♀人修羅&ライドウ
 2010.03.27 Sat 00:55
(舞台は大正帝都。♀人修羅は先天的。ライドウの真名は「光也」です。)






 見慣れない悪魔がいる、という依頼が鳴海探偵社に舞い込んできた。
 得体が知れないため、仲魔や自分のコンディションを万全にして臨んだが、対象はかなり力の強い悪魔であった。しかも随分気が立っていたらしく、会話の余地もなく、現れてすぐに襲い掛かかられた。仰向けに倒され、上に体重をかけてのしかかった。

「光也!」
「騒ぐな!逆らったら喉を掻き切る」

 ゴウトが毛を逆立たせて叫んだが、自分はそれに答えることはできない。黒い紋様が入った細腕で顎を押さえられ、喉には鋭い爪を突き付けられていた。

「お願い。静かに、して・・・」
「?」

 血の臭いがする。そして変に息切れしている悪魔は、苦しそうだった。

「怪我を」
「ちょ、喋るなって言って――」
「怪我をしているのか?」
「・・・はぁ、話聞いてないし。もう、いいわ。帰って」

 呆れたように体の上から退くと、手をひらひらさせた。よく見ると脇腹に大きな獣に引っ掛かれたような、赤い筋状の傷があった。上級悪魔でありながら治らないのは、恐らく毒が含まれているからだろう。

「これを」
「え?」

 解毒符と傷薬を差し出した。悪魔は不思議そうに金色の目を瞬かせるだけで、受け取ろうとしない。不信、というより戸惑いの表情だ。

「毒に犯されているのだろう」
「う、うん」
「これを使えば治る。だから使え」

 その手を取って、強引に握らせた。柔らかくて、紋様が入っている以外は、なんら人間の少女と変わらない手だった。

「また来る」
「あの、ありがとう」

 小柄な少女の悪魔は、踵を返す自分に礼を言った。その声に少し振り返り、会釈をして立ち去った。



「いいのか?放置して」

 帰路の途中、ゴウトが確認してきたので頷く。

「かなり強い悪魔ですが、性格は穏やかで無益な戦闘は好まぬ様子。自分を襲ったのは、付け込まれぬよう牽制したのでしょう。しかし縄張りの問題がありますから、また様子を見に行きます」

 報告書に記す内容を考えながら答えて、先程の悪魔を思い出す。
 外見は自分と同じくらいの少女。全身に黒い紋様、その縁取りは淡く光っていた。綺麗だな、と純粋にそう感じた。
 彼女に再び会えると思うと、胸の鼓動が一度どくんと鳴った。






end

2010/02/25

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