翡翠と泰継
2010.06.10 Thu 13:32
「翡翠、お前はなぜ、やたら神子に触れたがるのだ」
「おや、冷静な泰継殿が嫉妬かな?」
「質問を質問で返すのは、感心しない。答えろ」
「答えなど決まっているよ。私の白菊は、思わず触れたくなるほど、愛らしい。それだけだよ」
「神子はお前のものではない。白菊でもない。神子は、神子だ」
・・・・・・・・・
「ふ、二人とも!喧嘩はだめですよ!」
殺気立つ二人に、焦った様子で翡翠の腕の中から叫ぶ。
花梨の声に、翡翠はますます抱きしめてくる。
「心配しないで白菊。君の前で、無粋なことなどしないさ」
「あっ!ひ、翡翠さん、くっつきすぎです」
「神子を離せ」
恥ずかしくてもがく花梨を、今度は泰継が引き上げ、肩に担ぐ。
「女人を荷物のように担ぐものではないよ」
「神子、帰るぞ」
「は、はい・・・あの、落とさないでくださいね」
担がれた花梨が不安げに言えば、泰継は柔らかく笑う。人形めいた貌が、人の色を帯びた。
「安心しろ。落としはしない」
抱え直して、淡い茶色の髪を耳にかけてやる。花梨は目尻をポッと染めて、目を伏せた。
「妬けるねえ」
いつの間にか背後にいた翡翠が、花梨の髪に口づける。今度は耳まで赤くした。
心臓に悪い男達に囲まれて、花梨はただため息をつくしなかった。
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