※おひさま園での話
※付き合ってます
自分でもよく分からないけれど、唐突に気持ちを伝えたくなったりするときが多々ある。
その気持ちを押さえきれなくて今すぐにでも言いたくて、俺は自室を出た。緑川風に言うと、「思い立ったが吉日」である。
廊下を早足で歩いていく。ひんやりとした床が裸足には少し冷たい。
他の皆は寝たのだろうか。昼間は各部屋から話し声、外ではサッカーボールを蹴る音、廊下はバタバタと走る音でとても賑やかだったのに。
考えに浸っているうちに、自然に俺は目的の場所へついていた。ドアの左側には「緑川リュウジ」とシンプルなプレートに達筆で書かれていた。
コンコン、とノックをすると 少し間をおいて「はーい」と言う声が聞こえた。
「緑川、入るよ」
ガチャリとドアをあけるとそこには先程の声の主がいた
黄緑色の柔らかそうなポニーテール、少し褐色な肌、綺麗な黒色の瞳。毎日見ていても到底飽きはしなかった。寧ろ見つめるたびに愛おしくなるその姿。
「どうしたのヒロト、こんな時間に」
「あ、いやなんとなく。勉強中だったかな?」
「いや、ちょうどいま終わったところだよ」
思わず見とれてしまった。なんだか俺、気持ち悪いな。そう思いながら苦笑いを浮かべていると緑川が背を向けながら
「何か飲む?」
と尋ねてきたので俺は断った。
そういうためにここにきたわけではないしね。
「いいよ。まあ緑川とりあえずここ座ってよ。」
「そう?…っていうかここは俺の部屋だぞ、ヒロトが指図するなよー」
「あはは、ごめんごめん」
口を尖らせながら、緑川はしぶしぶ俺が言ったベッドの縁に腰掛けた。素直で可愛らしい。
「緑川、言いたいことがあるんだ」
俺が突然真剣な顔をしたからか、緑川は驚いた様子で
「えっ、急になんだ」
「好きだよ」
緑川が言い終わる前に、俺は伝えたかった言葉を口にして、抱きしめていた。
ああ、言えた。その安心感と満足感が俺の心を満たしていく。けれど。
「……?」
緑川の応答がない。
不思議に思った俺はそっと抱きしめていた体を動かし、緑川に声をかけた。
「緑川?」
ちょうど真正面に座って顔を見てみれば。
そこには林檎のように顔を真っ赤にした緑川がいた。石のようにカチンコチンに固まっていた。
「…緑川?聞いてる?」
心配だったのでおそるおそるもう一度声をかける。すると、微かに口が動いた。
「な、なんでいきなり…」
声を震わせながら小さな小さな声で言った。反応が初々しくて口角があがりそうになる。落ち着け、落ち着けと自分に唱えて緑川を見る。
一方の緑川は先程よりは顔の赤みもおさまっていて、口に片手を抑えていた。明らかに動揺しているのがわかる。こうしてみると本当に女の子みたいだな、と思った。
しばらく何も言わずに待ってみると、やっと緑川が話しだした
「いきなりなんなんだよ…」
「なんか伝えたくて、抑えきれなくてさ。なんかごめんね。」
「変なの…べ、別にいい、けどさ」
ゆっくりと優しい口調で話した。
緑川もそんな俺に気づいたのだろう。こちらに目を合わせてはくれないが少し距離が縮まっていた。
それに否定をしなくれなかったことに酷く心が踊っている。拒絶などされていたら今頃どうなっていたことか。
「ヒロトはさ…なんでそんな素直に気持ちをいえるのさ」
落ち着いた声で緑川が疑問を投げかける。その答えは迷いもなく言えた。
「気持ちを伝えなくちゃわからないことだってあるだろう?きちんと伝えなくてもやもやしていたらそれが表に出て不安にさせてしまう。嫌なんだよ。そんなこと。…後悔はしたくないんだ。」
そう。俺が「グラン」として「レーゼ」を追放したときのように。本当はそんなことしたくなかった。離したくなかった。
だからもう二度としないって決めたんだよ。
「そっか…」
「だからまた俺が今日のように突然来るかもしれないけど」
「それでも、いいかな」
「…当たり前だろ、俺達、その…こ恋人同士なんだから!」
恥ずかしさを紛らわすために緑川は語尾を強くしながらいった。そっか、そうだよね。俺達「恋人」なんだよね。
「だからヒロト!」
「! はいっ」
「俺もヒロトのことが!えっと、その…好きです」
再び顔を真っ赤にさせながら緑川はいった。
一瞬何が起こったか理解するのに時間がかかって、俺も頬がいつの間にか赤くなっていた。照れている。もう口元は緩んでいた。
「うん、俺もだよ。誰よりも愛してる!」
「ちょっヒロト!くるしっ」
とめどなく溢れるこの感情をおさえることはもうできなくて。俺はさっきよりもっとぎゅっと抱きしめていた。
色褪せないこの想いを君に
*
はりぼて防波堤の御影さんへ。
自分で書いてて恥ずかしかったです´//`ポッ
お気に召して貰えると嬉しいです。
相互ありがとうございました!