「なあ、サスケェ」
うるさい。
「サスケってばぁ〜」
鬱陶しい、黙れ。
「なあなあなあ、無視すんなってばよ!サスケェ!」
「‥‥‥‥‥‥‥うるせぇな。静かにし‥‥っ?!!」
振り向いた先には、信じられないほど近くまで迫った金髪男の顔。
驚いて不覚にも固まってしまえば、気づいた時にはちゅ、と唇に僅かな感触が残っているだけだった。
「へへ。サスケがすげぇ無防備だから、我慢できなくて奪っちまった」
ナルトは悪びれることなく、へらへらと笑う。
しかしそんなナルトに、サスケの中で怒りが込み上げるのは当然のことで。
「てめぇ、殺されてぇのか!!」
「そんな怒んなってばよ〜!そりゃあ、いきなりだったからびっくりするのも分かるけどさぁ」
「そうゆう問題じゃねぇよ!」
「俺、サスケのこと好きなんだっていつも言ってるよな?好きな子にキスしたくなるのは当然のことだろ?」
そう言って何の迷いもなくニカッと笑うナルトの顔は、サスケの記憶にはっきりと残っている姿と何も変わらない。
あのナルトの顔に、間違いないのだ。
それなのに。
今目の前にいるこの男は、自分がよく知る本当のナルトではない。
ナルトが記憶を失ってから一週間が経つ。
とっくに怪我は完治し、ようやく検査も終えたナルトは、明日には一旦退院することが決まった。
検査を進めていくうちに、ナルトの失った記憶は自分の名前と自分と関わりのあった人間に関する記憶のみだということが分かった。
自分が忍であること、木の葉の里に住んでいることなどは、曖昧ながらも少しは記憶に残っているらしい。
忍としての能力もまた、以前と何一つ変わってはいなかった。
「でもこれでついに明日は退院なんだよな〜!やっとこの息苦しい病院から解放されるってばよ!」
「浮かれてんじゃねぇぞ、ウスラトンカチ。退院したってしばらくは監視がつくし、少しでも何かあればすぐにここに逆戻りだ」
「分かってるってばよ〜。でも監視なんて言いつつ要は世話係なんだろ?サスケと一緒に住めるならむしろ大歓迎だってばよ!」
サスケに対して毎日のように好きだ好きだと繰り返すこの男は、どんな時も自分の気持ちに素直で真っ直ぐだった。
そんな彼の姿に、ナルト本来の気持ちを知っているサスケはどうしたらいいのか分からない。
あれからサクラはナルトの担当医となり、一日に何度か様子を見にくる。
記憶のないナルトに本当のことを言えないサクラは、他の同期たちと同じように友人の一人として接していた。
しかし、何も知らないナルトは当然のごとくサクラの前でもサスケへの想いを隠そうとはしない。
それに対してサクラはナルトだけでなく、サスケに対しても何も言うことはないが、たとえ記憶喪失だろうと自分の恋人が他の人間に想いを寄せている姿に平気でいられるわけがないだろう。
ナルトとサクラ。
数週間前までは全てが上手くいっていたはずの二人なのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
「明日の退院すげぇ楽しみだってばよ!好きな奴と一緒に住めるなんてさ、何か同棲みたいでどきどきするよな!」
照れたように満面の笑みを見せるナルトに、サスケは騙されるな、と密かに強く拳を握りしめた。
自分に、言い聞かせる。
ナルト。
お前が好きなのは、俺じゃない。
本当のお前は、俺なんか好きじゃない。
――――――――――
サスケの葛藤と、七班での微妙な三角関係の始まり。