「サスケ、荷物の整理は進んでいるか?」


コンコンという小さなノックの後、部屋に入ってきたのは大学生の兄イタチである。


「‥あぁ、もう少しだ」


「そうか。ここにいられるのもあと一週間だからな、何も思い残すことがないようにしとけよ」


「‥思い残すこと、か」


「ほら前から言ってるだろう?辛いだろうが、友達にはちゃんと別れの挨拶をしときなさいと」


「‥‥あぁ、そうだな」


友達どころか知り合いですらない。

そんな相手に今日、サスケは挨拶でもない自分の想いを告げたのだった。




あの男を初めて見たのは、今年の春。
サスケが朝いつもの電車に乗った時、あの男も偶然同じ電車に乗っていたのだ。

目立つ金髪に、空のような青い瞳。
よく見ると彼が身につけている真新しい制服は、自分と同じ学園の高等部のもので。


別に、自分にとってはただそれだけだった。


それなのに。

何故かたまに電車で一緒になる度、サスケの視線はあの男へ向かう。

大抵は携帯を触って何かをしているようだが、時には寝坊でもしたのか焦った様子でぎりぎり駆け込み乗車をして、車内で間抜け顔を晒しながら寝ていることもあった。

見てて飽きない、変な奴。
自分のあの男への印象はそれだった。


それがいつの間にか特別な想いに変わっていたのだと気づいてしまったのは、本当にごく最近でのこと。

父の転勤が決まり、もうあの電車には乗れなくなる、あの男を見かけることもなくなる、そう実感した時だった。


男で、しかも話したこともないような相手にこんな気持ちを抱くなんて信じられなかった。

有り得ないと思い、何度もそんなわけないとごまかし続けていたが、一度気づいてしまった想いを簡単に消すことなどできず。
結局は素直に想いを受け入れるしかなく、挙げ句にはあの男本人に想いまで伝えてしまったのだ。


『思い残すことがないように』

父の転勤を知った兄にそう言われ、真っ先に頭に浮かんだのはあの男で。
ほんの少しでもいいから、自分の存在に気づいてほしくて。

けれど今思えば、あの男に『同じ男に告白される』という気持ち悪い思いをさせただけの、ただの自己満足でしかなかっただろう。



どうせこれから先会うことなどなく、今さら後悔しているわけではないけれど。


どうして自分ばかりがこんなにもあの男を好きなのか。

そう思わずにはいられなかった。







翌日、帰りのHRが終わるとともにサスケはすぐに席を立った。

サスケは部活には入っておらず、引っ越しの準備もまだ残っている。
早く帰って母や兄の手伝いをしたかった。



しかし校門を出ようとしたところで、サスケは信じられないものを見てしまった。


こちらを真っ直ぐに見つめる、
金髪で、青い瞳のあの男。


「‥‥‥‥あんた‥」


もう会うことはないと思っていた男が、今目の前にいる。


何であの男がこんなところに。

わけが分からないままのサスケのもとに、男は迷わず近づいてくる。


呆然と立ち尽くしていると、男はサスケの前でにこりと笑った。


「ちょっと、いい?」


一体何を言われるのか。

不安を抱えながらも、サスケは無意識のうちに頷いていた。





――――――――――

無意識な一目惚れだったら普通はナルト→サスケなんだろうなと思ったんですが、ここはあえてサスケ→ナルトにしてみました。笑

多分次で終わります!




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