僻み


 

暖かい日差しと清々しい風が、ふんわりと窓のレースをふくらませる午後。
  私はふたつ年下の妹と、2階の子供部屋で塗り絵をして遊んでいた。
  畳のうえで頭を寄せあって、色とりどりのクーピーペンシルを動かしていた。
  ガチャ
  玄関のドアの音がした。
  (お母さん帰ってきたのかな)
  私は一瞬階下を気にしたが、再び色を塗りはじめた。妹はクーピーを動かすのに没頭していて気づいていないようだ。
 ドスン
  木造の階段の下のほうで音がした。妹もやっと気づいたようで、私たちは顔を見合わせた。
  ドスン、ドン、
  重い音が続いた。
  (お母さんじゃない…)
  私たちは開け放たれた部屋のドアのほうから目をそらすことができない。
  ドン、ドン、ズダダダダダ
  いきなり音が加速して、ドアから黒い大きな塊が入ってきた。
  私たちは叫んだが、体がすくんで動けない。
  黒い塊は、真っ直ぐ私のほうに向かってきた。そして抱えられたのだろう。私の視界がグラリと部屋を回り、頭から大きな布袋に押し込められた。同時に男のすっぱさと、生臭ささを感じた。殺されちゃうんだ、という恐怖が瞬時に浮かび、さらにもっと恐ろしい事に気がついた。
  (はるちゃん!)
  妹は逃げただろうか。お願い、逃げて、逃げて。
  私の願いは届かず、妹の叫びが響いた。
  「きゃああああ、きゃあああああ、ぎゃあっ」
  妹の鳴りやまない叫びのなかで、布を裂くような音、獣の息づかい、そして、何かをぶつけるような音と震動が伝わってくる。
  「ぎゃああああ!やめろっ!やめろっ!はるちゃん!ぎゃああああ!」

  自分の叫びで目が覚めた。
  この夢を見るのは何年ぶりだろう。少なくとも、15年はたっている。
  私は幼いころから分かっていた。美しい顔立ちも、愛らしさも、両親からの愛情も、すべて妹に劣っていると。だから、いつだって選ばれるのは、可愛がられるのは妹だと。犯罪者にだって、私は選ばれない。そんな心の底にあるのは、嫉妬なのか。醜い、穢らわしい夢だ。
  それでも、夢の中の私は本気で妹を案じ、恐怖し、代わりに死にたいと思った。守りたかった。目が覚めても、自分の心の汚さのせいで妹をひどい目にあわせたような後悔という恐怖で、涙が止まらなかった。



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