氷の城
「ありの〜ままの〜ふふふん、ふふふふ〜ふ〜ん……」
最近の私は氷の城作りに精を出している。
別に、本物を作ってるわけじゃないけど。
スマホのゲームアプリに「まーいんクラフト」ってのがあって、ハマってしまった。色んな種類の立方体、土とか岩とかレンガとか、ガラスとか植物もあるんだけど、それらを組み立てて世界を作る、仮想のブロック遊びだ。それには、サバイバルモードというゾンビとかが出てきてやっつけながら世界を作るモードと、ただ、作るだけのクリエイティブモードがある。私が気に入ってるのはクリエイティブモードだ。サバイバルだと、とろい私は一瞬でゾンビにやられて、手持ちの材料を全部失ってしまうから。落ち着いて遊びたい私はクリエイティブしかやらない。
でも、ゲームにお金がかけない主義の私は、これらを体験版でやっている。数分に一度、30秒程度のCMが入ってしまうのが難だ。イライラするが、その間は待つしかない。そんな中で、大物を作っている。
それは、氷の城。
なんでそれを作ろうかと思ったかは、忘れた。適当にブロックを重ねてたら、氷が綺麗で涼し気だったからじゃないだろうか。とにかく、時間をかけて丁寧に作っている。パートに行く電車の中、家事の合間、子ども達が寝静まってから、深夜までかけて。凝り始めると止まらない性格なんで、雪の女王が出てくるディズニーのアニメの動画を見ながら、リアルに再現しようと研究もした。
そして、それは今日完成する。最後の地下室を整備すれば、完成。
これ、誰かに見せたいわ。旦那に見せたら、家事さぼってたんじゃないかって思われるかしら?子供たちに見せたら、ハマって勉強しなくなるかしら。私の子だから、絶対だめだわ。
あ、そうだ、これを動画にしてYouTubeにアップしちゃおうかしら。
そんな事を考えながら、パートへ行くための身支度を整えて、家の鍵を閉める。最寄りの駅まで5分、早くスマホを開きたくて、いつもより早足になる。改札を抜けて駅のホームに立ったところで「まーいんクラフト」を起動。
さてさて、最後の地下室の床の岩を平らに整地しましょ。まずは、全体を2ブロック掘っていこうかな。それから、氷を敷いていこう。
ブロックを削るときは、それを指で少し長押しすると気持ちの良い砕け方をする。手元が狂って余計なものを削らないように、夢中になって岩を掘り進める。
「1番ホームに〜、〇〇線○○行が到着しまーす。白線の内側にそって……」
あ、電車がくる。
あとちょっと、この角のところだけ削っておきたい……
「あっ、」
床の底に穴が開いて、オレンジ色の光が見えた。
掘り過ぎた!マグマが出た!ヤバイ、塞がないと、城が駄目になる。急いで補修しようとするけど、今持っているブロックは岩だ。全くマグマの勢いを止められない。ドロドロと広がるマグマが床全面を覆いつくそうとしている。そして、周りのブロックに燃え広がっていく。
「あっ、ぎゃーーー!溶ける!」
慌てて氷ブロックに持ち替えて、マグマを固めていく。落ち着いて、落ち着いて。
なんとか消火したが、被害は大きかった。地下と1階の舞踏会ホールが壊滅状態だ。ため息をついて顔を上げると、電車はもういない。
乗り遅れた……遅刻だね。あと、ホームにいる人の視線がちょっとだけ痛い。大きな声出したかしら。少し、ゲーム自制した方がいいかも。
私は反省した。
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