嫌な手紙
「冬ぐもり いやな手紙をだしてきたぬかるみ」
「え?」
「好きな俳句なんだよね。作者がね、北海道で有名なラーメン屋と同じ名前」
「ふーん」
女ふたりでこんな時間にスペイン居酒屋のカウンターにいるのには、訳がある。
単純に合コンが不発だった。
チェックのシャツをパンツにインした、眉毛の濃いメガネの男や、今では全く思い出せない印象の無い男、でぶ。
彼氏持ちの後輩ひとりを無理やり連れてきて挑んだにしては、悲しい展開だった。
料理が揃うやいなや、3人の女たちは大食いクイーンのごとく、噛み飲み込み、合コンはお開きになった。
後輩は、彼氏の元へ口直しデートに行ってしまった。
残された由佳と直美は、たまたま通りかかったスペイン居酒屋で飲み直すことにした。
満腹の腹に、オリーブのマリネを一粒ずつ押し込みながら、甘いサングリアを舐める。
汗をかいたグラスの下は、びちょびちょに濡れて、グラスを上げるたびに滴がぽたぽたとスカートの太ももにシミをつけるが、ふたりは気にしない。
からころと、まだ大きな氷の音を楽しみながら、それぞれにスマホをいじっている。
「いま、たぶん一番いやな手紙を書いてみたよ」
直美は送信のボタンをタップすると、スマホをカウンターに置いてサングリアのグラスの下をおしぼりで拭いた。
「えー、なにそれ」
由佳はFacebookをすごい勢いでスクロールしながらチェックしていたところに、メールの着信が来た。
「おぅ?」
スクロールバーからメールを開くと、直美からだ。
【この前の合コンと、おとといのランチ代、9288円 はーやーくーかーえーしーてー】
「これ、確かに、いやな手紙だわ・・・・・・」
「ふっふっふ、やっぱ借金の催促って、ガチだったら厳しいよね!」
「うんー、真剣にメールきたらビビるかも」
由佳は苦笑いしながら、バッグに手を伸ばした。
戻る