「えぇ!!サクラちゃんいねぇのぉ!!?」


木の葉病院に着くなり、受付でサクラがすでに退勤したことを知ったナルトは、思わず大きな声で身を乗り出した。


「‥も、申し訳ございません‥。順番にお呼びしますので、しばらくお待ちください‥」


「‥‥‥分かったってばよ」

夜とはいえ全く人がいないわけではない中、自分ばかりがあまり無理を言うわけにはいかない。

サクラなら頼み込めばすぐにサスケを診てくれるだろうと思っていたナルトは、がっくりと肩を落とした。



けれどそんな時、見知った声がナルトを呼んだ。


「あれ?こんな夜に受付で大きな声出してる奴がいると思えば‥ナルトじゃない?」


待ち合い室にいるサスケのもとへ戻ろうとしたナルトを呼んだのは、同期のいのだった。


「いの!」


「あんたこんな時間に診察?どっか悪いの?」

あんな大きな声出してたくせに、と訝しむいのに、ナルトは慌てて否定する。


「俺じゃねぇってばよ!サスケがさ、何か体調悪そうで‥」


「‥え、サスケくんが‥?何かあったの?」


「よく分かんねぇんだ。飯食ってたらいきなり気分悪くなったみたいで‥」


ナルトは、家でいきなり顔色を悪くして様子がおかしかったサスケを思い出す。

サスケは基本、何かあってもすぐに強がって人に弱みを見せようとはしない。
もしかしたら、人には気付かれないようにずっと体調不良を隠してきたのかもしれない。


「‥そう‥、それは心配ね‥。いいわ、私がすぐに診てあげる!」


「え‥いいのか!?」


「もちろんよ。ちょうど帰るところだったから、もう仕事はないしね」


多分ナルトの不安が顔にはっきりと出ていたのだろう。
いのは私に任せなさい!と笑顔でそう提案した。


「サンキュー、いの!さっそく診てやってくれ!!」


ナルトは笑顔で礼を告げ、急いでいのをサスケのもとへ連れていく。




しかしサスケはいのの姿を見た途端、突如診察を拒み始めた。


「‥‥診察なんていらねぇ。俺は帰る‥」

待ち合い室のソファから立ち上がり、病院を出て行こうとするサスケの腕を、ナルトはすぐに掴んで止める。


「体調悪そうだから診てもらうために木の葉病院まで連れてきたんだぞ!今さら何言ってんだってばよサスケ!!」


「‥うるせぇ‥。お前がすぐにサクラに診てもらうって言うから‥俺は仕方なく‥、承諾しただけだ‥」


「だからサクラちゃんはもう帰っちまったんだって!その代わりにいのがすぐに診てくれるって言うんだから、それでいいだろ!?」


「‥‥良くねぇよ‥。今は、サクラじゃねぇと‥」


「サスケくん」


不意に、先程からずっと黙っていたいのがサスケの名を呼んだ。


「私もナルトも、サスケくんがどこか悪いんじゃないかって心配なの。ねぇ、どうしてもサクラじゃないと駄目?私じゃ駄目なの?」

私ってそんなにサスケくんから信用ないの?

そんなことを言われてしまえば、さすがのサスケもはっきりと嫌とは言えないんだろう。
困惑した顔で、俯いてしまった。


その瞬間、いのは素早く何かの印を結んだ。

ナルトがどうしたと聞く間もなく、印を結んだいのの指はすぐにサスケの額に触れる。
途端にサスケは気を失い、がくんとナルトの胸に倒れてきた。


「‥え、ちょ、いの!サスケに何したんだってばよ!?」

驚いていのを振り返ると、彼女は満足そうに笑みを浮かべていた。


「軽い幻術だから、少し眠っているだけよ。サスケくんには悪いけど‥なかなか診せてくれそうになかったしね」

さっさとサスケくんを診察室まで連れていくわよ!

そう言って診察室へ向かういのの後を、再びサスケを抱き抱えたナルトが続く。


サスケ‥。


後々目が覚めたサスケにかなり怒られるだろうが、今回だけは許してほしい。

ナルトは抱き抱えた体を、愛おしむようにぎゅっと抱きしめた。









「サスケくんの診察、終わったわよ」


しばらくして、再び待ち合い室で結果を待っていたナルトのところへいのがやってきた。


「サスケは!?やっぱあいつどっか悪ぃのか!!?」

不安そうな顔で急いで駆け寄るナルトに、いのは安心させるように大丈夫よ、と穏やかな声で告げる。


「今はまだ眠ってるけど、命にかかわるような悪い病気じゃないから心配ないわ」


「そっか!!良かったー!!」

にっこりと笑ういのに、ナルトも心からの安堵の笑顔を浮かべる。


「ただ、まだしばらくは今日みたいに気分が悪くなる時があると思うから、サスケくんのことしっかり見ててあげなさいよ?」


「‥‥え‥‥何だよそれ‥、あいつやっぱ悪いのか!?」

再びナルトは不安になるが、何故かいのは笑顔を浮かべたまま大丈夫よ、とさっきと同じように答える。


「‥ほんとに大丈夫なのか!?なぁ、いの!!」


「ほんとに大丈夫よ。あんたもサスケくんに関してはかなりの心配性よね‥。もうすぐパパになるんだから、もっとしっかりしないと!」

まあ、あんたは尻に敷かれるタイプかもしれないけどね、といのは面白そうに笑う。


しかしそんないのの言葉は、もちろんナルトには何のことだかさっぱり分からないもので。


「‥‥パパって‥‥誰が?」


当たり前のように問い掛けたナルトだが、いのはあんた鈍すぎ、とさらに笑った。


「何言ってんのよ、ナルト。あんたしかいないでしょ」


「‥‥‥‥え?」


「おめでと。サスケくん妊娠してるわよ」





――――――――――

いのは、サスケのお腹の子の父親は当然ナルトだろうと思い込んでます。

でも肝心のナルトには、その時の記憶がないので‥。




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