亡者は闇の片隅で恋をする
 2010.06.07 Mon 18:45
ザハク&シャリ&女主



漆黒の闇の褥に彼女は深い眠りについている。体を丸めて赤子ように無垢な顔で。
ザハクは彼女の側に浮遊し、目覚めの時を待った。
教会から連れてきてから彼女は眠りについた。緩やかに闇に堕ちた清らかな魂は、新しい魔人として生まれ変わろうとしているのだ。ザハクはその瞬間を見たいと思った。ただ、彼女の精神は完全に闇に堕ちてはいなかった。
青い髪にザハクの白い指が絡み、優しい水流のように滑っていく。時間など意味を成さない闇の空間で、どれほどそうしていただろう。


スパルチュア。


闇の奥から虚無の子の声がした。そしてにゅうと少年の手が伸びて、彼女の上に現れた。
ザハクは虚無の子――シャリに関心を示さず視線もくれてやらない。


「探したよ、スパルチュア。こんな所にいたんだね。それにしても、半身を光に置いたまま闇に堕ちるなんて、器用なことをするよね、君」


シャリは眠っている彼女に語りかけるが、当然返事はない。代わりにザハクが顔を上げた。


「ザハク、君もさ、半端に僕のスパルチュアと関わろうとするのやめてくれる?」
「虚無の子が人の子に執着をみせるとは滑稽な」
「僕は君みたいに愛情の出し惜しみしないもんね」


シャリはザハクを鼻で笑い、宙をくるくる回っておどける。魔人は珍しくシャリの台詞に怪訝な表情になった。
魔人にとって愛情など取るに足らないものでありからだ。人が闇に堕ちる要因になりえても、己が抱くことはなく、極めて徒労な感情。


「気付いてないんだ?アハハ!君の方がよっぽど滑稽だよ!」


闇の中で舞うシャリに殺気立つ。しかし彼はひとしきり笑った後に魔人を見下ろした。


「ザハク、君はスパルチュアを愛している」

「愛?下らぬ。徒労だ」

「その徒労な感情を、君は持ってしまったんだよ。ねぇ、君がここにいなくったって、彼女は新しい魔人として目覚める。なぜ側にいるの?彼女を見ていたい。触れたいと考えたからじゃない?その欲求がどこから来るのかわかるかい?すなわち、恋で、愛だよ」


嘲りと哀れみを合わせた言葉にもザハクの心は動かない。己を突き動かすのは、決してシャリではないからだ。主人である破壊神かあるいは己自身だけだ。
しかし、シャリは構わず語り続ける。


「君がどんなに想っても、彼女は手に入らないよ。彼女の心はヴァシュタールが持っていったからね。ザハク、君はスパルチュアに恋したと同時に失恋したのさ」

「黙れ」

シャリはすいと少女に近づくと、その薄い唇に口づけた。愛おしむように、指で白い頬を撫でる。

「僕は、君に叶わぬ恋をしてる。でもいいんだ。永遠に続く恋慕でも、時折、僕を気にかけてくれれば」

無償の愛とも呼べるそれは、ひどくはかなげで、少女は答えない。
亡者同士の恋ような。
ザハクはそれから言葉を発することなく、闇に溶けて消えた。

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