰れって言われても、帰り方が分からないだろ?」
「なら、帰り方教えて突っ返せ!」
「横暴だなぁ」
「何だとっ?」
「前にも同じような会話してるし…。ともかく、子羊ちゃんの悩みを解決しない限りは戻れないよ」
「……悩み、ですか…?」
「あぁああ、面倒臭い!」
「イズチちゃんちょっと黙ってて」
「なっ!」
「それで、子羊ちゃんは何か悩みはある?…まぁ、あるから此処に居るんだけど」
「悩み……」
「急に言われても分かんないかぁー」
「す、すみません」
「早く考えろ。じゃないとアンタだって困る羽目になるんだからな!?」
「困る羽目…?」
「あんまり此処に長居し過ぎると、帰れなくなっちゃうんだよねぇー」
「…っ。そんな…!」
「だぁかぁらー、さっさと思い出せって言ってんだろ!ほら!」
「ひっ…え、えっと」
「急かして何とかなるものじゃないでしょ。落ち着いて考えていいからね」
「は、はい………え?」
「どうかした?」
「あ、と…この子が帰してくれるって…」
「は?」
「どうやって…?」
「今から見せる、と」
暫らく静かにしていて欲しい。一言伝えて、急に膝の上から動き出す。
身体を震わせる度、何処からか先程のものと似た、雲のようなものがわきだす。違っているのはその色のみ。可愛らしい桃色は、混じり気のない黒になっていた。
ゆっくりと周囲を取り巻き、闇に同化して増殖していく。気付いた時には視界は黒に染まっていた。
不意に目が覚めると、そこは家。
数十分のことのように思えた時は、しかし、時計を見る限りほんの数秒だったらしい。
午前0時。あれは、ひどく短い夢だったのかもしれない。
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私にしては長くなったので、最後は無理矢理締め。何時か直したいな…。実はこれ、友人への即席誕生日プレゼント。こんなの送り付けてごめんね…(´`)またちゃんとしたの渡すから;