「だから!何で俺がお前なんかと一緒に寝なきゃならねぇんだよ!」
「だって仕方ないじゃん?ベッド一つしかねぇんだし」
「ソファーがあるだろ!これは俺の部屋のベッドなんだ、居候のてめぇがソファー使え!」
「え〜、ソファーなんて寝心地悪いじゃねぇか。そんな小さいベッドでもねぇし、二人で寝たって大丈夫だってばよ!」
先ほどからずっとお互いが譲らないのは、しばらくサスケのアパートで暮らすことになったナルトがどこで寝るのか、である。
サスケは当然のごとく自分がベッドを使うので、ナルトはソファーで寝るのだと思っていた。
しかしナルトは二人でベッドを使うのだと思い込んでいたらしく、寝る時間になって当たり前のように同じベッドに潜り込んできたのだ。
怒ったサスケがナルトをベッドから追い出したことで、現在の口論が始まったのだった。
「とにかく、今日だけはソファーで寝ろ。仕方ねぇから明日、布団を買いに行けばいい」
「布団〜?俺ってばソファーが嫌っていうより、ただサスケと一緒に寝たかっただけなんだけどなぁ」
「はぁ?」
「だってさ、好きな奴と同じベッドで寝れるなんて、こんなチャンス逃すわけねぇってばよ。あ、でも逆にどきどきしすぎて眠れねぇかな?いや、もちろんまだ変なことはしねぇけど!そういうことはちゃんと、サスケの気持ちを確かめてから‥」
顔を赤く染め、ニヤけながらぶつぶつと呟き始めたナルトを、思いっきりぶん殴ってやりたい。
サスケは再び込み上げる怒りを懸命に堪えた。
記憶を失ってから、ナルトが一体何を考えているのかさっぱり理解できなくなった。
自分に対して好きだ好きだと繰り返す言葉を嘘だと思っているわけではないが、記憶を失う前のナルトとあまりに違いすぎるため、今だにどう対応すればいいのか分からなかった。
「‥あのさ、サスケ」
結局、駄々をこねるナルトを無理矢理リビングのソファーへ追いやり、サスケは一人でベッドの中に潜り込む。
寝室の鍵を締め、今度こそ寝ようとしたところで、ドアの向こうからナルトの声が聞こえた。
「‥‥‥、今度は何だよ」
寝ようとしたところを邪魔され、サスケは苛立った声で返事をした。
「今日はまだ言ってなかったなぁと思って」
「?何を」
「好きだってばよ、サスケ」
「‥‥‥っ」
「おやすみ」
「………」
ドアの向こう側からナルトの気配が消え、誰に見られているわけでもないのにサスケは慌てて腕で自身の顔を覆った。
無性に、顔が熱かった。
「あーあ…俺もう元気なんだし、そろそろちゃんとした任務やりたいってばよ…」
「文句言う暇があったら手を動かせ。お前のせいで俺まで一緒に雑用やらされてんだぞ」
翌日、昼が過ぎて暇を持て余していた二人のもとへ、突然火影から呼び出しがかかった。
用件は、ナルトが退院したばかりでもう少し様子見となっているため、暇な二人が資料室の整理をやれというものだった。
「それはまあ悪いと思ってるけどさぁ…。サスケからもばあちゃんに言ってやってくれよ。俺はもうとっくに元気だって」
「うるさい、手を動かせって言ってるだろ。もうすぐ新しい資料をサクラが持ってくる。それまでに今ある資料はさっさと終わらせるぞ」
「………」
サスケがイライラと急かすように呟くと、何故か突然ナルトが不機嫌そうな顔になった。
「?何だよ」
「…あのさ…、前からサスケに聞きたかったことがあるんだけど」
「?」
「サスケって…サクラちゃんのことが好きなの?」
「…は?」
「そう、なんだろ?」
気づくとかなり近くにあったナルトの顔が、じっとこちらを見つめてくる。
まるで、確信しているかのような表情。
「そんなわけ、ないだろ…」
何だかいつもと様子の違うナルトから少しでも離れようとするが、離れれば離れた分だけ距離をつめられる。
「なあ、ほんとにサクラちゃんのこと…恋愛感情で好きじゃねぇの?」
「だから、そう言ってるだろ…」
「でも…サスケってサクラちゃんのことだけいつも気にかけてるよな…?」
俺と一緒の時にサクラちゃんもいると、いつも何だか少し辛そうな顔…してる。
途端に目を見開いたサスケを見て、ナルトの様子はますます不機嫌になる。
「俺、サクラちゃんにも誰にも、サスケだけは取られたくないってばよ…」
そう言って必死に抱きついてきたナルトに、サスケは思わず抵抗を忘れてしまった。
そんなサスケに調子にのったナルトが、今度は隙を狙って唇を奪う。
「サスケ。好き、すげぇ好き…」
「…ナル…っ、やめ…んっ」
深くなっていくキスに、少しずつ抗えなくなっていく自分が悔しかった。
ナルトに好きだと言われるたび、思い出してしまうのは記憶を失う前のナルトだった。
『俺はサクラちゃんを、絶対ぇ幸せにする』
そんな決意を、自分に語っていたかつてのナルト。
ナルトの決意を聞いて、サスケはずっと隠してきた想いを封印した。
そのはずだったのに。
ナルトに好きだと言われてしまえば、結局想いは溢れてしまう。
このナルトは、違うのに。
本当のナルトが好きなのは、俺じゃないのに。
「ナル…ト…」
でももう、駄目かもしれない。
ナルト。
俺は、本当はお前のことが。
そう思い始めた時、不意に聞こえたのはノックの音だった。
「サスケくん、ナルト。この資料も一緒に…」
部屋に入ってきたサクラが、目の前の光景に息をのんで固まったのが分かった。
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ナルトのことが好きな気持ちを抑えられなくなっていくサスケ。
微妙な三角関係、もう少し続きます。